「モノづくり教育」だけでは不十分 起業家育成を狙う神山まるごと高専の「コトを起こす」野心
実際の学生は「起業」をどうとらえているのか、地元食材の給食を食べながら聞いてきた
「テクノロジー×デザイン×起業家精神」の教育とは
神山まるごと高専が取り組む「テクノロジー×デザイン×起業家精神」の教育とは、具体的にはどのようなものなのか。
その象徴的な例として、松坂氏は「ITブートキャンプ」を紹介した。これは、入学直後の1年生が最初に受講する5日間の集中講義だ。「神山町の地域課題を解決する」というお題が与えられ、学生どうしがチームを組んでアイデアソン、プロトタイピングのハッカソン、ピッチに挑戦するという。
「入学したて、つまり中学校を卒業したばかりの学生たちが、アイデアスキルも技術力もまだまだ足りないけれど、自分なりに解決策を考え、ハッカソンでプロトタイプを開発し、それを世の中に届ける体験をする。まさにわたしたちがここから5年間学んで行くこと、社会に出たら求められることはこれだと理解してもらい、自分に足りないスキルをどう高めていくのかもイメージしてほしい。そうした思いからこの授業を行っています」(松坂氏)
起業家精神を育むうえで大切にしている言葉として、松坂氏は「β Mentality(ベータ・メンタリティ)」という言葉を紹介した。最初から“欠点のない完成形”を求めるのではなく、“未完成のベータ版”を次々につくりだす挑戦を続け、想像を超える良いモノにしていく。失敗は成功までの過程に過ぎず、恐れることはないという、起業を目指すうえで必要な姿勢を表している。
筆者が見学した授業でも、このβ Mentalityの姿勢は色濃く反映されていた。
「保健体育×プログラミング」というユニークな授業では、ソニーのセンサーデバイス「MESH」を活用して、「町のお年寄りと学生が共に楽しめる、まったく新しいバリアフリースポーツの開発」に取り組んでいた。
この日は、各チームが考えた“ベータ版”にフィードバック(評価)をもらうという内容だったが、実際にプレイしてみると学生たちの思いどおりにはいかず、グラウンドや体育館のあちこちで笑い声が上がっていた。失敗してもそれを楽しみつつ、よりうまくいく方法を考え続ける――、これこそがβ Mentalityだろう。
日本を代表する起業家たちが訪問、直接話し合う機会も
「起業を当たり前の選択肢にする」ために、同校では毎週、日本を代表する起業家たちを講師に招いた特別講義も行っている。社会で活躍する起業家から直接話を聞き、意見を交わすことで、起業を他人事と考えていた学生たちの感覚が「アップデートされていく」と、松坂氏はその意義を説明する。
「先日は、星野リゾート代表の星野さん(星野佳路氏)や、CAMPFIRE社長の家入さん(家入一真氏)がいらっしゃいました。講義だけでなく、学生と一緒にご飯を食べて、夜も学生と語り合っていただく。そこまでがワンセットなので、オンラインではなくてリアルに(高専まで)来てください、とお願いしています」(松坂氏)
「コトを起こす人」を育てるという方針に基づき、課外活動や寮生活も学生主体で動いているという。松坂氏は「わたしたちも全部は把握できていないんです」と笑いながら、代表的なプロジェクトをいくつか紹介した。まだ開校2年目であり、学生数も約80人しかいないが、多彩な課外活動が展開されている。
たとえば、今年4月に開催された国際ロボットコンテスト「FIRST Robotics Competition(FRC)」ハワイ地区大会には、全員ロボット未経験者で結成された「Hanabi」チームが出場した。課外活動として、ロボット開発だけでなく、チームづくり、開発費や渡航費などの資金調達までを、すべて学生たち自身で行った。その結果、同校のパートナーや地元企業などから750万円の資金を集め、「Rookie Inspiration Award」を受賞している。
「残念ながら決勝大会には進めませんでしたが、学生たちは『来年も出場する』と意気込んでいます。それ以上に注目すべきなのは、大きな成果を上げられたことで『来年は1000万円集められる』と思っている(自信を持っている)こと。教育上、ここはすごく大事なポイントではないかと考えています」(松坂氏)