「ゲームコントローラーだから売れた」後発だった日本産VR向けデバイスが世界で普及拡大中
ContactGlove2が新発売。ヒューマンインターフェースデバイスに挑むDiver-X
9月27日、VRデバイス市場で普及拡大している日本発のデバイス「ContactGlove2」が発売された。ハンドトラッキングや触感フィードバックといった最先端機能の競争が激化する中、同製品が注目される理由は少し異なっている。3割の海外シェアを獲得したこのデバイスが評価されているのは、その操作のしやすさにある。フィジカルの都合で興ざめしがちなVR操作を、どこまでシンプルに、没入感を高くできるか。その挑戦が生んだ「ContactGlove2」開発の背景をDiver-X株式会社のCEO 迫田 大翔氏に聞いた。
ターゲットは”質の高い体験を求めるXRユーザー”
Diver-X株式会社 CEOの迫田氏は、幼少期からロボット製作を始め、中学でロボカップジュニアジャパンに出場。高校からはVR技術の研究に取り組み、2019年には未踏ジュニアスーパークリエーター、情報処理学会・中高生情報学研究コンテスト 情報処理委員長賞等を受賞している経歴の持ち主。2021年の大学進学前に、ソフトウェアエンジニアの浅野 啓氏とともにDiver-Xを創業し、現在も慶應義塾大学に在籍しながら事業を展開している。
現在、彼らが取り組んでいるのはXR向けのHID(ヒューマンインターフェースデバイス)領域だ。
「AI系の技術が急速に進化して、コンピューター側でできることがすごく増えています。しかし、コンピューターと人間は直接つながっているわけではないので、インターフェースの効率を上げていかなければ、コンピューターの進化の享受を十分に受けられません」と迫田氏は説明する。
インターフェースは体験の質にも影響する。例えば、映画をスマートフォンで視聴するか、映画館の大きなスクリーンで鑑賞するかで受ける印象が大きく異なるように、同じコンテンツでも体験の質に差が生まれる。同社がターゲットとするのは、”より質の高い体験を求めるXRユーザー”だ。
「XRはまだ発展途上で周辺機器の移り変わりも激しい。新しいVRゴーグルなどが出るたびに体験の質が上がっている状況。まだ黎明期でありながら、顧客の購買力が非常に高いのもXR市場の特殊性です」(迫田氏)
現在のラインナップは、「ContactGlove Lite」、「ContactSheet」、「ContactGlove」の3製品。
顧客層として、①VRChatなどをプレイするソーシャルVRユーザー、②Vtuberやプロダクション、③製造業・医療のシミュレーション用途の3つのセグメントを想定している。
また、ハンドトラッキングやハプティクス(触感)などの要素技術を提供するOEM事業も行っているそうだ。
現時点では売上の6割を個人ユーザーが占めるが、製造業を中心に企業のVRニーズは確実に高まっており、今後、半導体性能の向上やVRの普及に従ってBtoB市場の拡大も見込まれる。
グローブとコントローラーシステムを融合したソーシャルVR用インターフェースを開発
現在の主力製品であるContactGloveの特徴は、ゲームコントローラーとして開発されている点だ。
「グローブの形をしていますが、あくまでコンソールコントローラーです。ハンドトラッキンググローブは映像業界向け、触感グローブは産業用としてすでに市場が形成されつつあります。しかし、一番市場が大きいVRゲームユーザーには、グローブが受け入れられていない。なぜなら、VRゲームユーザーにとって必要なのは、単純に”ゲームを操作する機能”であり、ハンドトラッキングや触感はまだ付加価値として足り得ていません。そして既存のVRグローブには、基礎的なコントローラー機能を備えていないことに課題がありました」(迫田氏)
Diver-Xは2022年12月にコントローラーシステムとグローブを融合した「ContactGlove」をKickstarterに出品し、500台(約4400万円分)の予約購入を達成した。しかし、操作性は満足のいくものではなかったようだ。
「最初に思いついたのは、ジェスチャーとボタンシステムをくっつける方法。しかし、ジェスチャーでは確実に入力ができず、使いづらいものになっていました。次に試したのは、ジョイスティックモジュール自体を指に付ける方法です。若干使いやすくはなりましたが、普通に手を動かしているとジョイスティック部分に引っかかってしまい、意図しない入力が発生していました。これをKickstarterに出品したので、最初のリリースのときは酷評を受けました」(迫田氏)
次の段階で、手の動きの自由度とコントローラーの正確性を両立するために開発したのが「Magnetra」という外骨格式のモジュールだ。グローブにはマグネットで固定でき、普段はグローブの動きの邪魔にならず、コントローラーを使いたいときには親指で確実にボタンを押すことができる。これでボタンやジョイティック入力に関しては満足できるものになったが、トリガーについての課題が残っていたという。
グローブ型VRインターフェースの最適解「ContactGlove2」
9月27日に発売した「ContactGlove2」は、このトリガーの課題を解決した新モデルだ。
「ContactGlove2」には、突起に触れるだけでトリガー入力を判定できるモジュールを追加。使わないときはに回転させて指に当たらないようにできる仕組みだ。
「我々が取り組んでいるのは、ユーザーが特定の動作を達成するために、本質的に必要なことは何かを分解し、これまでにないインターフェースをつくっていくこと。これからVRヘッドセットが普及し、コンテンツが充実すれば、次に求められるのは触感デバイスです。手に何かをまとった状態でのインターフェースは、この形が正解だと思います」
競合他社もいずれ同じ形に収束すると迫田氏は予測しており、ContactGloveやMagnetraの関連技術は特許を出願済みだ。
「ContactGlove2」は現状を最適解としているが、さらにほかの方法も模索していく予定とのこと。
「ただし、手の形は変わらないので、無限にパターンがあるわけではありません。考え得る形は数パターンしかないので、新しいものを出すたびに選択肢は少なくなり、キーボードと同じように、いずれ正解の形にたどり着くと思います」と迫田氏。
グローブ型のゲームコントローラーは、古くはファミコン向けコントローラー「パワーグローブ」など昔から存在こそしたが、現在でも普及に至っているものはない。近年、VR市場の拡大を背景にグローブ型デバイスに参入するスタートアップは増えているが、多くの競合は手の動きの再現性や触感を優先しすぎており、コントローラー機能のニーズに気付いていないと迫田氏は指摘する。Diver-Xは、グローブとコントローラーの両立を実現している点に勝機を見出している。
研究機関や企業向けの事業で足場を確保しつつも、主要ターゲットを個人のソーシャルVRユーザーに設定している点もユニークだ。販売数もすでに累計で1000台を超えており、コンシューマー市場での評価はB2Bにも影響を及ぼしているという。また情報伝播力が高いため、海外向けに積極的なプロモーションをせずとも、すでに海外からの購入者が3割を占めている。今後も、ユーザーからのフィードバックをもとに、コントローラーを中心とした派生のプロダクトを増やしていく予定だ。