京都からハードウェア、ディープテックのエコシステムを加速 Monozukuri Hardware Cup 2024開催
独自製品にかける情熱がぶつかるピッチイベント
「Monozukuri Hardware Cup」
「Monozukuri Hardware Cup 2024」では各社10分のピッチを行い、続いて3名の審査員からの質疑を行う。7社すべてのピッチ終了後、審査員が1位~3位までの入賞者を決めた。
「天然素材のタイヤ強化剤を開発」
リッパー株式会社
リッパー株式会社は、脱炭素社会に向けて環境に良い素材の社会実装を目指している。現在はタイヤに補強材として用いられているカーボンブラックに変わる天然素材のタイヤ強化剤の開発を進めている。
タイヤの補強素材は約100年にわたりイノベーションが起こっておらず、その結果として例えば海洋マイクロプラスチックの70%がタイヤダスト由来という報告もあり、EUで規制が導入されるともいわれている。リッパーは石油由来のカーボンブラックに代わってセルロースナノファイバーを用いたバイオゴム強化剤の開発を進めており、これによりCO2やマイクロプラスチックの排出量を80%削減することを目指している。
「我々の製品は2022年に国家プロジェクトにも採択されており、まだ課題は多いもののすでに環境に優しいタイヤ用の新素材の開発に成功している。我々の強みはタイヤのプロトタイプ生産から実地走行テストまでのサイクルを高速に回すことができる点にあり、昨年は600キロに及ぶ走行テストを実施し、基本的な走行性能は確認済みだ。
環境に優しいタイヤ補強材の市場は380億ドルと試算されているが、我々はまず自転車向けの交換タイヤ市場から参入を予定している。これも年間1億個の市場がある。価格も5年以内に従来型のタイヤよりも安くすることができ、市場規模は3年で1000万ドル、利益率は20%に達すると試算されている」(鈴木氏)
すでにコンタクトを取ったメーカーからは非常に良い感触を得ており、今年はまずレンタル自転車店に導入して実際の道路での利用を開始することにしている。来年には量産を開始し、ASEANを手始めに、環境先進地域であるEU、そしてBRICSへと進めていく予定だという。
ピッチ後に審査員から注目している国について質問があった。鈴木氏はすでに交渉を開始しているところとして台湾の企業を挙げ、カーボンブラックに対する規制導入が議論されているEUについても金融機関と話を始めていると回答していた。
「水中ドローンを用いて船底に付着するフジツボの防着および除去に取り組む」
株式会社シーテックヒロシマ
海にはさまざまな課題がある一方、そのソリューションは個別課題の解決に特化しており、大規模かつ体系的なものとなっていない。そこでシーテックヒロシマは技術力で海洋課題のトータルソリューションを生み出すべく取り組みを進めている。
「現在我々は船底に付着するフジツボの防着および除去に取り組んでいる。フジツボが船底に付着することにより、CO2排出量の増加を引き起こすなど、国内のみでも年間1000億円の被害を生じている。
フジツボの付着を防ぐには船底に特殊な塗料を塗るのが一般的だが、使用できる素材には年々規制が増えており、それだけでは完全な解決が望めない。除去作業もさまざまな方法で取り組んでいるが、肉体的・精神的に大きな負担となっている。そこで造船所および地元工場と連携して、我々は水中ドローンを用いてこの除去作業を行う技術を開発している」(今井氏)
審査員からは水中ドローンに将来的に持たせたいと思っている機能について質問があった。今井氏は、GPSを活用してドローンの位置を把握し、船のどこにどのようなものが付着しているかデータを収集する機能、およびカメラ機能を持たせて画像データをクラウドにアップする機能などを挙げていた。
また、大きな船舶会社はすでに船体を掃除するソリューションを持っているが、それとの違いについても質問があった。これについては、藻類の除去については既存のソリューションがあるが、フジツボを除去するほどに強力なもので、かつ塗料を落とさないようにする技術はまだなく、シーテックヒロシマはそれに取り組んでいると今井氏は回答した。
「自宅で心電図データの取得・解析・診断を可能にするデバイスを開発」
株式会社ココロミル
心疾患は日本人の死亡原因の第2位を占めており、年間約21万人が死亡しているだけでなく、患者数も300万人を超えているという。一般的に人間ドックなどで心電図の検査を行ったりもするが、数秒の検査で心不全の可能性を発見することは難しく、より正確な検査をするためにはある程度の時間をかけて検査する必要がある。
ココロミルは独自の心電図測定デバイスを開発し、患者がそれを自分で体に装着することにより、24時間にわたり心電図データを取得・解析・診断するサービスを提供している。
「きちんと心臓の検査を受けて、その結果を受け取るには現状4日程度の時間が必要で、平日に病院に行くことが難しい社会人にとって大きな課題となっている。我々の検査キットを使えば自宅で検査キットを受け取り、自分でデータ収集を行うことができるため、このロスタイムを4分程度に縮めることができる。
人間ドックなどによる通常の検査では心疾患の発見率は10%程度であったが、1500人の健常者を対象に我々の検査キットを用いた検査を行ったら36%の人がフォローアップが必要と診断された。検査キットの利用は簡単で、88歳の祖母でも自分で利用できるものとなっている」(高橋氏)
検査キットの価格は1万円程度と想定しているが、これは人間ドックが3~5万円程度かかるのと比較すれば十分リーズナブルと考えているとのことだ。
審査員からはアップルウォッチなど既存のウェアラブルデバイスとの違いについて質問があったが、手首からしか情報を得ることができないデバイスと違い、より正確な情報を取得できる点、および医療用機器としての承認を受けているため、病院で提供する医療サービス(の一部)として利用可能だという点が強みだと回答していた。