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ゼロワンブースターとリンカーズが語ったオープンイノベーション支援のヒント

JAPAN INNOVATION DAY 2024「2024年、日本のオープンイノベーションの現在地を探る」レポート

連載
JAPAN INNOVATION DAY 2024

 2024年3月1日、ASCII STARTUPはオールジャンルの先端テクノロジーやビジネスソリューションが集う展示交流・ビジネスイベント「JAPAN INNOVATION DAY」を東京・汐留にて開催。ここでは、展示会場内の特設ステージで実施されたトークセッション「2024年、日本のオープンイノベーションの現在地を探る」の模様をお届けする。

 トークセッション「日本のオープンイノベーションの現在地を探る」は、企業のオープンイノベーション活動を支援する株式会社ゼロワンブースターとリンカーズ株式会社、スイス・ビジネス・ハブの識者を迎えて、日本のオープンイノベーションの課題を探るセッション。

 パネリストには、株式会社ゼロワンブースターホールディングス 代表取締役 鈴木規文氏、リンカーズ株式会社 取締役 加福秀亙氏、ASCII STARTUPで連載「オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド」を執筆したスイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザーの羽山友治氏が登壇。ASCII STARTUPの北島 幹雄がモデレーターとして参加した。

オープンイノベーション支援事業者の役割

 トークテーマは「オープンイノベーションを後押しするゼロワンブースター、リンカーズは、どのような形でその取り組みを実施し、進化しているのか」。

 企業側から見たリンカーズとゼロワンブースターは大きく違うタイプのオープンイノベーション支援事業者として認識されていると羽山氏。その理由として、「リンカーズは主に研究および生産性の向上を目的としたオープンイノベーション活動、ゼロワンブースターは新規事業の創出を支援する活動に利用されているのではないか」と話す。

スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー 羽山 友治氏

 リンカーズは、東日本大震災のあった2011年に東北地方のものづくり産業活性化を目的に設立され、ビジネスマッチングを中心とした支援に取り組んでいる。

 現在は、インバウンド型のオープンイノベーションとアウトバウンド型のオープンイノベーションの2つのサービスを展開。外部(他者)の技術・知識・アイデアを自社に取り込むインバウンド型では、技術動向調査とパートナー探索を支援する。また内部(自社)の技術・知識・アイデアを外部(他者)に提供するアウトバウンド型では、用途アイデア出し、技術マーケティング、ウェビナー開催などの支援を提供しているという。

 ゼロワンブースターは、2012年にシェアオフィス運営からスタートし、アクセラレータープログラムや事業創造スタジオ、起業家教育、コミュニティ運営など幅広いサービスを展開している。企業のオープンイノベーション促進にはアウトサイドインのみでなく、インサイドアウト思考の文化醸成が重要であるとして、イントレプレナー(社内起業家)開発にも力を入れているそうだ。さらには、スピンアウト/カーブアウトの支援、M&A支援など、個々の企業の業態やフェーズに合わせたサービスを提供している。

 羽山氏は、「リンカーズとゼロワンブースターの両社とも幅広いメニューを持っている。その一方で、大企業のオープンイノベーション担当者はオープンイノベーションについての専門知識がなく、何をしていいのかわからない。わからないままに外部の支援事業者に委ねていいのか、それで本当に成果が出るのか、と躊躇してしまう」と課題を提示。

 これに対して鈴木氏は、「現実は、本業にフォーカスすべきなのか、事業ポートフォリオを分散すべきなのかといったイノベーション戦略そのものを定義できていない企業がほとんど。オープンイノベーション担当者が何をするかを考える段階にはなく、我々の場合は経営の意思決定権者である役員と対話することから始める」と説明する。

株式会社ゼロワンブースターホールディングス 代表取締役 鈴木 規文氏

 羽山氏は、経営者だけでなく事業担当者もオープンイノベーションについて理解すべき、という考えだ。その思いから、企業のオープンイノベーション担当者向けの入門書として『オープンイノベーション担当者が最初に読む本 外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』を上梓している。

 鈴木氏は、企業のイノベーション活動がうまく機能しない理由として、「経営者はイノベーションの必要性を頭では理解していても、納得できていない。伴走・対話をしてイノベーションの方向性を意識付けしなければ、ほとんどの企業は既存のマーケットに向かってしまう。そのための方法論探しに留まっているのが、日本のオープンイノベーションがつまづく現状」だと現場で感じる課題を話す。

初期から現在のサービスの進化と啓蒙活動

 セッション後半は、羽山氏が2社に質問する形式で展開。最初に「両社とも初期に比べてサービスの幅が広がっている。どのようにサービスを増やしていったのか」と質問した。

 加福氏は、「ものづくりの技術パートナーを探索する『リンカーズソーシング』というインバウンド型のサービスからスタートした。しかしこれだけでは、顧客と議論するうちにオープンイノベーションが止まってしまうケースがあり、そこからアウトバウンド型にシフトしていった。さらに、グローバルの調査で狙うべきインバウンドを定め、新しい技術を生み出し事業化するところまでを一気通貫で伴走支援できるようにサービスを拡充してきた」と説明。

リンカーズ株式会社 取締役 加福 秀亙氏

 鈴木氏は、「我々はコーポレートアクセラレーターとしてスタートした。1社1社向き合いながら個々の会社の悩みのポイントを改善していく活動の中で、支援させていただくべき領域が見えてきたことから、コーポレート・アントレプレナーシップ教育、スタートアップスタジオ、オープンソーシング支援などが出てきている。とはいえ、いきなりサービスパッケージをご依頼いただくのではなく、まずはご相談いただきたい」と対話からの支援を提案した。

 次の質問は、「オープンイノベーションの促進・発展のためには、知見を持つ事業者が積極的に啓蒙していかなければいけないが、どのような活動をしているのか」というものだ。

 加福氏は、「1000人規模のウェブセミナーを実施している。また、我々のオープンイノベーションのノウハウを地方銀行に展開し、地方でのマッチングに活用していただいている。同様に製造業にも展開し、製造業の研究者らが外部とつながる仕掛けづくりを考えている」と回答。

 鈴木氏は、「『破壊的イノベーション』という言葉があるように、イノベーションは従来の否定を伴うためなかなか浸透しない。オープンイノベーションの実践においても、企業は自社の既存の考え方を否定しなければならない。普通は我々のようなイノベーションサービス提供者がクライアントの既存事業を否定してサービスを売るのは難しいけれど、僕はこうしたことを13年間ずっと言い続けている」と答えた。

 最後に、セッションを総括して登壇者たちが一言ずつコメントした。

加福氏「日本でオープンイノベーションを活性化させることが重要。我々の取り組みとしては、これまでの国内限定から海外を含めたマッチングができる体制を整えたところ。今後は、いかに企業を改善する仕組みとして、生成AIなどを活用したSaaSづくりに挑戦していく。オープンイノベーションは一部の人だけがやる取り組みではないので、その世界観を作っていきたい」

鈴木氏「オープンイノベーションを考える前に、イノベーションはどうあるべきかを社内で考えてほしい。そのうえで引き出しが見つからなかったら、僕らのようなサービス提供者を頼っていただければ。僕らは対話を通して、クライアントに合った方向性を示し、一緒に伴走支援していきます。ただし、決して1年では結果は出ないものだとご理解いただきたい」

羽山氏「本日はとてもいい議論ができた。一方で、オープンイノベーションに関わり始めた担当者にとっては難しく感じられたかもしれない。オープンイノベーションの分野は共通言語がない。議論の最低限の知識が必要と考えたことが、書籍を書いたきっかけ。大企業だけでなく、スタートアップ、大学、政府や自治体など、オープンイノベーションに関わるすべての方に、ぜひ一読していただきたい」

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