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世界を舞台に挑む日本のスタートアップに海外進出のポイントを聞く

XTC JAPAN 2024 パネルディスカッション「スタートアップ、海を越える」レポート

連載
JAPAN INNOVATION DAY 2024

提供: XTC JAPAN

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日本での普及が先か、海外進出が先か

水島氏:日本で普及しても世界にまで広がっていくことはあまりないというお話でした。米国や欧州で流行した技術は、BtoC技術でもBtoB技術でも、日本に自然に入ってくるということも多い中で、あまりに日本に最適化しすぎてしまうと海外に進出しにくくなるという悩みがあるのかと思います。この辺りについて、いかがでしょうか。

金氏:たしかに、新しい技術という観点で、日本の技術は世界に出たときに「信頼できる」と言ってもらえるのですが、なかなか受け入れてもらえないという難しさがあります。それよりは、米国で技術的に成功して、他の国に行くほうが説得力があります。

鈴木氏:弊社のような大学発バイオテックスタートアップの場合は、コンテンツのローカライゼーションとか、日本市場での成功などを考える必要がないところがメリットです。顧客に売り込む時も、アカデミックな論文が強みになります。英語で研究論文を出しているので、海外の顧客にも「これを読んでください」で済みます。むしろ日本のほうが説明しにくいという状況さえあります。

 正直、日本で成功してからというより、むしろ両方に同時に進出するぐらいのほうがいいのではないかと感じています。

堀内氏:SaaSもある意味、似たような状況です。SaaSの場合、日本では「メニュー画面を日本語にしてほしい」とみなさんよく言われますが、日本語に特化した途端、日本でしか使えません。

 エンタープライズSaaSの場合、バイヤーの日本企業も、日本に国籍があるだけで、売り上げの80%が米国や欧州などの海外というところも多いと思います。ということは、彼らもグローバルでのスタンダードになるものを求めているんです。

鈴木氏:35年ぶりに日経平均株価が最高値を更新しましたが、この10年、20年でうまくいっている日本企業を見ると、海外で頑張っている企業です。我々スタートアップが“成功している日本企業”を勉強しようとすると、たいていその例は海外で成長している企業です。なので、むしろ「何で海を越えないんですか」という質問が来るべきなのでしょう。

堀内氏:トレジャーデータの開発部隊は日本が主流でした。それは日本人のエンジニアの方たちの人件費が、クオリティに対して、すごく安いからです。そのギャップを使って、日本がむしろ“オフショア先”だったんです。日本の私たちにとってすごく辛い現実ですが、これを甘んじて受け入れて外貨を獲得するというのは、合理的な決断だったという気がします。

海外進出にあたって “武器” となるものは?

水島氏:海外に出るにあたっては、いろいろなリソースやツールなどの“武器”が必要になると思います。みなさんが事業を展開する中で、どういったリソースが実際に役に立ったのかを教えてください。

金氏:基本的に弊社の技術はサイエンティフィックベースなので、科学的なバックグラウンドの強みを前面に押し出しています。例えば、著名なジャーナルに論文を出しています。これを見せるとクオリティを理解してもらえるるので、まず入り口となる良い論文を書くことを重視しています。また、活動していくうえでやはり英語が必要なので、英語ができる社員を積極的に雇っています。

鈴木氏:リソースはヒト、モノ、カネ、戦略とありますが、根本でいうともちろんお金の部分はあります。米国に進出すると当然コストかかりますから、それで支出ばかりが一気に増えてしまっては話になりません。

 また、弊社の場合は事業展開において良い人材を早めに採用できたことがブレークスルーにつながりました。海外で勝負をするときに、やはりローカルの人材を早めに取っておくことが必要です。そのために社内の制度や人事上の仕組みを英語対応できるようにしておかなければなりません。

堀内氏:米国で物を売るのに、現地で日本人がいくら頑張っても英語も交渉力も劣ってしまうので、やはり優秀な現地スタッフを雇いたい。特にSaaSの場合は、物としての良し悪しだけでなく、より強い営業力が欠かせません。さらにいうと、米国の営業の方たちもブランドが大事です。スタートアップには「セールスフォース」のようなブランド力はありません。スタートアップの場合のブランドは、ベンチャーキャピタル(VC)です。「このVCが出資しているなら数年は潰れなさそうだからチャレンジしよう」というロジックは、日本人でも米国人でも変わりません。

金氏:事例はかなり重要で、我々も今後米国で資金調達するにあたって、日本の中でもバリューのあるところに投資してもらうことを気にしました。世界に出たときも、「ここに投資してもらっているなら信用できるね」というところを投資元として選んでいます。

水島氏:人材を採用するときに影響力のある投資家の存在がひとつのツールとして使えるというお話がありましたが、それ以外にローカルのタレントを引き付けるための工夫はありますか?

堀内氏:米国西海岸には日本が好きな人が多いので、僕らは日本をウリにしました。僕らのところに来ると少し給料が下がってしまいますが、クオーターベースのミーティングで定期的に東京に来られるとかコンテンツと食があれば、それでも来たいと言ってくれます。

鈴木氏:弊社にフルタイムで入った従業員2名とも日本企業で勤務していたことがあります。日本語を一生懸命学んでいて「日本が好き」と言う人は結構います。良い人を1人見つけられれば、あとはその人に紹介してもらうこともできます。

水島氏:ちなみにそのような人材はどうやって探すのですか?

鈴木氏:業界ごとに有名な人はいるので、公開情報の範囲で経歴を見たり、その人が書いたものを見たりします。どれだけ時間を使うかにもよりますが、探せば情報は出てきます。逆に、日本ではそうした情報を探すのが難しい。大企業でずっと働いていた人が辞めても情報がなかなか出てこないので、日本のほうがクローズドな印象すらあります。

堀内氏:弊社の場合は、VCだけでなく、エンジェルがCFOを紹介してくれました。

金氏:私の場合は違っていて、ターゲットが農業業界なわけですが、植物に興味があるだけで即戦力としてすぐに働けるわけではないという問題があります。今のフェーズだと、現地のことをよく知っていてそこで培ってきたその人の経験を重視しているので、現地の展示会や農家を回り、「この人は良さそうだ」と感じたら直接会って交渉したりしています。

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