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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第13回

【JSTnews6月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業さきがけ「健康行動セキュリティのためのエンパワメントICT基盤」

AIやIoTを用いて人々が生活習慣をコントロールできる仕組みを開発

2025年06月13日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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中村 優吾 Nakamura Yugo
九州大学 大学院システム情報科学研究院 情報知能工学部門 助教。北海道出身。2020年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。同大学先端科学技術研究科特任助教を経て、21年より現職。同年よりさきがけ研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 高専で情報技術の未来に魅了

 幼少期から好奇心旺盛で、工作から調理まで、変なモノを作っては妹や友人に披露し、その反応を楽しんでいました。何かを作って仕掛け、人の反応を確かめる遊びは、研究者となった今の自分の原点になっています。

 中学では部活中心の生活で、漠然と普通高校への進学を考えていましたが、3年生の夏に函館工業高等専門学校の体験入学に参加し、考えが変わりました。研究を展示する先輩たちの姿を見て、それまで縁のなかった情報技術を使いこなす自分の未来像にワクワクし「ここで学べば絶対に楽しい」と直感して、高専への進学を決意しました。

 研究者を本格的に目指すようになったのは高専の卒業研究を始めた頃です。サッカー部を引退し、空いた時間と体力を研究に注ぎ込みました。高専卒業後は、そのまま専攻科で2年間学んだ後、奈良先端科学技術大学院大学に入学し、IoTを扱う研究室に入りました。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 生活習慣を調節する仕組みづくり

 私は「健康行動セキュリティ」という概念を提唱しています。人の自制心には限界があり、望ましい行動ができないことがよくあります。現代人はインターネットの発展で増えたさまざまな誘惑に負けやすく、それが生活習慣病の一因となっている可能性があります。病気などの健康リスクから身を守るためには環境をデザインする必要があると考え、人々が人工知能(AI)やIoTを使って生活習慣をコントロールできる仕組みをつくろうとしています。

 これまでに、腹囲測定や姿勢推定で行動を可視化するベルト型ウェアラブルデバイス「Waiston Belt(ウエストンベルト)」や、香りを調整することで飲み物の味や印象を変化させるマグカップ「Aromug(アロマグ)」、センサー付きの箸で食事内容を認識し、それを絵画として可視化して栄養バランスの良い食事を促すI oTシステム「eat2pic(イートツーピック)」などを開発しました。香りを使った味覚の拡張技術は、すでに国内飲料メーカーと共同研究を始めています。

 また、モバイルゲームなどのデジタル依存を設計段階から防ぐための研究にも注力しています。最近では、アクティブユーザー20万人のモバイルゲームの開発者と協力し、ロード時間延長や画面のグレースケール化といった介入がユーザーの行動に与える影響を世界規模で検証しました。

食事を取るたびに、絵が着色されていく「eat2pic」。和の感性をくすぐりつつ、自然に楽しく健康につながる仕組みの実現を目指しました。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 自信と挑戦心を持ち、客観的に

 今後は、これまでの研究を生かして健康行動セキュリティの概念を体系化していきたいです。同時に、AIoT(AI×IoT)を使った行動変容支援ツールを一般の人が簡単にカスタマイズできるキットの開発を進めています。

 これから研究者を目指す人には、私のモットーである「傲慢(ごうまん)に研ぎ、謙虚に究める」という言葉を贈りたいです。研究の初期段階では大きな自信と挑戦心を持って挑み、形にしていく段階では自分の意見を客観的に見つめて謙虚に取り組むことが大切です。

 また、社会情勢や技術の進展にアンテナを張り続け、それに応じて自分の研究テーマやアプローチを柔軟に変えることも必要です。ぜひ、秘めた個性と社会とのバランスを大切にしつつ、世の中に山積する重要で複雑な問題に挑戦し、研究を楽しんでください。

娘と初めての雪遊び。道産子の僕にとって、雪は無条件に童心に返れる特別な存在です。

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