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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第90回

【JSTnews4月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業さきがけ「原子精度での光合成色素分子の配列形成と光電変換機能の評価」

光を吸収した分子が生み出す電流を原子レベルで計測、エネルギー変換技術の進展に期待

2026年04月17日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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今井みやび。東京科学大学 理学院物理学系 准教授。埼玉県出身。2019年東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻博士課程修了。博士(科学)。理化学研究所開拓研究本部特別研究員、同研究所基礎科学特別研究員を経て、25年より現職。22年よりさきがけ研究者。写真:河合塾MEPLO広報より提供

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 難問を考え続け解答する瞬間に感動

 小学生の頃は読書が好きでした。ある時、本棚にあった算数オリンピックの本に夢中になったことを覚えています。1つの問題を何日も考え続け、解答への道筋をひらめいた瞬間の感動が忘れられず、すっかり魅了されました。そのスタンスは今も変わらず、難問を探し出しては寝ても覚めても考え続けています。

 10歳の時、学校の行事で将来の夢を書いてタイムカプセルに入れました。自分でも忘れていたのですが、成人式で開けてみたら「研究者になりたい」と書いてあったのです。大学3年生では就職活動もしましたが、将来研究所で働きたいという気持ちが強く、博士課程に進学しました。気が付いたら子どもの頃の夢をかなえていた形ですね。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 STMで光電変換の謎に挑む

 理化学研究所では、光を吸収した分子1個が生み出す電流を、原子精度の分解能で計測・可視化する方法を世界で初めて開発しました。この計測方法は、太陽光発電や人工光合成の研究に新たな知見を与えるものです。観察する分子に波長可変レーザーを当てて高エネルギー状態に変化させる独自の仕掛けを、走査型トンネル顕微鏡(STM)と組み合わせて実現しました。

 STMとは大学4年生の時に出合いました。当時、太陽光発電の研究に興味があったのですが、じゃんけんに負けてSTMを扱うナノサイエンス系の研究室に配属されました。初めは研究内容の違いに戸惑いましたが、自分の目で原子を観察できるSTMに魅力を感じ、太陽光発電と組み合わせられるのではないかと思い付きました。ですが、当時は技術的に難しく、成果が得られませんでした。

 その後、STMを使い、単一分子に光を当てた時に発生する電流を計測する方法をひらめきました。開発には苦労しましたが、STMの針と分子に当てる光の相互作用を精密に制御するなど改良を重ね、最終的に分子1個から生成される光電流を鮮明に捉えることに成功しました。

 現在は、植物の光合成に倣う光電変換の研究に取り組んでいます。光合成反応中心ではほぼ100パーセントという驚異的な効率で光電エネルギー変換が生じますが、その仕組みはいまだに謎に包まれています。光合成色素に似た分子を並べたモデル光合成系を形成し、STMを用いて分子間の距離や角度とエネルギー変換の関係を原子精度で調べています。この関係を解明できれば、高効率な太陽電池の開発にも貢献できると考えています。

JSTのさきがけで開発している装置です。独自開発した極低温光STMに「エレクトロスプレー蒸着」という分子溶液を高電圧で噴霧し、基板上に堆積させる機構を組み合わせています。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 ひらめき思い付いたらすぐ行動を

 研究の一番の醍醐味(だいごみ)は、大きな壁に挑み続け、試行錯誤した末にその壁を突破する瞬間です。難しい課題に直面した時に考え続けることも重要ですが「ひらめき」がないと、次に試すことがなくなってしまいます。研究者は、ひらめき続けることが大切だと思います。

 2025年に東京科学大学に移り、学生を指導する立場になりました。学生たちには、思い付いたらすぐに行動してほしいと伝えています。新しいアイデアが浮かんでも、時間があっという間に過ぎてチャンスを逃すこともあるからです。

 「敷かれたレールから離れるのが怖い」と学生に言われることもありますが、恐れずに行動してほしいです。自分の強みを最大限に生かして、ぜひ新しい道を切り拓いてください。

プライベートでは、2人の息子とお散歩を楽しんでいます。集めた木の実やお花で工作するのが最近のブームです。

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