業務を変えるkintoneユーザー事例 第312回
ベテランの記憶を“現場の行動”につなげた笹森産業の2年間のチャレンジ
74歳の職人技を“kintone×評価制度”で共有知に 「背中を見て覚えろ」から脱却する仕組みづくり
2026年06月12日 12時00分更新
「技術は人の身体に宿りますが、そのままでは何も残りません」 ―― と語るのは、精密加工を手掛ける笹森産業の佐々木社長だ。同社のものづくりを支えるのはベテラン社員の職人技であり、74歳の社員も現役で活躍している。一方で、佐々木社長の頭を悩ませていたのが、彼らの「背中を見て覚えろ」という昔ながらの育成方法だった。
サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2026 nagoya」を開催。3番手で登壇した笹森産業の佐々木一恵さん、平山知佳さんが披露したのは、kintoneによる“共有とやる気アップ”の仕組みづくりが技術継承の第一歩になった話だ。
技術は精密だが育成はおざなりなベテラン社員たち
愛知県小牧市の笹森産業は、産業用セラミックス製品の精密加工を手掛けるものづくり企業だ。多品種の開発品を受注するため、現場には社員数以上の機械や測定器があふれているという。
こうした現場を支えているのが、ベテラン社員の加工技術である。60歳以上の社員も現役で活躍しており、最年長は勤続52年、74歳の大ベテランだ。佐々木社長は、彼らのことを、「工場のことも技術のことも何でも知っている。会社になくてはならない仕事をしている人たち」と信頼を寄せる。
ただ、0.001mm単位の加工を手掛ける彼らも、情報の扱いは「全然精密ではない」という。知見をため込むばかりで、組織としての情報共有はおざなり。さらに、育成も「背中を見て覚えろ」という昔気質なスタイルなため、若手は成長する前に辞めてしまい、せっかくの技能や経験値はベテラン勢に閉じてしまっていた。この問題は、間接部門でも同様に起きていたという。
「わが社において情報は、誰かは知っているが、皆は知らないものでした。ベテラン社員たちがいなくなったらどうなってしまうのだろう。このままじゃ会社が続かないという、ものすごい危機感がありました」(佐々木社長)
そこで、佐々木社長が考えたのが、「技術伝承はできなくとも、記録として残せるのでは」ということだった。しかし、現場を見渡せば、紙やExcelとして記録はあるのに十分に活用されていない。
「結局は、記録されていても、共有されなければ意味がない。共有されていても、使われないと意味がないのです。我々に足りなかったのは、『使われる仕組み』だと気づきました」(佐々木社長)
こうした模索を続ける中、佐々木社長は、自ら登壇することになるkintone hive nagoyaに参加する。そこで、「単なる業務管理アプリ」だと思っていたkintoneの可能性に衝撃を受け、すぐに総務の平山さんと勉強会を立ち上げた。ここから社内の情報が“共有され、使われる”仕組みづくりが始まった。
ベテラン社員の技術が詰まった映像をkintoneで“使える情報”に
社長の熱い想いを受け取った平山さんら総務のメンバー。もともと、総務ではベテラン社員の技術を記録するための取り組みを始めていた。
技術を残す方法として「動画を録る」ことに行き着いたが、誰もが忙しく、撮影や編集を総務が担当することに。平山さんらは「加工のことまったく分からないんですが…」と戸惑うも、社長からも「素人向けに作るのだから」と押し切られたという経緯だ。
その後、理解できない動作や数値、社員ごとに異なる表現に苦しみつつも、現場への聞き込みを重ね、何とか動画は完成した。しかし、それだけでは現場は変わらなかった。なぜなら、せっかく作った動画がまったく使われていなかったからだ。
「現場に理由を聞くと、『動画にどこにあるか分からない』『見たい動画が見つからない』と言われました。やはり、見てもらうための仕組みがなかったのです」(平山さん)
ここで、社長が見つけてきたkintoneの出番である。バラバラだった動画をkintone上に集約し、一覧化により視認性を高め、検索機能も実装した。まさに「持っている情報が、“使える情報”に変わった」(平山さん)という。
これを機に動画作成も本格化させた。加工作業の動画だけではなく、図面の見方や用語説明、機械の操作方法など新入社員用の動画も充実させていく。その結果、わずか1年間で150本も動画が増えた。
社員たちにも、指導後の復習やたまにしか使わない機械や加工の手順のおさらいなど、「動画で確認する」習慣が根付き始めてきた。
しかし、まだ壁は存在した。「動画でやり方が分かっただけでは、実際の加工はできません。分かったことを行動に移す仕組みも必要でした」(平山さん)
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