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地域課題の解決に3D都市モデルをいかに活用するか、互いの知見を共有しネットワークを築いた自治体交流会

「PLATEAUサミット 2024(自治体交流会) in 広島」 レポート

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: PLATEAU/国土交通省

この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 国土交通省は、2024年7月25日、26日の2日間、地方公共団体向けのPLATEAU交流イベント「PLATEAUサミット 2024(自治体交流会) in 広島」を開催した。1日目は自治体によるPLATEAU活用事例の紹介やツールの操作体験、2日目はPLATEAU CMS / Editorのハンズオンと地域課題の解決を考えるロールプレイング形式のワークショップが実施された。

 1日目の冒頭では国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室長の樋口尚弘氏が主催者を代表して挨拶を述べた。

国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室長 樋口 尚弘氏

「Project PLATEAUの取り組みは今年で5年目を迎えている。当初は国土交通省が主導して3D都市モデルのデータ整備やオープンデータ化を進めてきたが、いまではほとんどの3D都市モデルが地方公共団体のみなさまによって作成されており、2023年度末に約200都市のデータが整備されるまでに広がっている。3D都市モデルの活用についても、これまで国土交通省が実証を通じてベストプラクティスの創出を行ってきたが、これからは実装をテーマに、自治体のみなさまの取り組みを通して社会に浸透させていくフェーズに移行している。

 こうした取り組みを加速するために、2023年11月には産学官連携のプラットフォームとして『PLATEAUコンソーシアム』を設立した。自治体からも約200団体が参加している。今回、地方公共団体のみなさまのさらなる連携と情報・アイデア共有を目的に、この『PLATEAUサミット』を開催する。PLATEAUの活用状況や課題、今後の展望などを共有し、イベント後もネットワークを深めていただきたい。そして各自治体に戻ってからは、3D都市モデルの整備、活用をけん引する存在となっていただけたらと思う」

 また、開催地を代表して、広島県 土木建築局 都市建築技術審議官 藤田士郎氏が挨拶を述べた。

広島県 土木建築局 都市建築技術審議官 藤田 士郎氏

「広島県ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を重要施策の一つと位置づけ、土木建築局が策定した「広島デジフラ構想」のもと、デジタル技術を最大限に活用し、官民連携してインフラをより効果的、効率的にマネジメントしていくための取り組みを進めている。

 今回の『PLATEAUサミット』は、全国の自治体のみなさまが一堂に会し、各自治体の先進事例や抱えている課題を共有する重要な機会である。この場での情報交換や交流を、今後の施策推進に大いに役立ててもらうことを期待している。広島県としても、この機会に各地の取り組みを勉強させていただき、政策に生かしていきたい」

 続いて、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室 企画専門官 村山弘晃氏が、PLATEAUの概要説明を行った。

国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室 企画専門官 村山 弘晃氏

 村山氏は「Project PLATEAUの目的は、単に3D都市モデルを作成することだけではない。都市のデジタルツインを作ることによって、社会に新たな価値をもたらすことや地域の課題を解決することを目的としている。そのためのツールが3D都市モデルであり、現在は3D都市モデルの『実装フェーズ』として、より具体的に活用していく段階にある」と説明。PLATEAUのデータとしての特徴やこれまでの取り組みなどを紹介したほか、地方公共団体における3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を推進する「都市空間情報デジタル基盤構築支援事業」について概説した。

 また、2024年度には地方公共団体によるプロジェクトは全57件、約80の都市で行われていることを示し、「利用ケースとしては防災・防犯をはじめ、今年度は都市計画・まちづくりのシミュレーションにPLATEAUを活用するケースが非常に増えてきている」と解説。「どの都市でどのような活用が行われているか、この後のセッションで、実際に6つの自治体のみなさまが登壇しユースケースを発表いただくのでご覧いただきたい」と述べた。

6団体によるPLATEAU活用事例紹介

「PLATEAU活用事例発表」のセッションでは、広島県、広島県海田町、広島県竹原市、熊本県玉名市、東京都狛江市、福岡県うきは市の取り組みが紹介された。

独自のインフラマネジメント基盤「DoboX」×PLATEAUで地域課題解決を目指す(広島県)

広島県 土木建築局 都市計画課主任 宮脇 恵子氏

 広島県は官民連携によるインフラの効率的かつ効果的なマネジメントの実現に向けて、インフラマネジメント基盤「DoboX」を構築している。「DoboX」は県や学術機関、民間の保有するデータを一元化・オープン化し、建設分野での生産性の向上や官民共同による新たなサービスの創出を目指すものだ。

 広島県土木建築局都市計画課では、都市計画基礎調査の「DoboX」でのオープンデータ化と3D都市モデルの整備に取り組んでいる。県として3市町の3D都市モデル整備に取り組み、県内では7市町でデータ整備が完了している。将来的には、これまで行政内部でしか活用されていなかった都市計画基礎調査と3D都市モデルを組み合わせることで民間企業や研究機関などでデータの利活用が促進され、防災やまちづくりなどの地域課題を解決するスマートシティ化を実現するのが目標だ。

 2023年度は、オープンデータの利活用促進に向けて、民間事業者向けにQGIS活用の勉強会を開催。2024年度は、江戸時代中期の三次(みよし)を舞台にした物怪物語「稲生物怪録(いのうもののけろく)」をモチーフにしたARアプリを開発中だ。マップ上にARマーカーを配置し、スマートフォンの位置情報と組み合わせることで、街歩きをしながら楽しめるものにしたいという。

三次を舞台にした物語「稲生物怪録」をモチーフにしたARアプリを検討

 また7月27日、28日にはPLATEAUハッカソン「DoboX×PLATEAU Hack Challenge 2024」を実施した。

人流データと災害リスクを可視化・オープン化し、官民連携のまちづくりに活かす(海田町)

広島県海田町 建設部まちデザイン課 菅原 和幸氏

 広島県海田町は、広島市安芸区と熊野町に隣接する人口約3万人の町。海田町は高齢化率が県内で最も低く、若い世代を中心に人口が増え続けており、町西部の商業施設や事業所が集積する海田市駅周辺を中心拠点、町東部の生活中心地を地区拠点に位置付けて、この2つの拠点を核としたまちづくりを進めている。

 3D都市モデルは、2021年に町全域についてLOD1の建築物と地形モデルを整備、2024年度は市街化区域についてLOD1の道路、都市計画決定情報、土地利用、災害リスクモデルを整備する。中心拠点の一部の建築物3棟をLOD2で整備する計画だ。

 ユースケース開発としては、「3D都市モデルを活用したまちづくり都市計画立案への活用事業(人流データ)」と「3D都市モデルを活用した災害リスクの可視化事業」の2事業を実施している。

「3D都市モデルを活用したまちづくり都市計画立案への活用事業」では、3D都市モデルと人流データを一元表示するビューワーを構築。ワークショップ等で活用することで、官民連携のまちづくりに向けて、拠点性の向上と地域資源を活かしたにぎわいづくりを推進する。「3D都市モデルを活用した災害リスクの可視化事業」では、浸水等想定区域の災害リスク情報を3D表示してエリアのリスクを可視化し、住民向けの防災訓練や避難経路設定に活用する予定だ。

3D都市モデル活用して災害リスク情報と人流分析情報の可視化を図る

複合施設の建築物モデルを3D都市モデルとして作成し、市民との合意形成に活用(竹原市)

広島県竹原市 企画部 企画政策課 伊藤 大輔氏

 竹原市は、広島県の瀬戸内沿岸部の中央に位置する人口約2万4000人(令和2年国勢調査)の市。明治大正昭和時代の歴史的建造物の保存地区があり、大久野島には戦争遺産と野生うさぎの生息地として知られ、多くの観光客が訪れる。2022年には、観光やまちづくり事業を担う一般社団法人竹原観光まちづくり機構を設立し、外国人観光客の誘客等に官民が連携して取り組んでいる。

 竹原市では、中心市街地の老朽化した市役所の移転にともない、市役所跡地において図書館や子育て支援などの公共サービスと民間機能を含めた複合施設を整備する計画を進めている。

 市民との円滑な合意形成を図るため、複合施設のモデルプラン4案を3D都市モデルで作成。市民ワークショップでモデルプランを提示し、使い方などの意見交換を行っている。市民ワークショップと現地調査を通じて検討を進め、最終的な複合施設整備基本計画へと反映する予定だ。

3D都市モデルで作成した複合施設整備予定エリアと周辺エリアのイメージ

ハザードマップや伝統的建造物群保存地区の情報を3Dマップで公開(うきは市)

福岡県うきは市 都市計画準備課 計画・調整係 行村 純徳氏

 うきは市は、福岡県の南東部、大分県の県境に位置する人口約2万7000人の都市。面積の約7割が森林・耕作地、市の中心部には「伝統的建造物群保存地区」があり、自然と歴史文化が調和するまちである。

 うきは市では2022年度から市全域をLOD1で整備し、2023年度には伝統的建造物群保存地区・町並み保存地区の約1800棟をLOD2で整備している。

 3D都市モデルについては、2022年度から災害リスクの可視化(洪水浸水想定、土砂災害警戒区域等)に活用し、防災担当部署とも連携し、地域での防災訓練などにも利用しているそうだ。また、都市計画立案への活用として、土地利用現況の可視化を実施。併せてオープンデータ化も実施しており、ハザードマップや都市計画情報、景観地域、文化財などの2Dマップ、3D都市モデルと重ねた3Dハザードマップや3Dマップを市のホームページで公開している(「うきはしマップ」)。

 2023年度は、災害リスクの可視化情報を更新し、山間部の盛土・切土箇所を抽出して解像度を高めている。都市計画立案への活用事業では、農地転用や宅地開発の情報を付与し、年によって市街地形成の変化を比較できる機能が追加された。

 

農地転用や宅地開発などの情報を3D都市モデルと重ね合わせて市街地形成の様子を可視化

 さらに2023年度には景観保全・整備への活用事業も実施。伝統的建造物群保存地区の建築物に、建築時期や改築回数、保存番号などの伝建情報を付与し、3Dマップで見られるようにしたとのこと。2024年度は、5地域区分や建ぺい率、容積率などを可視化し、都市計画立案に活用していく予定だ。

3D都市モデルを活用して地区計画の整備効果を分析(狛江市)

狛江市 まちづくり推進課 都市計画担当 河澄 遼氏

 東京都狛江市は、地区計画の整備効果の分析に3D都市モデルを活用した事例を紹介した。狛江市は東京都内から電車で20分圏内で交通利便性が良い一方で、市としては全国で2番目に小さく、市の大半が80人/haの人口密度が高い住宅地が占めているという。

 狛江市ではまちづくりの取り組みの一環として火災に強いまちづくりを目指しており、狭い道路の拡幅や都市計画道路の整備、生産緑地や公園整備などによる公共空間の確保、地区整備計画による用途地域の変更などを検討。これらの地区計画の整備による延焼防止効果をシミュレーションし、3D都市モデルを活用して分析を行った。

狛江市は市内全域をLOD2で整備して地区計画の策定に活用

 延焼予測をするにあたり、過去30年間の気象データを基に想定される気象のシナリオを3つ設定。最悪のシナリオは、降雨のない場合に強い突風が発生したケース。残り2つのシナリオは、春~夏、秋~冬の最頻度のケース。この3つのシナリオについて、現況と都市計画道路の整備後での火災が発生した場合の延焼予測を分析した。

 2Dの分析結果を3D都市モデルと重ねて表示すると、実際の空間に照らし合わせることで延焼遮断効果を直感的に捉えられる。今回は火災を例にしたものだが、この他にもさまざまな専門知識と3D都市モデルを組み合わせることで、地域住民へよりわかりやすい説明を提供できそうだ。

河川の氾濫を再現するシミュレーションで水害時のまちの状況をバーチャル体験(玉名市)

熊本県玉名市 建設部 都市整備課 安田 信洋氏

 熊本県玉名市は、2019年度に立地適正化計画の策定を開始し、「都市構造可視化計画」を使用して都市のさまざまなデータを3Dで可視化・分析することに取り組んできた。そして2020年度からPLATEAUに参画。市街地の浸水シミュレーションを作成して立地適正化計画の居住誘導区域と都市機能誘導区域の指定に活用している。

 2022年度にはPLATEAUのユースケースとして、「災害リスク可視化事業」および「3D避難シミュレーションVR制作事業」を実施。さらに、2023年度には「デジタルツイン環境構築事業」を実施した。

「災害リスク可視化事業」では、市内を流れる河川の氾濫シミュレーションを作成。市街地の建物に加えて信号機や電柱など地物の情報があることで、浸水時の水位をよりイメージしやすくなっている。また、「3D避難シミュレーションVR制作事業」では水害時に街がどのような状況になるのかを視聴者が疑似体験できるように、市内3カ所の様子をVRで作成。2023年度にはこの映像を市内外の22団体へ貸し出し、約300人が体験したという。

  2023年度の「デジタルツイン環境構築事業」では、高瀬裏川水際緑地の4カ所と玉名駅、新玉名駅に計測器を設置し、人流を計測。イベント期間の人数や滞留、回遊状況などの分析を行った。さらに、この結果をもとに3D都市モデル(LOD3)で人流シミュレーションを作成し、水際緑地への手すりの設置など整備に生かしていく計画だ。

3D都市モデルを活用した取組の例

 今後は「3D避難シミュレーションVR」のエリア拡大とウェブアプリ化の開発を予定している。また、メタバース実証事業として、高勢裏側沿いの3D都市モデル(LOD3)を基に、汎用的メタバース空間を構築し、ふるさと納税サイトへの送客、お祭りや花火大会のバーチャル体験などを企画しているそうだ。

ツールレクチャーやアイスブレイクを通じて知識と交流を深める

 1日目の後半は「PLATEAU実例ツールレクチャー」として、アジア航測株式会社 社会システムコンサルタント一課 課長の神馬和歌子氏を中心に、解説・ハンズオンを実施。

アジア航測株式会社 社会システムコンサルタント一課 課長 神馬 和歌子氏

 2022年度に実施された事例である「カーボンニュートラル推進支援システム」をもとに、どのような形や意図でツールが作られたのかという解説に加え、どうやって使うのかを参加者が体験した。なお、参加者が体験した内容は、PLATEAUのGitHubでも公開されている(https://github.com/Project-PLATEAU/SolarPotential)。

 その後には、アイスブレイク兼ネットワーキングを実施。「PLATEAU川柳」と題して、参加者が思い思いの川柳を短冊に書きつづった。

「PLATEAU CMS / Editor」ハンズオン

 2日目の午前は、「PLATEAU CMS / Editorのハンズオン」を実施。株式会社Eukarya 代表取締役CEO 田村賢哉氏を講師に、開催地である広島県内をサンプルとして3Dの地図に自治体が持つデータと3D都市モデルをノーコードで載せる自治体版「PLATEAU VIEW」構築を体験した。

「PLATEAU CMS / Editor」を使うことで“我が街だけのオリジナルPLATEAU VIEW”が構築できる。「PLATEAU CMS / Editor」には、3D都市モデルのソリューションにおいて世界最先端を走る技術が詰め込まれており、海外で紹介をすると驚かれることもあるそうだ。

株式会社Eukarya 代表取締役CEO 田村 賢哉氏

仮想都市の地域課題をPLATEAUでどう解決する?! ワークショップ「PLATEAU 1st STEP to RPRP(Regional Pride Role Play)」

 午後は、ワークショップ「PLATEAU 1st STEP to RPRP(Regional Pride Role Play)」を実施。「Regional Pride Role Play」とは、地域の誇りをつくるための役割を演じる、という意味。自治体からの参加者は4~5名ずつの7チームに分かれて、仮想の都市での役職を演じながら、地域の課題を解決するためのPLATEAU活用サービスを考えるワークショップだ。

 ファシリテーターとして青山学院大学地球社会共生学部教授の古橋大地氏、株式会社アナザーブレイン代表取締役の久田智之氏が参加した。

青山学院大学 地球社会共生学部 教授 古橋 大地氏(左)、株式会社アナザーブレイン 代表取締役 久田 智之氏(右)

 「RPRP」では、地域の特性や自分の役職、予算をカードを引いて決める。各チームには地域特性や産業、人口などが記された「地域ペルソナカード」が配られ、仮想の市に名前を付けることからスタート。次に、役職カードをひき、首長、都市計画課課長、ルーキー職員、外部協力者のうち、いずれかの役割になりきる。予算カードは3000万円、1000万円、300万円、青天井などの種類があり、カードを引いた予算内でサービスを考えなくてはならない。さらに、PLATEAUのユースケース開発をするための前提条件として、地域の3D都市モデル整備状況(LOD1/LOD2/LOD3/LOD4、全域整備/一部整備)のカードも用意された。

 カードによる地域の条件と役割分担が決まったら、各チームで課題の設定とサービスの検討に入る。参加者には事前に「ユースケース開発ガイドー自治体編」の資料が配布されており、ユースケース事例を参考にしながら、アイデア出しや議論を進めていった。

 約2時間のワークショップのあと、各チームは地域の課題を解決するサービスを1枚のグラレコ(グラフィックレコーディング)にまとめて成果発表を行った。以下、各チームの発表内容を紹介する。

【道の駅市】各種シミュレーションで農産物のブランド力と生産効率を向上

「道の駅市」のグラレコ

「道の駅市」は、当初の予算が3000万円のところ、ふるさと納税で村の農産物ブランド力が向上して予算が3倍に増えた、という設定だ。

 PLATEAUのユースケース開発として、ブランドの需要に応えられる強い農業をつくるための日照シミュレーション、新しい農地を開拓するための水路や道路整備のシミュレーションを提案。同市はLOD3が整備されており、新たにハウスを建設する場合の景観や配送トラックが侵入しやすいかといったシミュレーションにも役立てられそうだ。また、「PLATEAU VIEW」を活用して、道の駅の店内や交通情報を見られるシステムを構築し、ふるさと納税のさらなる促進を狙う、と説明した。

 久田氏は、「道路のLOD3を活用する着眼点がおもしろい。これまでは建物優先のサービスが多かったが、これからは道路の整備についても3D都市モデルをどんどん活用してほしい」とコメントした。

【城ヶ丘町】バーチャルとリアルを融合したロケ地体験ツアーで地域を活性化

「城ヶ丘町」のグラレコ

「城ヶ丘町」は人口が1万2000人、面積1500キロ平方キロメートルの人口密度の低い地域。産業は観光、漁業、手工業がメインで、人口減少による産業の衰退が課題となっている。町内はLOD2で全域整備されており、大河ドラマのロケ地が決定したのを機に、町の名前にも入っている城をLOD3で作成し、バーチャルとリアルの融合をテーマにユースケース開発を行った。

 アイデアとして、かつて存在した城の様子を再現したVRアプリ、ロケ地をつなぐ公共交通を一元的に調べられるアプリ、城からロケ地を回遊するサービスなどを提案。また、手工業が有名なので、特産物や名産品をVRとリアルで体験できるサービスを考えているとのこと。予算は1000万円のため、まずはロケ地周りのアプリを作成し、将来的には、町全体を回遊できるサービスへと発展させ、人口増へとつなげたい、と説明した。

 古橋氏は、「お城が現存しないという設定に驚いたが、リアルにはないものを3Dで作り、VRで展開するのはデジタルツインの正しい使い方だと思う」と評価した。

【Casino City】メタバースでデジタルIRを開発しインバウンド集客を図る

「Casino City」のグラレコ

「Casino City」は人口500万人の大都市だが、現状の課題として、人口減少や財政状況の悪化、都市の魅力低下を抱えている。今回は、近代建築の世界遺産に選定されたのを機に、主力産業であるエンターテインメントを生かし、「近代建築とIR(統合型リゾート)がつなぐ未来都市」をテーマにインバウンド集客のユースケースを開発した。

 予算は1000万円と限られるため、短期的には、IR開発の理解を得るためにLOD3を活用した映像プロモーション、観光客増を想定した人流シミュレーションを開発。中期的には、メタバースでデジタルIRを開発していく計画だ。

 古橋氏は「カジノを開発する前にデジタルツインで検証するのはうまい使い方。また、今回は首長が保守的、という設定だったが、職員からの丁寧な説明資料によって提案が通ったという経緯もおもしろかった」とコメントした。

【大空市】LOD4を整備して空飛ぶクルマによる交通やドローン物流の実現を目指す

「大空市」のグラレコ

「大空市」は金融、情報技術、観光を主産業とする人口300万人の都市。3D都市モデルはLOD3が整備済みだ。地域の課題である渋滞の解消と観光促進のため、スカイターミナルを開設し、空飛ぶクルマなどによる無人輸送や無人運転を導入する国家戦略特区を目指している。

 空を縦横無尽にクルマや人が移動し、配送物はビルの中まで届けられるように、LOD4を整備して3D空間の物流や交通を実現するのが目標だ。今年度は、ドローンを使った無人輸送と空飛ぶクルマの実証実験を実施。その活動をインセンティブに観光客の増加を図っていくとした。

 古橋氏は「夢を感じました。配送物を建物の中まで届けてほしいというニーズがあり、それを実現するにはLOD4が必要になる。最終的な未来までたどり着けるのがPLATEAUですね」と感想を述べた。

【お好み村】プロスポーツのVR観戦サービス提供で雇用促進や知名度アップを図る

「お好み村」のグラレコ

「お好み村」は人口5000人、面積900キロ平方メートルの中山間地域。山の上には「お好みスタジアム」があり、プロスポーツチームの誘致に成功したところだ。スタジアムにはLOD4を導入し、VRを活用してどこからでも観戦できるのが魅力だ。

 また、ふるさと納税の返礼品として、スタジアムの各種座席のほか、選手目線や審判目線で観戦できるVRサービスが抽選で当たる。また、試合のない日にはVRを使って選手とのふれあいサービスなども企画。これらのサービスを通じて、雇用の促進や村の知名度アップにつなげていく計画だ。

 久田氏は「スタジアムの活用例に、さりげなくコンサートとも書かれていた。今のコンサート会場は3D映像やVRを積極的に取り入れている。このスタジアムがあれば、現地に来なくてもリハーサルの作り込みができるので、海外の有名なアーティストも呼べるのでは」とコメントした。

【森暮市】山間部ならではの暮らし体験をリアルとバーチャルで提供

「森暮市」のグラレコ

「森暮市」は人口8000人、林業・観光が盛んな山間部の都市。地域振興プロジェクトの企画が採択され、1億500万円の予算を獲得している。

 山里の有名温泉に7000万円で新しい施設を建設し、3D都市モデルをLOD4で整備。既存の林業体験や森暮らし体験をVRゲーム化し、温泉や林業、狩猟をバーチャルで体験することで親しみを感じてもらい、現実の暮らし体験や移住者への誘致につなげていきたい、と説明した。

 久田氏は「実際にどこかの地域に始めてほしい。最新のVRは画質や音が向上し、リアルな没入体験ができる。見た目の3Dだけでなく、小鳥のさえずりなど音で再現できる部分もあると思う」と期待を寄せた。

【うしおい町】観光モデルルートのARアプリで酪農家の収入増や観光促進を図る

「うしおい町」のグラレコ

「うしおい町」は人口10万人、牛も10万頭の酪農地域。3D都市モデルはLOD2で部分整備、町全域の点群データがある設定だ。近年は酪農家の後継者不足と観光収入の減少が課題となっており、儲かる酪農を実現して担い手を増やしていくこと、観光地として滞在型を推進していきたいと考えている。

 酪農家の収入増や観光促進を目的に、LOD2を活用した観光モデルルートのARアプリを開発。アプリは、牛がモデルルートを案内しながら、酪農製品の直売所や観光名所を巡ることができる。また、酪農体験や酪農家に滞在するファームステイも計画している。さらに、点群データを活用し、夜の牧草地を散策する音と光のARコンテンツの開発も提案した。

 久田氏は「牛の位置を見える化するのもおもしろそう。日々の牛の活動を観察してみたいです」と感想を述べた。

 ワークショップを終えて、ファシリテーターを務めた久田氏は「今回体験していただいた『グラレコ』のような手法は、PLATEAUに関すること以外にも、さまざま場面で役に立つと思います。決まった時間の中で話し合った内容を、手書きで図形や絵を用いてまとめてみると、他者への伝わり方も変わってくるでしょう。今後の業務の中でも生かしていただけたらと思います」とコメントした。

 古橋氏は「3時間という長いようで短い時間でしたが、このワークショップを通じて各チームで話し合い、考えていただいたアイデアや経験をこれからの日常業務の中でも生かしていただきたい。そして、『次はこんなユースケースをやってみよう』というきっかけにしていただければ幸いです」と参加者へメッセージを送った。

 本イベントの最後には、2日間を振り返り、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室 企画専門官 村山弘晃氏が挨拶を述べた。「今回のイベントではさまざまなことを行いました。1日目には各自治体のみなさまにユースケースを発表していただき、非常に良かったです。どういう事例がありどんな工夫をなさっていたのかを、一緒に聴講なさっていたみなさまも今後ご参考にしていただけたらと思います。

 2日目の午前中にはツールのレクチャーやハンズオンを行い、シミュレーションの仕方などを体験していただきました。技術的な面で難しい部分もあったと思いますが、それらすべてを習得しなければPLATEAUを活用できないというわけではありません。技術は専門の方々にお任せできるので、みなさまにはPLATEAUでどんなことができるのかを把握いただいたうえで、最後のワークショップで体験いただいたように、さまざま現場の実務の中でPLATEAUも使いながら、地域の課題を解決するための企画を行うことに手腕を発揮していただけたらと思います」と語り、今回の自治体交流会を締めくくった。

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