【JSTnews11月号掲載】NEWS&TOPICS 創発的研究支援事業(FOREST)研究課題「細胞熱工学の深化と生命システム制御」
温度変化をスイッチとしてたんぱく質の機能を操る、新たな分子ツールを開発
2025年11月26日 12時00分更新
細胞内で標的とするたんぱく質の機能を即時に活性化し、細胞の機能を自在に制御する。そんな技術があれば、がん細胞だけを選択的に除去したり、特定の細胞を活性化したりできます。体に負担をかけない治療の実現につながる、重要な技術といえます。最近では、外部から光を照射してたんぱく質の活性を制御する光遺伝学という手法が注目されていますが、生体の組織深部への到達が難しいという課題があります。
金沢大学ナノ生命科学研究所の新井敏教授らの研究チームは、光に比べて深部まで到達しやすい熱を利用し、温度変化を「スイッチ」として標的たんぱく質の機能を即時に活性化する分子ツールの開発に成功しました。同チームは、生物の状態をより良く保つための「アポトーシス」と呼ばれる細胞死を引き起こす酵素「カスパーゼ8(CASP8)」と、温度上昇により凝集する性質を持つ「エラスチン様ポリペプチド(ELP)」を融合したたんぱく質を合成。ある一定温度を超えると、このたんぱく質が局所的に濃縮してCASP8が活性化されることを利用し、通常の体温下ではCASP8 が機能せず、加熱した時だけ機能してアポトーシスが「オン」になる仕組みを実現しました。さらに、このたんぱく質を用いて、狙った1つの細胞のみを近赤外線レーザーで局所的に加熱し、選択的にアポトーシスを誘導することにも成功しました。
今回の分子ツールは、温度変化に対して大幅には機能が変化しないたんぱく質に、温度に応答する部位を融合することで、温度変化で機能をオン・オフできるようにするものです。医療応用だけでなく、幅広いバイオ分野で役立つでしょう。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第114回
TECH
パンや酒、チョコづくりにも関わる微生物「酵母」の進化を追求 -
第113回
TECH
希少糖が高血糖を改善、2型糖尿病の予防・治療につながる仕組みを解明 -
第112回
TECH
傷ついた植物が器官を再生させる仕組みを解明、バイオテクノロジーの発展へ期待 -
第111回
TECH
ナノ構造が生み出す微小な力を3次元的に精密計測するマイクロドローンを開発 -
第110回
TECH
高効率に発光&発電が可能な太陽電池発電を開発、発電できる有機ELディスプレイへの応用も -
第109回
TECH
油を溜め込むサプリメント酵母で、ウナギを手頃にもっと美味しく! -
第108回
TECH
数理モデルを駆使し、数学者が挑む「じんましん」発症のメカニズムの解明 -
第107回
TECH
18桁の精度で「秒」を刻む! 最先端の時間計測技術「光格子時計」とは -
第106回
TECH
ファンタジーの魔法使いのような人工知能に夢を見た。日本語のニュアンスを捉える自然言語処理を研究 -
第105回
TECH
次世代エレクトロニクスデバイスの性能向上のために重要な、有機薄膜の自己組織化メカニズムを解明 -
第104回
TECH
子宮内での胚の着床の分子機構を解明、不妊治療の発展に期待 - この連載の一覧へ








