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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第58回

【JSTnews12月号掲載】さきがける科学人/創発的研究支援事業(FOREST)「先史アマゾンにおける自然共生型生産システムの解明」

アンデス・アマゾン考古学で探る人と自然の共生システム

2025年12月17日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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金崎由布子。東京大学 総合研究博物館 助教。大分県出身。2021年東京大学大学院人文社会系研究科考古学専門分野博士課程修了。博士(文学)。同大学大学院人文社会系研究科考古学講座助教を経て、22年より現職。24年より創発研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 アンデス調査写真に魅せられ転向

 考古学に興味を持ったきっかけは、小学生の頃に夢中になった上橋菜穂子さんのファンタジー小説「精霊の守り人」シリーズです。学校で教わる歴史とは違う、無名の人々から見た歴史の描き方に強く感銘を受けました。同時期に見た映画「ドラえもん のび太の太陽王伝説」では、古代の中南米を舞台にしていて、子ども心ながらロマンをかき立てられました。

 大学には理系で入学しましたが、人類学の授業で先生が見せてくれたアンデス地域の現地調査写真の風景に魅(み)せられ、3年生の進路選択で文学部歴史文化学科に転向し、本格的に考古学の道を歩み始めました。

 考古学は、文字のない時代・地域の過去の姿を知ることができる研究分野です。私の専門はアンデス・アマゾン考古学で、南米ペルーを中心にアンデス地域とアマゾン地域、特にその境界地帯を対象としています。人類が南米大陸に到達した1万数千年前から、15世紀にスペイン人が侵入する前までの人々の暮らしを明らかにすることが目標です。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 人と自然の共生システムを解明

 現在は、深刻化するアマゾンの森林破壊問題に対して、考古学からのアプローチを試みています。20世紀までは、アマゾンの熱帯雨林は手付かずのままだと考えられていました。しかし、近年になって、先史時代の人々は想像以上に多くの人口を支えながら、森林を破壊せず、むしろ管理しながら大規模な農耕をしていたことが判明しました。

 アマゾンの土は本来、酸性で農業には不向きです。しかし先史時代の人々は、何千年もかけて有機物を混ぜ込み続けることで「アマゾニアン・ダーク・アース」と呼ばれる肥沃(ひよく)な黒土を作り上げました。この土壌があった地域では、キャッサバやカカオなどを栽培していた跡や、集落の周りで十数種類のヤシを育てていた痕跡が見つかっています。私の調査地域でもこうした黒土が広範囲に分布しており、これからどんな作物が育てられていたのか解明していくところです。

 研究は、考古学と古気候・古環境学の3つを組み合わせて進めています。最近では、3年がかりの試掘調査の末に、ペルーのミラグロス湖で縞状の堆積物を発見しました。木の年輪のように1年に1層ずつ泥が堆積するこの湖では、驚くほど高い時間解像度で過去の環境変化を追跡できます。今後、ここからどんな発見があるのか楽しみにしています。

今年のフィールドワークで実施した、湖底堆積物の掘削調査の様子です。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 心から惹かれるものを追求して

 私の調査地域は、ゲリラなどの影響もあり、半世紀ほど誰も手を付けていなかった歴史の空白地帯です。どこを掘っても新しい発見があり、2023年から始めた洞窟調査で、アマゾンに人類が到達した最初期段階における生活の跡を発見したことは特に印象深いです。南米における人類史の始まりに到達できたことは、目を疑うような発見でした。

 フィールドワークでは、現地の方たちとの協力が不可欠です。これまでの交流を通じて、自分の研究が対象地域での森林破壊などの社会問題の解決に貢献できる可能性を強く意識するようになりました。

 これから研究者を目指す方には、知的好奇心を大事にしてほしいです。何でもいいので、まず自分が心から惹かれるものを追求してください。子どもの頃に憧れた考古学の世界は想像の100倍大変ですが、その分面白さも格別です。

ダイビングが趣味で、西伊豆に潜った時の写真です。

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