メルマガはこちらから

PAGE
TOP

信州のエンジニアと大学生が参加 地域課題解決に向けて合宿形式でハックチャレンジ​

「PLATEAU x オープンデータで地域課題を解決するハッカソン」レポート

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: PLATEAU/国土交通省

この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 2024年9月21日、22日、23日の3日間、公立諏訪東京理科大学と諏訪圏デジタル推進協議会の共催によるハッカソンイベント「PLATEAU×オープンデータで地域課題を解決するハッカソン」が長野県茅野市の公立諏訪東京理科大学セミナーハウスで開催された。大学生19人を含む26名が参加し、5チームに分かれて地域課題の解決をテーマにPLATEAUを活用した作品づくりに挑戦した。

地域課題の解決をテーマにPLATEAU×オープンデータをハック

 今回のテーマは、「PLATEAU×オープンデータで地域課題を解決する」こと。PLATEAUの3D都市モデルと自治体などが公開しているオープンデータを組み合わせ、地域課題の解決にチャレンジする。

 ファシリテーターは株式会社アナザーブレイン代表取締役で、Project PLATEAU ADVOCATE(アドボケイト)の久田智之氏が担当。メンターとして、同じくProject PLATEAU ADVOCATEの常名隆司氏、茅野市 CDO補佐官の今藤彦氏、MikoSea株式会社の名取優子氏、長野県のXR開発者コミュニティ「XR信州」代表の堀文弥氏、副代表の檜野龍一氏、そして学生代表のメンターとして公立諏訪東京理科大学 情報応用工学科4年の井上健人氏が参加した。

株式会社アナザーブレイン 代表取締役 / Project PLATEAU ADVOCATE 久田 智之氏

 初日の9月21日は任意参加で、PLATEAUのワークショップを実施。PLATEAUの3D都市モデルデータとUnityを使った開発を体験した。

 9月22日のハッカソン1日目は、アイデアソンからスタート。「マンダラート(9×9のマス目にアイデアを書いていくことで思考を整理する方法)」を使ってアイデアを出し合い、アイデアごとに参加メンバーを募集する形で5チームに分かれてハッカソンが開始。翌2日目の15時まで、各チームで開発に取り組んだ。会場が宿泊施設ということもあり、深夜まで作り込みを続けたチームもあったようだ。

 9月23日は朝からハッカソンを再開し、夕方から各チームの発表と審査が行われた。以下、5チームの発表内容を紹介しよう。

砂防えん堤を築いて土砂災害をせき止める「レスキュー・ミッション」(チーム名:レスキュー)

 茅野市の市街地は山々に囲まれており、土砂災害の危険性がある。チーム「レスキュー」が開発した「レスキュー・ミッション」は、土砂災害の恐れがある地域を舞台にした防災シミュレーションゲームだ。

 ゲームでは山頂付近から土砂が山肌を流れてくる。プレーヤーは山の斜面に砂防えん堤を築き、流れてくる土石流をせき止め、市街地を守る。土石流が思わぬ方向へ流れて市街地に達することもあるため、ゲームを使った体験で防災意識も高まりそうだ。

 山の地形モデルには、G空間情報センターで公開されている長野県の数値標高モデル(DEM)を使用して、凸凹とした地表面をリアルに再現している。砂防えん堤もできるだけ現実の形状に近づけられるように調整に苦労したとのこと。

 これまでのハッカソンでも洪水のシミュレーションはあったが、土石流のシミュレーションは珍しい。砂防えん堤の建設費の制限や住人の避難誘導などの機能を追加すれば、さらに実用性の高い防災シミュレーションゲームになりそうだ。

チーム「レスキュー」

ビルを殴ってストレス解消「ビルボクシング」(チーム名:BREAKCITY)

 チーム「BREAKCITY」は、バーチャル空間の街を歩きながら建物を殴って破壊し、運動不足やストレスを解消するVRゲーム「ビルボクシング」を開発。プレーヤーはVRゴーグルを装着して街中を移動し、コントローラーを握ってボクシングの動作をすると、目の前の建物を殴ることができる。

 建物の耐久性は建築物の質量を使って表現しており、大きなビルは複数回殴らなければ壊れないのでかなりの運動量になるようだ。完全に破壊するとビルが爆発する演出が現れる。

 また、街を歩き回ることで小さな路地を発見するなど、街歩きとしての楽しみ方もできる。また、属性情報を使って耐震強度を判定基準に入れると、震災時の避難場所の参考にもなりそうだ。

チーム「BREAKCITY」

みんなの投票でバスルートを決める「Route Voting Community bus system」(チーム名:ROVOCO Developer team)

 公共バスの利用者減少やドライバー不足は全国の地方都市に共通する課題だ。解決に向けて、走行ルートの見直しなどによる効率化が模索されている。茅野市ではAIを用いて最適ルートと配車を行うAI乗合オンデマンド交通「のらざあ」を運行しているが、別の市では既存の路線バスルートが主要道から離れており、市民のニーズに必ずしも合っていない例もあるという。

 チーム「ROVOCO Developer team」が開発した「Route Voting Community bus system」は、バスに停車してもらいたい場所をユーザーが選んで投票し、投票数の多かった場所をチェックポイントとして設定する。次に、出発点から終点まで、短時間でより多くのチェックポイントを回るゲームをプレイして、成績が上位のユーザーのコースをバスルートに採用する、というアプリだ。

 市民の行きたい場所や人気のスポットは次第に変化していく。市民参加による投票形式のアプリを使うことで、行政やバス会社は拾いきれていない新たなニーズを発見できるかもしれない。また、特定のアルゴリズムを使わずに、ユーザーのプレイ結果でルートを提案するのもユニークだ。ゲームで競いながら自分が住む街の道に詳しくなれそうだ。

チーム名「ROVOCO Developer team」

まちづくりシミュレーション「破壊と創造とわたしたちのミライ」(チーム名:5A1U)

 まちづくりにおいては反対派の意見が目立ちやすく、児童公園や保育園など需要の高い施設の提案も廃案になりやすい。チーム「5A1U」は、「みんなでつくるまちづくり。創造は破壊から生まれる」をコンセプトに、市民みんなで意見を出し合える、まちづくりシミュレーションを開発した。

 アプリの特徴は、1)破壊と創造の提案ができる、2)PLATEAUの3D都市モデルを使うことで人の目線や俯瞰など多様な角度からまちを確認できる、3)投票ができる、の3点だ。

 例として挙げた「古いビルの跡地に公園を作る」という提案では、3D都市モデルのマップ上でビルを選択して提案内容を設定。参加ユーザーはその場所をさまざまな視点から眺めて確認し、賛成/反対を投票する。賛成多数であれば、元のビルは壊され、新しい公園の完成イメージを見ることができる。

 新設される施設とは直接には関係のない場所に住む市民であっても、シミュレーションを体験することで多くの人がまちづくりに関心を持つきっかけになりそうだ。

チーム「5A1U」代表のかなもり氏

現地に近づくとおすすめスポット情報が現れる「Pinstory」(チーム名:PINZ)

 茅野市は「若者に選ばれるまち」を目指している。チーム「PINZ」は、「旅行で茅野市を訪れる外部の若者が、地元住民では気づけない地域の魅力をSNSで発信すれば、若者の流出対策や移住促進につながるのではないか」という仮説を立て、現地でしか得られない情報を発信・閲覧できるSNSモバイルアプリを開発した。

 ユーザーがおすすめしたい店やスポットの情報をアプリに投稿すると、3Dマップ上にピンが立つ。ほかのユーザーは、実際にその場所を訪れて10メートル以内に近づき、アプリ上でピンをタップすると、投稿の内容を見ることができるという仕様だ。

 デモでは、車で茅野市街を移動しながら、3Dマップ上にピンや投稿内容が表示される様子を動画で披露した。窓から見える実際の風景と3D都市モデルが重なり、地図が苦手な人にもわかりやすい。リアルに近づかなければ情報が見えないというのも、現地に行く楽しさにつながる。

 今後の計画として、世代ごとに表示されるスポット情報を切り替える機能や、投稿内容を一般公開したり保存したりする機能を課金モデルで提供することなどを挙げた。

チーム「PINZ」

 全チームの発表後には、有識者とファシリテーター、メンターによる審査を経て、表彰式と講評が行われた。

 講評では、公立諏訪東京理科大学学長の濱田州博氏、同大学工学部情報応用工学科教授の市川純章氏、同大学工学部情報応用工学科准教授の山口武彦氏、茅野市CDO補佐官の今藤彦氏、株式会社角川アスキー総合研究所の遠藤論氏が、コメンテーターを務めた。

左から、公立諏訪東京理科大学学長 濱田 州博氏、株式会社角川アスキー総合研究所 主任研究員 遠藤 論氏、公立諏訪東京理科大学 工学部 情報応用工学科 教授 市川 純章氏、同大学 工学部 情報応用工学科 准教授 山口 武彦氏、茅野市 CDO補佐官 今 藤彦氏

 チーム「レスキュー」はPLATEAU ADVOCATE久田賞を受賞。久田氏は「これまでのPLATEAUハッカソンでは、土砂崩れのアイデアが出ることはあっても、動くプロトタイプまでの作品を見たことがなかった。砂防えん堤を置いてみることで防災意識の喚起になり、ゲームや教材にも発展しそうだと強く感じる。シンプルにプレイしたいと思えた作品」と講評した。

 チーム「BREAKCITY」のビルボクシングは、公立諏訪東京理科大学学長賞とXR信州賞を受賞。濱田氏は、授賞理由として「私は街歩きが趣味なのですが、『この建物さえなければここを歩けるのに』と思うことがよくある。ストレスの発散と趣味を兼ねて選ばせていただいた」と語った。

公立諏訪東京理科大学学長 濱田 州博氏

 XR信州代表の堀氏は「初めてPLATEAUを使うメンバーもいるなかで、VRゲームの開発に挑戦したことを評価した。茅野市のおすすめスポットを見つけて信州を盛り上げるというテーマにも共感できた」と述べた。

 チーム「PINZ」は、PLATEAU ADVOCATE常名賞とスワリカOB賞を受賞。常名氏は「PLATEAUのデータは属性情報を持っているのが特徴。ピンを立てるだけでは情報が散らかってしまいますが、属性情報とうまくつなげていくことに期待しています」とコメントした。

Project PLATEAU ADVOCATE 常名 隆司氏

 公立諏訪東京理科大学OBであるXR信州の檜野龍一氏は「私も位置情報を使ったアプリやゲームを作っているのですが、若者に対するアプローチとして自分の軌跡を残すというポイントは大事な要素になると考え、この作品を選びました。今回の経験をぜひ今後に生かしてほしい」と評価。また、本ハッカソンの運営実施に深く携わった公立諏訪東京理科大学工学部 准教授の菊地輝行氏も、「災害時の地域プラットホームとして期待できる」とコメントを残した。

「ROVOCO Developer team」は、角川アスキー総合研究所 遠藤論主席研究員賞を受賞。遠藤氏は、「地域の交通は大きな課題。そこに挑戦した意義は大きい。まちづくりにおける開発計画の合意形成にも使えるのではないか。プログラムの作り込みという部分ではまだ未完成だが、これからもっと発展させてほしい」と語った。

 各地域で開催されるアイデアソンやハッカソンは地域の自治体や大学、団体の主催で行われる。今回は、市街地から離れた静かな環境の中で、初めて会うメンバーと寝食をともにしながら、集中して協力して開発に打ち込む姿が印象的だった。信州在住のエンジニアや大学OBらがメンターとして多数参加し、ハッカソンを通じて地域の開発者コミュニティが広がったようだ。

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー