PLATEAU活用の新たなアイデアやAWARD受賞作の開発背景など多様な発表が交流を生んだLT
「PLATEAU LT 06」レポート
提供: PLATEAU/国土交通省
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
国土交通省は2024年6月19日、オンラインイベント「PLATEAU LT 06」を開催。PLATEAUの3D都市モデルを活用する個人、企業、自治体によるライトニングトーク(短時間に集約して簡潔にプレゼンする形式)イベントであり、PLATEAU AWARD 2023受賞者を含む全11組が登壇し、活用事例やPLATEAUのデータをより簡単に扱うためのアイデアなどを披露した。
冒頭、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 企画専門官の十川優香氏が、PLATEAUの概要と2024年度のイベントスケジュールを説明した。
Project PLATEAUは、都市空間のデジタルツインデータを整備・活用し、オープンデータ化する取り組みだ。2020年に始まり、これまで3D都市モデルを活用したユースケースが多数開発されている。現在は実装フェーズに入っており、開発者コミュニティでの実装のきっかけづくりとしてハッカソンやハンズオン、ピッチイベントなどを開催しており、今回のLTもその一つにあたる。そして2024年度も、一連の取り組みの集大成としてPLATEAU AWARD 2024を開催予定だ。
今回のLTには11組が登壇。3D都市モデルを活用した作品や体験、技術など自由なテーマで、それぞれが取り組みを紹介した。司会・進行は、久田智之氏(株式会社アナザーブレイン 代表取締役/みんキャプ運営委員会 委員長)、河野円氏(imgee株式会社 代表取締役/サイバー南無南無 代表)が務めた。
建築設計用途での属性データ活用(桑原 遼介氏)
一級建築士の桑原氏は、PLATEAU AWARD 2023の奨励賞を受賞した都市開発シミュレーション「でべごっこ」について発表。「でべごっこ」は3D都市空間にビルを建てて、誰でも都市開発を体験できるアプリだ。
PLATEAUの属性データを活用して建物の容積率や敷地面積を計算しているのが特徴で、今後は機能を拡張して建築設計実務への活用も検討しているという。高層ビルの場合は専用ソフトウェアを用いた天空率、空の見える割合により高さ制限を緩和する規定の適用についての複雑な計算が必要になるため実用は難しいが、低層から中層ビルなら「でべごっこ」でも実用レベルを目指せそうだと見通しを語った。このほかに距離や面積、角度、重心計算などの関数を作成してアプリを軽量化するテクニックなどを紹介した。
「Machi Plus」を使って、3D都市モデルのさらなる価値を生み出す試みにチャレンジ(チームIRODUKURI)
チームIRODUKURIは、PLATEAU AWARD 2023でPLATEAU賞を受賞した「Machi Plus」の今後の開発と取り組みを発表した。「Machi Plus」は、一般ユーザーが撮影した建物の写真を補正・登録することで、アプリ開発者がLOD1の建物テクスチャーとして使えるプラットフォームだ。
2024年度は「Machi Plus」を使って、「さらなる価値を出す試みにチャレンジしたい」として、より多くの人に知ってもらい、多様なシーンで活用してもらうための取り組みを展開するという。豊田市稲武町では、地域の建物写真を反映したメタバースや商店街を車で巡るようなVRの開発を企画。また、こども向けには「Machi Plus」のテクスチャー貼付機能を応用し、こどもたちが描いた絵を街に反映できる知育アプリを開発して、イベントなどで活用していく予定だ。
顕微鏡で地球をのぞく?! メディアアート作品「地球観察機」(尾花 和俊氏、赤間 哲也氏、郡山 和彦氏)
チームBreak&Coの尾花氏、赤間氏、郡山氏は、PLATEAU AWARD 2023の奨励賞を受賞したメディアアート作品「地球観察機」の開発経緯を紹介した。
「地球観察機」は顕微鏡で地球をのぞいて拡大し、街の様子を観察しているような体験ができるデジタルアート作品だ。10年前に発案し、当初はGoogle Earth APIを使おうとしたがプラグインの有効期限切れなどで断念。その後、他の手段を探す中で2021年にPLATEAUを知り、作品として完成させたという。2023年11月には大阪で行われたデジタル・メディアアート作品展「HOMEWORKS 2023」にも出展している。
「地球観察機」は、顕微鏡の先にLCOS方式のディスプレイモジュールを配置したデバイスを開発し、UnityでPLATEAUの3D都市モデルを取り込んだコンテンツを作成して表示させている。今後は画質の向上や、プレパラートを交換すると見る場所(都市)が変わるといった機能拡張を考えているそうだ。
3DのPLATEAUを2Dに変換しオープンデータ化するProject FLATEAU(清水 直哉氏)
Pacific Spatial Solutions株式会社(以下、PSS)の清水氏は、PLATEAUの3D都市モデルを2Dデータに変換してオープンデータ化する取り組み「Project FLATEAU」を紹介した。
PSSは2020年からPLATEAUに関わり、3D都市モデルの変換・作成や3Dビューアでの可視化のほか、ユースケース開発にも取り組んできた。そうした中、PLATEAUを活用するための便利なツールが整備され次々と公開されている一方で、PLATEAUのデータそのものをさらに使いやすくできないかと検討していたという。
そこで同社では、“FLATEAU(FLATな2DのPLATEAU)データ”として、建物フットプリントや各種建物属性、災害リスクなどの属性データをより簡単にQGISやオンラインのWebGISで使いやすくするために、GeoParquet/Parquet、GeoPackageのフォーマットに変換し、地理空間データ配信プラットフォームSource Cooperativeにて公開。また、FLATEAUのデータを使ったハンズオンイベントも実施した。ハンズオンの内容もGitHubでも公開されている(「PLATEAUではじめる空間クエリ」、「可視化クリニック」)。
CityJSONでWebでも3D都市モデルを扱いやすくする(米田 将氏)
冒頭、米田氏は「WebでCityGMLが使いづらい」点を指摘。PLATEAUは情報量が大きく、CityGMLをWebで扱おうとすると処理が重くなってしまうのだという。そこで米田氏は、CityGMLをCityJSON化する方法を紹介した。
CityJSON 2.0はオープン地理空間コンソーシアム(OGC)の標準フォーマットで、CityGMLとほぼ同じ情報をシンプルかつ軽量に扱えるのが特徴だ。CityGMLに比べてデータ量は平均7分の1とコンパクトで、扱うコード量も短くて済む。
JSONベースなのでWebとの親和性も高く、CityGMLと同様に属性情報を扱うことができるという。3D都市モデルを活用するためのフォーマットのひとつとして、米田氏は、CityGMLからCityJSONへの変換器を「自分で作ってしまおうか」と語る。作成が完了したら自身のGitHubで公開したいとした。
PLATEAUの属性情報をBIツールに取り込み、まちの情報を可視化する(山岸 隆氏、賈 亦楊氏)
株式会社安井建築設計事務所の山岸氏と賈氏は、PLATEAUの属性情報をBIツール(PowerBI)に取り込み、手軽にExcelなどで情報を付加して、計画範囲のデータをビジュアライズ化する手法を紹介した。
フローとしては、①Unityを介してRevitでエクスポートした3Dモデルと、②CityGMLの属性情報をCSV形式で出力したデータをPowerBIに統合。①と②を地物IDで連携させることで、PowerBI上でデータ分析と可視化が可能になる。
例えば、建物用途や高さ・面積、構造といったさまざまな情報を地図上で色分けして表示したり、各情報をグラフで表示したりできるのでわかりやすい。さらに、施設カルテをPowerBIに取り込んで、公共施設の耐震性の可視化や維持管理コストを分析するなど、PLATEAUの属性情報とさまざまな情報を掛け合わせることで活用が広がりそうだ。
PLATEAUとNAVITIMEの情報を掛け合わせ、訪日外国人向けグルメ情報検索サービスとして企画した「Cyber Navigate 360」(伊藤 遥氏、髙橋 悠氏)
株式会社ナビタイムジャパンの伊藤氏と髙橋氏は、PLATEAU AWARD 2023の奨励賞を受賞した「Cyber Navigate 360」の企画から開発の経緯を紹介した。
同社ではPLATEAU AWARD 2023に向けて研究開発部門と企画部門でチームを組成。PLATEAUのデータ特性とユーザー需要の検証をもとに、PLATEAUの3D都市モデルとNAVITIMEが持つ施設情報やルート案内技術を組み合わせた訪日外国人向けのグルメ情報検索サービスとして「Cyber Navigate 360」を企画したという。
実装にはUnityを使用。工夫した点として、2D地図の世界と3D地図の世界をシームレスに行き来するイメージを重視し、独自のズーム値を定義。ひとつのボタン操作で、広域表示では2D地図モードになってタイル地図のズームレベルを制御し、拡大するとカメラを制御して3D地図に切り替わるようにしているそうだ。また、2Dと3Dの切り替わりにあわせ、UIなども見た目を変わるようにすることで全体の一体感を高めたという。
PLATEAUのデータをもとに風洞実験用の都市模型を製作(上田 博嗣氏)
株式会社大林組 設計ソリューション部 アドバンストデザイン課の上田氏は、PLATEAUの活用事例として、PLATEAUデータから3Dプリンターで風洞実験用の都市の模型を製作した事例を紹介した。
大規模な建築物を建てる際には、周辺環境に影響を及ぼさないように環境要因を確認すること――環境影響評価(環境アセスメント)を行うことが地方自治体の条例で定められている。その中に「風環境」という項目があり、歩行者に強風被害を及ぼす恐れがないかをチェックする必要があるという。このチェック手法のひとつに風洞実験があり、今回は実験で使う都市の縮小模型を、PLATEAUのデータをもとに3Dプリンターで作成したという。
模型の造形自体は3D造形会社に委託するため、大林組ではPLATEAUデータの取得・変換・加工と、風速計の位置を設定するために2Dの白図データ作成を実施。これらのデータを3D造形会社に渡して、都市の縮小模型を製作してもらったという。
3Dプリンターによる造形工程では、模型を軽量化するための中空化や、細かすぎるパーツは造形可能な形状にデフォルメするなどの加工が行われた。また、造形サイズが大きかったことから模型を分割して出力し、後から組み立てる「勘合」方式で作られたという。完成した模型は直径2メートル。精度が高く、風の通り道になる高架下のスペースなどもうまく再現できており、今後の風洞実験に活用していく予定だそう。
トラブルも楽しもう! PLATEAU AWARD 2023「Beat Running Ober The City」発表の裏側(伊藤 周氏)
おなかソフトの伊藤氏は、PLATEAU AWARD 2023でエモーション賞を受賞した「Beat Running Ober The City」について、発表会の裏話を紹介した。「Beat Running Ober The City」は、ランニングマシンとiPhoneアプリ、MetaQuestを組み合わせ、ランナーの歩行速度と連動して音楽と都市空間のVR映像を再生し、バーチャルランニングが体験できるプロダクトだ。
PLATEAU AWARD 2023でのプレゼンにあたって、プロダクト紹介動画は事前に完成していたのだが、直前になって「プレゼンでも実機でやろう」と思い立ったのだという。当日には会場にランニングマシンも持ち込んで実機での実演に挑戦。しかしiPhoneやMetaQuestからの出力をMacに転送してスクリーンに映し出そうとしたが、当日は音がなかなか出ず、電波の状態も悪くてVR映像も乱れてしまった。
とはいえ、こうしたプレゼン本番のトラブルや緊張感も通じて、「むちゃなことでも挑戦して、トラブルが起きても最終的にプレゼンができ、みなさんに作品を見てもらえたというストーリーを共有できたことがエモーション賞につながったのかもしれない」と語った伊藤氏。視聴者に向けて、「今後みなさんもAWARDに応募されるかもしれないが、あえて無茶なことに挑戦してみるというのも、いいストーリーになるのではないか。トラブルを楽しむのもあり」と語り、恐れずチャレンジしてほしいとメッセージを送った。
PLATEAU+Babylon.jsでWebブラウザーで表示(藤原 貴之氏)
藤原氏はBabylon.js(JavaScript/TypeScriptを使用した3Dエンジン)でPLATEAUの3D都市モデルを取り込み、オープンデータと組み合わせてWebブラウザーで表示する方法を紹介した。
データの取り込みにはPLATEAU SDK for Unityを使用し、Blenderで統合して軽量化を行った。この3DデータをBabylon.jsで読み込み、文京区の保育園一覧のオープンデータから緯度経度の情報をもとに各保育園の位置をマッピングした。
作例として示された動画では、各所からは光の煙が立ち上るようなビジュアルも設定されていた。今回は保育園の位置で試作したが、藤原氏は「保育園でもレストランでも、ほかのいろいろな施設でも、それらがどこにあるのかをビジュアルでわかりやすく示すことができる。こうしたものをWebでやってみるのもまたおもしろいと思う」と語った。
詳しい手順は藤原氏のブログで公開されているので参考にしてみてはいかがだろうか。
使わないなんてもったいない、PLATEAU SDK Toolkits for Unity(高橋 忍氏)
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社の高橋氏は、PLATEAUを使ったアプリ開発の支援ツール「PLATEAU SDK Toolkits for Unity」の機能と活用方法を紹介した。
「PLATEAU SDK Toolkits for Unity」は、PLATEAUを使ったアプリ開発の支援ツールだ。「Rendering Toolkit」、「Sandbox Toolkit」、「AR Extensions」、「Maps Toolkit」4つのツールキットから構成され、さまざまな機能をソースコードを書かずに実装できる。
Rendering Toolkitは、天候の表現や時間帯を設定しての夜景の表現、ハーフトーンマスクやトイカメラ効果の追加が可能だ。天候の表現では、スライダーを操作するだけで雪や雨、雲の量をコントロールし、都市のさまざまな表情をつくることができる。
Sandbox Toolkitは、用意された人や車、樹木などのオブジェクトをクリックやブラシの描画で簡単に配置できるツールキット。一人称視点と三人称視点の切り替えも簡単にできるようになっているという。
AR Extensionsは、ARアプリを開発するためのツールキットで、都市のマテリアルの一括変更やAR空間内の位置合わせ、ARオクルージョン機能をコードをほとんど書くことなく設定できる。
Maps Toolkitは、Cesiumからの都市モデルの読み込みやIFCモデルの読み込み、GISデータの読み込み機能を提供する。
さらに、これらのツールキットを用いたサンプルプロジェクトとチュートリアルも多数公開されている。高橋氏は、「Unityの機能だけでなく、これらのツールキットやチュートリアルなども活用して、今年度のPLATEAU AWARDに臨んでいただきたい」と締めくくった。
参加することで仲間との交流が生まれる
今回のライトニングトークの振り返りとして、河野氏は「PLATEAUのハッカソンは、企業や研究者による“真面目”な作品もあれば、個人によるチャレンジングな作品もある。一般的なハッカソンはどちらかに寄ることが多いが、PLATEAUでは参加するみなさん自身が楽しんでいる雰囲気がある。コンテンツとして発表する側にとっても見る側にとってもおもしろい」とコメントした。
久田氏は「作品を作ったらLTやAWARDなど、どこかで発表することが大事。私や河野さんもPLATEAU LTで発表しあって知り合い、PLATEAU仲間との交流が生まれた。完成度は気にせず、自己紹介代わりにぜひイベントに参加していただけたら」と語った。
今年度のPLATEAU AWARD 2024は、2024年11月21日まで作品を募集している。まだ応募を迷っている方も、まずプレエントリーしてみるとセミナーなどの案内が届くので、ぜひ登録していただきたい。