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IT✕医療が交わるエンジニア組織のあり方とは?

連載
マスク・ド・アナライズのスタートアップ!人事!

 日本の医療は世界的に見ても高い品質とされています。しかし制度や効率の面で問題もあり、高齢化による医療費の増大など課題が山積しています。そのような現状を変えるべく、医師とエンジニアにより2017年に設立されたのがUbie株式会社です。テクノロジーによって医療を変えるべく尽力するスタートアップであり、SNSなどでの入社エントリーでもよく見る会社名です。本記事ではUbie Product Platformでエンジニアをまとめる菊田遥平氏に、お話を伺いました。(本文敬称略)

リファラル採用率が7割。ITと医療に強いエンジニアの育成方法

マスクド:これまでの経歴とUbieにおける役割について教えてください。

菊田:Ubieへの入社は2020年4月です。最初の1年半は機械学習エンジニアとして、アルゴリズムの開発や社内データの活用に注力しました。その後、エンジニアにおける目標管理や能力開発に取り組み、OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)を導入するなど組織作りの役割が拡大してきました。これは組織が大きくなるにつれて、運営指針の言語化や評価基準の策定などが重要になったためです。ここ半年ほどは経営会議にも参加して「Ubieのプロダクトが事業にどう寄与するか」という、大きな戦略を描く役割を担っています。弊社は役職を固定しないホラクラシー型組織なので明確な役職名はありませんが、他の会社であればエンジニアリング組織の責任者となる執行役員やVPoEといった立場です。

 Ubieの事業としては、医療技術から生まれた問診エンジンと症状検索アプリの2種類があります。創業時から開発している症状から関連する病名を表示するコアの部分は、少人数のエンジニアが医師と連携しながらアップデートを続けています。対して生活者向けに提供するアプリなどのプロダクト開発は、より多くの人員を割いています。

マスクド:短期間で人員が増えて組織が拡大していますね。

菊田:Ubieには毎月6〜7名が入社しています。私が所属するプロダクト開発を行うUbie Product Platformのメンバーは、120名ほどです。1年前は80名程度だったので、急拡大したと言えるでしょう。エンジニアの採用はリファラルが中心で、約7割を占めています。これは会社の文化としてリファラルが根付いており、自分たちが一緒に働きたいと思う人を自発的に呼び込むためです。もっとも、一朝一夕でリファラルを増やすのは難しいですし、報奨金を出せば成功するとも限りません。社員全員が採用において、「Ubieと事業について詳しい自分達が、優秀な人材を引き入れるのが最善である」という考えを持っているためでしょう。

 また、医療という社会的な影響力に魅力を感じて入社する人も多いです。例えばお子さんが生まれると医療機関にお世話になる機会も増えますが、そこで日本の医療におけるレベルの高さ、また一方で非効率さを痛感して、テクノロジーで解決したいと思うきっかけになっています。

マスクド:エンジニアの職種が細かく設定されており、医師も採用している背景は何がありますか?

菊田:我々が提供したいプロダクトを考えた場合に、職種に求められる要件を明確に描けないと高い能力を持つ人に刺さりません。そこで職種を細かく分けています。特に医療分野においてセキュリティーは重要なので、早い段階から専任の担当者が注力しています。

 医師の採用はUbieの特徴であり、チームの一員として医師とエンジニアが共同で開発を進めています。医療知識がプロダクトにとって重要なのはもちろんですし、プロダクトを成長させるために医学的観点から積極的に参加してもらっています。

 また、組織や人材開発に専念する職種も募集しています。現在はプロダクト開発チームが120名程度で、エンジニアは60名程度の規模ですが、さらに組織が大きくなれば採用方針、組織全体の設計、個人の能力開発も重要になります。そこで私だけでなくチームの生産性を高めるための専任人材にUbieにおける新たな戦略の立案や運営を任せて、浸透させていく役割を求めています。

マスクド:ITと医療に強いエンジニアは、どのように育成されていますか?

菊田:私自身を含めて多くのエンジニアは、医療分野について最初から詳しいわけではありません。そこで必要な知識を身につけるため、意識して仕組みを整えています。例えば入社時の研修などを行うオンボーディングで医療知識を提供するだけでなく、実際にUbieのプロダクトが使われている医療機関を訪問して現場を理解してもらいます。そこで医学的な知識に加えて、実際にプロダクトがどのように活用されているか知ってもらいます。さらに日々の開発において必要な情報を医師からエンジニアに説明しますし、エンジニア自身も自発的に勉強するタイプの人が多いです。例えば資格取得のために勉強する人もいるので、会社としても仕組みを作るだけでなく自分から進んで学習する意欲を後押しするようにしています。

 エンジニアと医師は異なる職種ですが、それぞれに強みや専門性があります。両者がつながってお互いに知見を共有することで、プロダクトに活かせるのはUbieの大きな利点だと思います。さらにエンジニアと医師に限らず、異なる職種の人々が混ざりやすい環境があります。デザイナーやビジネスサイドのメンバーも加わりながら、立場や部門にとらわれない組織運営を行っています。これによって異なる専門性を持つメンバーが一緒に働きながら、それぞれの知見を共有してプロダクトへと反映しています。このような企業文化は珍しいですが、Ubieの設立が医師とエンジニアの出会いから始まった背景もあって根付いています。

ストックオプション制度発表でリファラル採用が5倍増

マスクド:組織が大きくなると、どのような変化がありますか?

菊田:私が入社した頃はエンジニアを含めて社員全員で50名ほどでしたが、現在は280名程度になりました。組織が大きくなると、全員があらゆる情報を把握して意思決定することが難しくなります。しかしそれぞれのエンジニアがUbieを成長させるため自発的に技術を使っていく姿勢は、創業当時から弊社の強みであります。特にエンジニアでは、役職や階級がない役割を意識したホラクラシー型組織を導入しており、事業やプロダクトに対して積極的に提言しながら実行できる仕組みができあがっている点を維持できているのが大きいです。

 大型の資金調達も行いましたが、事業を成長させる目的はぶれていません。事業はtoC(症状検索アプリの提供)とtoB(AI問診等の診療支援サービスの提供)、さらに製薬事業向けへと広がっていますが、今後も人材とプロダクトへの投資に注力していきます。

マスクド:評価制度について教えてください。

菊田:プロダクト開発組織では、報酬に紐づく評価は行っていませんし、今後も予定はありません。背景として評価するための作業は非常に手間がかかりますし、お互いが納得するため大量の情報をそろえなければいけません。我々としてはその手間を、人事評価よりもプロダクトやお客様に向けたいです。とはいえ、働く側として報酬も重要なので、事業成長と連動した報酬体系を採用しています。業績が良ければ報酬やストックオプションが増える仕組みです。

 ただし報酬とは別に、エンジニアへの期待と成長に紐づけるための評価も行っています。特にUbieではフィードバックを重視しています。エンジニアに対してお互いに求める役割やスキルなどを言語化しながら、本人と事業が成長できる具体的なアクションを決めるなど力を入れています。求める人材の種類を6つに分けながら、それぞれ能力や得意分野を分析しています。個人のスキルや状況に応じて、目標や能力開発を話し合いながら、フィードバックを行っています。このようなエンジニアへの期待と成長のための設計が事業拡大に繋がり、業績と報酬に反映される流れです。

 また、ストックオプション制度を見直すことで、対外的な話題になりました。影響としては社員におけるストックオプションの理解が深まり、事業を成長させることが自分自身への報酬と価値にも繋がるという意識が浸透したことです。実はストックオプション制度の発表をきっかけに、リファラル採用も5倍ほど増えており、ブランディングの観点からも有効に機能しています。

生成AIが及ぼす影響と今後の展望

マスクド:昨今ではChatGPTなど生成AIが話題です。Ubieでは症状から関連する病名を表示するアプリをコアに各種事業を手掛けられていますが、エンジニアにおける仕事はどう変わりますか?

菊田:率直に言って、とてもおもしろいと思います。我々のプロダクトという観点では、誰もが簡単に柔軟なインターフェースでアクセスできる点が大きいです。高度な専門性が求められる医療において、生成AIを取り入れれば、より適切な医療を案内できる選択肢が広がるかもしれません。

 従来の機械学習モデルにおいても個別に様々なモデルを利用することで自然言語や画像などを取り扱うことは可能でしたが、それには相応の負担がありました。しかし生成AIという1つのインターフェースで自然言語だけでなく画像や音声などの様々な用途で使えることは、大きな可能性が見込まれます。例えば利用者の病状を把握する場面では、あらゆるパターンを網羅して聞くのは大変です。そこで自然言語なら的確に把握できますし、画像で怪我の外傷を確認できます。また医師にとっては手間がかかるカルテの要約を代行するなど、プロダクトに貢献できる内容も多いのでとても注目しています。

マスクド:Ubieの今後の展望について教えてください。

菊田:2017年の創業から積み上がってきた技術的負債の解消と並行して、将来に提供できる価値を増やすことが当面の目標です。また、プロダクト開発においては自覚症状が出たタイミングで利用する症状チェッカーの範囲を越えて、より効果的な治療方法を紹介したり、処方されている薬の効果が低ければ別の薬を提案するといった、新たな価値提供を目指します。Ubieとしてより多くの生活者に適切な医療を提供し、医療支援サービスの代表になることを目標としています。

 また、医療系プロダクトとしては、現時点で完成しているのはほんの一部です。適切な医療提供にあたって、技術の力で可能となる部分も見えてきました。あとはそれをどうやってプロダクトとして開発しながら、利用者に提供できるかにチャレンジし続けて、目指す世界を実現できるかどうかです。そのために今後も組織運営と採用を拡大していきたいですね。

取材を終えて

 入社エントリーでよく見かけるUbieの背景には、職種を問わず社員全員によるリファラル採用という側面がありました。そしてUbieには「優秀なエンジニアと一緒に働きたい」という向上心や、「医療で社会に貢献したい」という理念に共感できる環境があります。日本の医療体制は世界的に見ても高度ですが、ITの分野では非効率な仕組みがある点も否めません。これまでITが活躍する場面が少なかった医療分野において、さらなる飛躍を実現する魅力を秘めた会社でした。

マスクド・アナライズ

空前のAIブームに熱狂するIT業界に、突如現れた謎のマスクマン。
現場目線による辛辣かつ鋭い語り口は「イキリデータサイエンティスト」と呼ばれ、独特すぎる地位を確立する。
"自称"AIベンチャーを退職(クビ)後、ネットとリアルにおいてAI・データサイエンスの啓蒙活動を行う。
将来の夢はIT業界の東京スポーツ。
最新書籍「データ分析の大学」が好評発売中!

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