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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第82回

【JSTnews3月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業ACT-X「検査員視覚と調和する透明光熱電撮像ゴーグルの創製」

「透明」なカーボンナノチューブで目視と透視が同時にできるゴーグルを開発

2026年03月18日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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李 恒。中央大学 理工学部電気電子情報通信工学科 助教。東京都出身。2023年東京工業大学工学院電気電子系電気電子コース博士課程修了。博士(工学)。同年より現職、ACT-X研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 対象の幅広さに魅力を感じた

 高校生の頃は野球一筋で、鉛筆を握っているよりバットを振っていた時間の方が長かったです。進路を意識し始めたのは、高校の近くにあった東京工業大学(現・東京科学大学)の存在です。理数系が得意だったこともあり、目指すことにしました。

 その中でも、原子などの目に見えない小さなものから社会を動かす大規模なインフラまで、扱う研究対象の幅広さに魅力を感じ、電気電子工学科を選びました。

 大学入学後は、自由に授業を選べる環境や友人たちとの時間が本当に楽しく感じました。学部や修士で卒業してしまうのはもったいない、もっと大学にいられる道は何かと考えた時に、博士課程への進学、その先の研究者という選択肢が見えてきたのです。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 熟練技師の経験と新技術を融合

 人の目には見えない赤外線やテラヘルツ波を捉えられるカーボンナノチューブ(CNT)という素材を使って、物の内部を「透視」して撮像できるセンサーを開発しています。対象物を破壊せず、内部に劣化や損傷がないか調べられるようにすることで、社会インフラである送電線やガス管などの点検や工場の品質検査に役立つと考えています。

 現在は、CNTセンサーを使うことで、対象物を目視しつつ内部を透視できるゴーグルの開発に取り組んでいます。CNTセンサーの膜は墨汁のように真っ黒な液体から作るため、そのままゴーグルに貼ると何も見えません。そこで私は、混ざり合ったCNTから特定の形と種類のものだけ選ぶことで、可視光の領域で透明な膜の作製に成功しました。さらに、光を集める「金属型」のCNTと電気信号への変換が得意な「半導体型」のCNTを隣り合わせに配置することで、可視光を透過させつつ、赤外線やテラヘルツ波をしっかり吸収できるようにしました。

 今後は実用化に向け、データを画像にする回路の小型化・パッケージ化と同時に、耐環境性能や解像度を向上させたいと思っています。目視に長けた熟練検査技師の経験と最新のセンシング技術を融合させ、新しい非破壊検査の手法を実現することが目標です。

カーボンナノチューブからシールのような透視カメラを作製していく様子。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 夢中になれる人は向いている

 研究者になることは、選ばれた人だけの狭き門ではありません。私自身、大学に入るまで野球ばかりしていました。でも何かに夢中になって「どうすればもっとうまくなれるか」と考え続けた経験は、研究にも通じます。音楽でもスポーツでも、打ち込めるものがあれば、その時点で研究者に向いていると思います。

 私がCNTに出合ったのは、学部4年生で配属された研究室でのことでした。当時はこの素材がセンサーに使える可能性が見つかったばかりで、応用研究はほとんど手つかずでした。学生の私でも、取り組んだことが新しい成果につながるような未開拓の分野に運良く飛び込むことができました。

 研究分野を選ぶ際には、その時のはやり廃りだけでなく、先生方の様子も見ることをお勧めします。生き生きと研究されている先生が多い分野は、自然に活発になります。講義中の余談で目を輝かせて自分の研究を語る先生がいたら、その分野はきっと学生にとっても刺激にあふれているはずです。

わが家のクク(茶トラ・♂)。妹のポポ(三毛猫・♀)と併せて、日々の癒やしです。

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