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PLATEAUでまちづくりを考える! 堺市×PLATEAU「イノベーティブ都市アイデアソン」

「未来を創るイノベーティブ都市アイデアソン 堺市×PLATEAU」レポート

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: PLATEAU/国土交通省

この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 2023年10月22日、大阪府堺市にて地域課題解決型アイデアソンが行われた。国土交通省が共催し、PLATEAUを使ってローカルな課題を解決するアイデアを競うものだ。グランプリを獲得したアイデアは、堺の魅力を伝えるイベント支援ツール。PLATEAUのGIS情報を使ってイベント運営管理を視覚化・簡素化することで、イベント開催に付随する課題解決も狙うというものだ。

堺市の5つの重点戦略

 イベントの舞台となった堺市では、「堺市基本計画2025」において、市が掲げる都市像「未来を創るイノベーティブ都市~変化を恐れず、挑戦・創造しつづける堺~」の実現に向け、5つの重点戦略を設定している。

1. 堺の特色ある歴史文化~Legacy~
2. 人生100年時代の健康・福祉~Well-being~
3. 将来に希望が持てる子育て・教育~Children's future~
4. 人や企業を惹きつける都市魅力~Attractive~
5. 強くしなやかな都市基盤~Resilient~

 今回のアイデアソンでは、この5つの重点戦略のいずれかをテーマにPLATEAUを活用し、ローカルな社会課題をどう解決していくかが肝になる。オンラインの参加者も含め19名が集まり、1日で新たなアイデアを形にしていった。

 堺市では、建築物モデルLOD1・LOD2などの3D都市モデルが2022年に公開済みだ。LODとは詳細度のことで、一部地域では屋根形状が正確な建築物モデルLOD2が用意されている。また、自治体が整備した位置精度の高い形状情報に加えて、属性情報(地物の形だけでなくその意味)も使えるため、位置情報サービスのほか、ゲーム、アート、AR/VRなど、さまざまな分野での活用が期待できる。

 当日は、午前中にアイスブレイク、チームビルディングを経て、午後から本格的にチームアイデアソンという形で、実質半日で仕上げるというタイトなスケジュール。その日の夕方には全7チームが最終発表を行った。審査の基準は、「3D都市モデルの活用度」「アイデア、独創性」「プレゼンの完成度」の3点。もちろん、PLATEAUを活用したアイデアであること、「堺市基本計画2025」における5つの重点戦略に関連することが前提条件となる。

 ファシリテーターは近藤令子氏(合同会社MOMENT)、遠藤諭氏(株式会社角川アスキー総合研究所)が進行を実施。サポーター兼審査員は、簗瀬洋平氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社 ※オンライン参加)、弘本由香里氏(大阪ガスネットワーク株式会社 エネルギー・文化研究所)、内山裕弥氏(国土交通省)らが務めた。

グランプリはチーム「堺衆」、堺のイベントから世界の“境”をなくす

 グランプリを獲得したのはチーム「堺衆」だ。5つの重点戦略のうち、着目したのは「堺の特色ある歴史文化~Legacy~」。堺市の魅力をどう活かすかということで、オンライン(VR/AR)、オンサイトを含めた、イベント支援サービス「ボーダレス」を提案した。

ボーダレス~堺のイベントから世界の境をなくす~

 現在、関係人口を増やす施策として、各自治体がさまざまなイベントを開催しているが、問題も山積している。例えば、イベント関係者とのコミュニケーションや宣伝・集客の難しさ、人手・時間・予算といったリソースに制限があるといった課題がある。人が集まるだけでは地域の事業者の収益につながりにくいこと、イベントによっては交通封鎖による渋滞が発生するなど、地域住民にとってメリットが少ないことから、イベント関係者と地元住民の間の温度差が少なからずあり、摩擦が生まれやすい状況になっている。また、オンサイトのイベントでは、安全性の確保も重要な課題となる。

 こうした現状分析から、テクノロジーを活用していかに問題を解決するかを模索した。まずPLATEAUのGIS情報を使って、イベント時における交通整備や人流シミュレーションなどを実施し、従来の紙を使った検討からの効率化や経験をベースとしていた意思決定を根拠で裏付ける。また、文字だけではない視覚的な情報から、イベントの関係者や地域住民などステークホルダーとの情報共有も容易になる。

 次にコンテンツだ。堺市には古墳や路面電車、地元メーカーに関連するサイクリングイベント、お祭りといった魅力的なコンテンツがたくさんあるが、それらを活かしきれていないと考察。この点に関しては、VRやARといった技術を使うことで新たな観光体験を提供する。バーチャルであれば、古墳の外堀クルーズといった、リアルでは入れない場所を使ったイベントも可能だ。

 人を呼び込むだけではなく、バーチャルの会場で地元の企業・商店から特産品や地場産業製品を購入できるようにしたり、ふるさと納税の仕組みを使うなどの施策も考えられる。さらに、VRやARならではの演出の利用例として、違う地域のお祭りを堺市内で開催することや、街並みをジオラマ化する、などが考えられる。バーチャルでは季節や距離といった制約を超えて、いろいろなイベントが体験可能になる。

 関係者へ行うイベントの概要説明についても、過去の実績や経験でしか示せなかった点をより詳細に説明できる。お祭りであればPLATEAUの3D都市モデル上で人流分析をするなど、具体的かつ詳細な情報として提示できる。

 また、VR/AR観光アプリで課題になるのはクオリティとデータの重さのバランスだが、高精度なリアリティの追求に向かうのではなく、「ほぼほぼ堺」として抽象化することで軽くし堺の世界観を打ち出す、とする。

堺から世界へ、世界から堺へ

 グランプリの受賞は、情報を分析するための基盤としてPLATEAUの利用を想定するなど、さまざまな側面から価値を引き出そうとしている点が評価された形だ。「PLATEAUすべてを使って堺市全体を盛り上げようという姿勢が、市にとってもPLATEAUのプロジェクトにとってもすばらしい」と内山氏は述べた。

堺市賞はチーム「鳥刺し」とチーム「失敗」

 堺市賞は「鳥刺し」と「失敗」の2チームが受賞した。

 まず、チーム「鳥刺し」から紹介しよう。「鳥刺し」は重点戦略のうち、「堺の特色ある歴史文化~Legacy~」と「将来に希望が持てる子育て・教育~Children's future~」の2つに注目し、特に教育の部分に力を入れたという。

さかい町探検アプリ

「鳥刺し」が提案したのは、実は古墳が多いという堺市の歴史を学ぶことと、堺市についてより深く知ってもらうことを目的とした教育アプリ「さかい町探検アプリ」だ。PLATEAUによって作られたバーチャルの街をタブレットで参照しながら実際に現地をまわり、地域の人から解説を聞いて堺市について学んでいく。特に、地域の人から「私はここでこういう生活をしている」という内容を聞くことによって地元への理解を深めていくことが重要と考えた。

 小学校などの地域学習の授業で使われることを想定し、ゲーム要素のほか、防災や観光の要素をいれたり、"マイ古墳"を作るなどのコンテンツを考えている。ウェブ上でPLATEAUのデータを観覧できるようにし、そこに古墳の位置データを組み合わせて古墳探しのコンテンツを展開するというイメージだ。

コンテンツの一例、クイズのイメージ

 受賞理由について、子育てしやすい都市ということに力を入れている堺市の行政によく合っている、また、「やはり堺と言えば古墳」というところだと堺市 都市計画課 土地利用係長の嵯峨英司氏は述べた。古墳に絡めて堺市の将来を担う子どもの教育に着目した点が評価された。

堺市 都市計画課 土地利用係長
嵯峨 英司氏

チーム「失敗」:「住んでないけどわかる住ムレーター」

 チーム「失敗」が提案したのは「住んでないけどわかる住ムレーター」。新居を決める際に「今ここに住んでいたら……」をシミュレーションできるというもの。重点戦略としては「将来に希望が持てる子育て・教育~Children's future~」、「人や企業を惹きつける都市魅力~Attractive~」、「強くしなやかな都市基盤~Resilient~」に着目した。

住んでないけどわかる住ムレーター

 例えば会社員なら、仕事先の情報や始業時間を設定すると通勤ルートを提示してくれたり、「自転車を使用している」とか「ベビーカーの移動が多いので道路の舗装状況が知りたい」、「できるだけ日陰がいい」、「夜はオフィスビルの前は怖いから通りたくない」といった情報を設定すれば、それに応じた情報を提示してくれる。

 また、日常の数値化ということも構想している。行動範囲や移動歩数、あるいは「家にいられる時間はxx時間」、「睡眠時間がこれだけ確保できる」というような具合に、日常生活における数値を提示したいと述べた。その一環で、高層階の平均気温や眺望などに関連してPLATEAUのデータを活用できないか、引き続き調べてみたいという。

こだわりを設定してマッチした情報を提示する

 受賞理由は、新居に住んだら日常生活がどうなるかを事前に調べるという発想の面白さと、日陰などのシミュレーションのほか、道路の舗装による歩きやすさなどに着目した点だ。堺市 都市計画課 課長の久保和貴氏は、“居心地が良く歩きたくなるまち”を目指す「ウォーカーブル」というキーワードは最近よく言われており、堺市としても具体的に検討していきたいところだと述べた。

堺市 都市計画課 課長
久保 和貴氏

チーム「SIM堺」:「脱炭素まちづくりシミュレータ」

 アスキー賞はチーム「SIM堺」が受賞。「SIM堺」が提案したのは「脱炭素まちづくりシミュレータ」。重点戦略としては「人や企業を惹きつける都市魅力~Attractive~」にかかってくる。

脱炭素まちづくりシミュレータ

 堺市はエネルギーの地産地消に力を入れており、2021年3月には市長がゼロカーボンシティを宣言している。特に脱炭素への取組として、泉北ニュータウンおよび都心エリアにて施策を進めている。それを踏まえての提案だ。

「脱炭素まちづくりシミュレータ」はさまざまなものの脱炭素化の効果を予測、出力できるサービスだ。例えばエリアを指定して現在の二酸化炭素の予測排出量を表示する、さらに脱炭素化効果が期待できるものを配置していくことで削減効果がわかるという形だ。ユーザーとしては、まちづくりを進める都市計画の担当者、あるいは建設コンサル、建築設計事務所を想定している。

さまざまなものの脱炭素化の効果を予測する

 その他、炭素削減量シミュレータ、省エネ街灯の利用による脱炭素化効果を予測・出力する街灯シミュレータ、熱吸収・CO2固定による炭素削減量シミュレータなども構想している。

 国土交通省の内山氏はこの手のソリューション、ビジネスモデルはフィジビリティ(実現可能性)が高いと評価。また、角川アスキー総合研究所の遠藤氏は、メンバー3人それぞれのアイデアがうまく混ざったのではないかと、アイデアソンの成果として評価するコメントを寄せた。

39歳以下の子育て世代サポート、再婚者専用婚活アプリ

 オーディエンス賞は同率でチーム「堺衆」とチーム「失敗」が受賞した。その他のアイデアも、いずれも興味深いものばかりだ。

チーム「TAMUTAMU」:住まい選びのサポートサービス(すまいChoose)

 注目した重点戦略は「人や企業を惹きつける都市魅力~Attractive~」。「すまいChoose」は、39歳以下の子育て世代をターゲットにした住まい選びのサポートサービス。住まいを選ぶ際に、実際にその場に出向いて街並みを散策して街を調ベなくとも、バーチャルに体感できるというもの。3Dの利点を活かし、子どもの視点での体験や家具の大きさを考慮した生活体験を提供する。転出者が増加傾向にある20代から30代に対し「町の住みやすさ」を提示することで転出してしまう人を減らそうと考えている。

住まい選びのサポートサービス(すまいChoose)

チーム「TTY」:「これからや、さかい!」

 注目した重点戦略は「将来に希望が持てる子育て・教育~Children's future~」。地域創生と少子高齢化対策をテーマに、生産年齢人口を外部から誘引することを目指し提案するのは、堺市内でのセカンドライフを全力で応援する再婚専用のマッチングアプリだ。デートプランを作成し、将来の暮らしを視野に入れたツアーを開催するなど、移住後の具体的な生活スタイルについて想像しながらマッチングを進めていくことができる。ひとり親世帯の所得改善、教育格差是正、労働力人口の獲得、堺市内事業者の人材獲得、泉北ニュータウンなどの居住者獲得、納税者数増を目指す。

これからや、さかい!

チーム「K」:制約を使いこなし戦略思考で賢くハッピーに

 注目した重点戦略は「人や企業を惹きつける都市魅力~Attractive~」。課題として、地域や町の各種イベントなども含め、プロジェクトマネジメントスキルが不足していると定義し、問題解決力の習得を支援するサービスを提案した。例えば、地図内の建物ごとに仕事スキルを数値化し、さらに階数ごとに可視化すれば、スキルの低いテナントを対象に近隣で協力し合って研修をするなどの施策が考えられるとする。

地方や人口減少といった制約の中での生産性向上を目指す

地域課題×PLATEAUの可能性

 ここからはイベント全体を振り返って、サポーター/審査員による講評を紹介する。

簗瀬氏:今回気づかされたのが、地域ハッカソン/アイデアソンには地域ならではのアイデアを活かしてほしいと思いがちですが、やはり普遍的な、人類として共通の課題について考える必要はあるのだなという点です。地域の問題を考えている人と大きな問題を考える人が同じ場所でアイデアをあれこれ考えていく中で相互作用が生まれて、何か新しいものが出てくるところが面白いと思いました。すべての発表がとても興味深かったです。ありがとうございました。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社
簗瀬 洋平 氏

弘本氏:この短い時間で、ここまでまとめあげられたみなさん、本当にすばらしいなと思います。どのチームの提案もとても刺激的で勉強になりました。私はまちづくりに関わる審議会等に参加することも多いのですが、そういう場では、ともすると当事者の目線ではなく、限られた目線での議論が交わされていることも多いのです。ですが、今日の提案は本当に当事者の側から提案されていて、そのためにPLATEAUをどう使うかということをしっかりと考えていらっしゃる。これからのまちづくりのあり方として受け止めないといけないなと思います。

大阪ガスネットワーク株式会社 エネルギー・文化研究所 特任研究員
弘本 由香里 氏

内山氏:PLATEAUの開発イベントはもう何十回とやっていますが、地域の課題がお題としてあって、それにPLATEAUを組み合わるという形は、実は、今回が初めてでした。参加されたみなさんからすると、これは非常に難しいと思います。でも、本当にみなさん、一生懸命考えていただいた。ビジネス、あるいは市の政策につながっていくとうれしいです。アイデア自体が政策への示唆になったり、アイデアソンみたいなやり方が政策を考える上で非常に意味のあることだということを理解していただけるとさらにうれしいです。

国土交通省 総合政策局 情報政策課 IT戦略企画調整官 / 都市局 都市政策課 デジタル情報活用推進室
内山 裕弥 氏

久保氏:みなさん、一日、本当にお疲れ様でした。今回、アイデアソンを初めてやらせていただいたのですが、熱心に議論していただいて、非常に楽しく有意義なイベントになったかなと思っております。みなさんからいただいた提案を踏まえて、堺市もこれからこの3Dモデルを使ってがんばっていこうと思います。今回こういう形で、堺市以外の方にもたくさんお越しいただいて、堺市に興味を持っていろいろ考えていただいたということで、これからも何かありましたら堺市のことを思い出して、見守っていただけたらうれしいです。ありがとうございました。

堺市 都市計画課 課長
久保 和貴氏

 最後にファシリテーターの2人もそれぞれコメントし、今回のアイデアソンを締めくくった。

近藤氏:2つありまして、アイデアソンが初めてのみなさんがこの短い時間の中で集中力を発揮して形にしてくれたという喜びと、内山さんが言われているような、ローカル×テクノロジーをもっと全国に広げていく、堺市がその先駆けとなる、イノベーティブ都市になっていくといいなと思いました。

合同会社MOMENT 代表社員
近藤 令子 氏

遠藤氏:アイデアソンとハッカソンは似て非なるもので、ハッカソンの場合やはり飛びぬけたものを作ってみんな驚かせようとか、そういう思考がいくらか働いてしまうわけですが、アイデアソンは真面目なものが多い。綺麗に、素直に考えたことが多くてすばらしいなと思いました。

株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員
遠藤 諭 氏

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