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麻布台ヒルズにベンチャーキャピタル集積拠点が誕生 相互交流でユニコーン創出を狙う

 2023年11月28日夜にベンチャーキャピタル(VC)拠点「Tokyo Venture Capital Hub(東京ベンチャーキャプタルハブ)」の開会式典が開催された。11月24日に開業した複合施設「麻布台ヒルズ」(東京都港区)に設けたVC拠点で、独立系VCと、大企業を母体にしたコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を合わせて約70社を集積させ、リスクマネーの供給拠点を目指す。スタートアップを対象にした支援施設は各地にできてきたが、投資するVCに焦点をあてた施設は珍しい。

 麻布台ヒルズの森JPタワー33階の大階段で行われた式典で、 森ビルの辻慎吾社長は「日本初の大規模なVC拠点のTokyo Venture Capital Hubは、スタートアップの成長を支える資金の拠点としてVCの活動を支援したい。国内外のスタートアップがまず足を運び、VCの裾野が広がる好循環が広がることを願っている。シリコンバレーのサンドヒルロードのように、日本初のユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)がここから生まれ、この一帯が東京や日本の発展に貢献するよう取り組んでいく」と述べた。

 来賓で招かれた東京都の小池百合子知事は「多くの投資家と交流が持てるのは、スタートアップにとって貴重な機会だ。都のスタートアップ支援拠点の『東京イノベーションベース』が有楽町で11月27日にオープンしたばかりだが、イノベーションを生み出すには人と人のつながりが欠かせない。ここ麻布台と虎ノ門、そして有楽町がうまく連携していければと思う」と祝辞を述べた。

 会場には経済産業大臣の西村康稔氏も駆けつけ、施設に参画する独立系VCやCVCの関係者と記念撮影して施設の誕生を祝った。

VCが日常的に顔を合わせて交流

 麻布台ヒルズは、東京メトロの南北線「六本木一丁目駅」と日比谷線「神谷町駅」に囲まれた約8.1ヘクタールの広大な区域に設けられ、高さ日本一で約330メートル(64階建て)の「森JPタワー」など3棟の超高層ビルを中心にした複合施設だ。その一角で曲線を多用した編み目模様のような外観が特徴的な「ガーデンプラザB」棟の4階・5階(約3600平方メートル)にTokyo Venture Capital Hubはある。

 施設にはオフィス区画と、イベントスペースに転用できるコワーキングスペースがあり、ラウンジなどでVC各社が日常的に顔を合わせて交流できる。スタートアップへの投資を1社ではなく数社で行なう「協調投資」を増やしたり、シードからアーリー、レイターとステージが上がるごとに得意なVCにバトンを渡す「投資リレー」をスムーズにできるように施設を運営していく。

 重視しているのがVCの相互交流だ。特にCVCの場合、人事異動で着任した企業の担当者はスタートアップを育てる専門家ではなく、金融やベンチャー投資の知識も経験も乏しいのが実情だ。そこでVC同士で経験やノウハウを共有して学び合い、ファンドの運営などスキルアップする機会を提供する。施設に関心を示すCVCの要望に応え、2024年7月までに個室も新たに設ける方針だ。

 施設の運営は森ビルが担い、VCやスタートアップのネットワーキングイベントやピッチイベント、最新技術を紹介するセミナーや勉強会も開いていく。ただイベントは当面は施設関係者を中心に運営する。特許など機微な情報がオープンになることを気にする大企業の意向に配慮するためだ。

 現時点で参画するVCは13社、CVCは29社で計42社が決まっており、半年から1年ぐらいかけて70社に近づける。オフィス区画には日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)のほかに既に数社が拠点を構えている。投資を受けるスタートアップがここを訪れれば、一度に数社と面談できる可能性が広がる。

森ビルがCVを支援する理由

「東京が国際都市間競争で勝ち抜くためには、イノベーションを起こすスタートアップ企業を輩出していくことが特に重要」とする森ビルはこれまで、近くの「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)に大企業の新規事業創出を支援するインキュベーションセンター「ARCH(アーチ)」を設立。米国ボストン発のスタートアップコミュニティーのアジア初拠点「CIC Tokyo」も誘致し、国内外スタートアップの集積地となるよう取り組んできた。また、経済産業省の「海外における起業家等育成プログラムの実施・拠点の創設事業」の委託先に選出され、米国シリコンバレーのパロアルト市に地下1階、地上2階のビジネス拠点「Japan Innovation Campus」を設けた。

 そうしたスタートアップへの注目が集まる一方で、森ビルはスタートアップを陰から支えているVCの発信力の向上や社会的認知の向上も必要だと考えた。VCの拠点をつくることで発信力が増し、一般的な認知が高まることで優秀な人材を招き入れて業界の発展につながる好循環を促す。

 スタートアップの育成に不可欠なリスクマネーの供給で、米国と日本の差が大きい。米国の年間35兆円に対して日本では0.8億円にとどまる。「チケットサイズ」と呼ばれる1件あたりの投資額は、米国でアーリーは13億円だが日本は1億円、シードでも米国は1億円だが日本は0.6億円で、このサイズでも桁違いだ(内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局「スタートアップ・エコシステムの現状と課題」:2022年2月2日)。

 森ビルの辻慎吾社長が式典で言及した米国カリフォルニア州シリコンバレーにあるVCの集積地の「Sand Hill Road(サンドヒルロード)」は、緑が豊かな森の中の大通りの約2.3キロメートル沿道に45のVCが集まっている(2023年1月現在)。資金調達を希望するスタートアップはサンドヒルロードを訪ね、効率よく投資家に会って事業を説明することができる。「サンドヒルロードを日本で再現してイノベーションが産まれるハブをつくる」という構想を実現したのがTokyo Venture Capital Hubだ。虎ノ門ヒルズのARCHなど森ビルの他の施設とも連携して、虎ノ門から麻布台エリアでインベーションエコシステムを強化していく。

 森ビルでVCセンター企画・運営を担当するオフィス事業部企画推進部/ARCH企画運営室の飛松健太郎課長は「ガーデンプラザB棟の目で見て忘れない(形状の)施設でこれからの時代を象徴し、日本を代表するリスクマネーの供給拠点を目指してスタートアップの成長を支えていく」と話している。

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