同世代との出会いが転機。23歳で起業した岐阜大学発の特殊繊維開発スタートアップ代表に聞く
【岐阜アントレプレナーインタビュー】ファイバークレーズ株式会社
提供: 岐阜アントレプレナーシッププログラム/岐阜県
2023年12月16・17日、岐阜県は地域の産業の担い手の育成と経済をけん引する新しい産業やイノベーション創出を目指した教育イベント「岐阜アントレプレナーシッププログラム(Gifu EP)」を、県内の中高生を対象に県内会場にて開催する。本イベント開催に際し、実際に活躍する岐阜県のアントレプレナーとして、ファイバークレーズ株式会社の長曽我部竣也さんに話を聞いた。
岐阜大学発のナノサイズの穴を開けて成分を閉じ込める特許技術
岐阜大学大学院に在籍中、23歳で起業した長曽我部竣也(ちょうそかべしゅんや)さん。2021年1月、繊維内に機能性分子を挿入する特許技術を活用したビジネスプランを発表し、「第17回 キャンパスベンチャーグランプリ 全国大会」にて文部科学大臣賞・テクノロジー大賞を受賞。このビジネスプランをベースに、2021年9月にファイバークレーズ株式会社を設立した。
「ファイバークレーズは、高機能性素材に特化した素材開発を行うベンチャー企業です」と話す長曽我部さん。事業の核となっているのが、フィルムや繊維にナノサイズの穴を開けて、そこに機能性を持った成分を閉じ込めることで、素材に機能を付与する技術だ。これは岐阜大学の武野明義教授が開発した特許技術で、長曽我部さんも研究に従事した。
「機能性を持った素材の開発はすでに大手企業も注力している分野です。競合は多く、市場も年々拡大しています。競争が激しい業界ですが、当社には3つの強みがあります。1つ目が、後から成分を追加できること。ナノサイズの穴を開けて物理的に成分を閉じ込める技術なので、多種多様な機能を加えることが可能です。2つ目がコーティング等の類似技術に比べると、4〜10倍以上の持続性や耐久性を維持できること。そして3つ目が、既存技術は環境に影響を与えるものが多い中、当社の方法は特殊な材料を使わない物理的な加工なので、省エネルギーで環境に優しいことが挙げられます」
現在製品化に向けた共同開発を進めており、特に防虫(蚊)機能を持った素材の研究開発に力を入れている。蚊を介したデング熱やマラリアなどの罹患者は年間約6億人とされ、死者数は約70万人とも言われている。そこで、防虫(蚊)機能を持った素材をシャツやカーテンに応用させ、東南アジア諸国をマーケットにしたプロダクト開発を進めている。
「抗菌や保湿など、さまざまな機能を付与できる技術ですし、医療や美容、産業などの分野でも使われるような可能性を秘めています。まずは防虫(蚊)機能を持った素材の商品化、そして量産化できる体制の確立が目標です」
起業のきっかけは同世代の起業家との出会い
ファイバークレーズの代表として、メンバーと共に岐阜大学の研究室でプロダクト開発に向けた各種実験に励む長曽我部さん。起業のきっかけは大学のプログラムだった。
「起業を意識したのは大学3年生の頃です。就職のためにインターンシップに応募しようと考えていましたが、何かすっきりしない部分がありました。そのとき、起業家育成プログラム(イノベーション型インターンシップⅠ)があることを知って受講することに。そこで先生から学外の起業家向けイベントの参加を勧めていただき、起業家の先輩たちに出会って物事の見方が変わりました。『自分と1〜2歳しか違わないのにこんなチャレンジをしている人たちがいるのか』と衝撃を受けましたね」
そうしてビジネスについて勉強するようになり、東京や名古屋で開かれる起業セミナーにも足を運ぶようになった。結果、就職活動は見送り、大学院へ進学することに。起業に向けてさまざまなアイデアを練っていた中、出会ったのが武野明義教授の研究室が生んだ特許技術だった。
「武野先生にはファイバークレーズの役員になってもらっています。武野先生から特許技術のことを聞いて、これは面白いと世界初の技術の可能性に惹かれました。ただ、課題が2つあり、1つ目は量産化しないと高コストになってしまうこと、2つ目は研究として進めていたものの事業化を目指すプレイヤーがいなかったことでした。ですが、後者は自分自身が進めることでクリアできる課題だと思い、ビジネス化ができると感じました」
そうしてビジネスプランを練り、「Tongali ビジネスプランコンテスト2019」や「キャンパスベンチャーグランプリ」などに参加。賞を受賞することで各種メディアに取り上げられ、応援してくれる関係者は増えていった。さらに学生団体「起業部」も自ら立ち上げ、長曽我部さんは初代部長を務めた。家族も起業に対して協力的で、長曽我部さんを影から支えた。
「幼稚園から大学4年生までサッカーをやっていて、勉強よりもスポーツというタイプでした。性格的にも外交的ではなく、チームスポーツをやっていたものの、どちらかといえば少人数で遊ぶのが好きなほうでした。また、身近に経営者や起業家がいなかったので、会社を立ち上げるなんて考えてもいませんでした。そんな自分が同世代の起業家と出会ったことによって、人生は変わりました」と長曽我部さんは振り返る。
「起業するためには大切なことは、まずは行動を起こしてしまうこと。失敗したときのことばかり考えていては、なかなか一歩が踏み出せません。仮に失敗しても若ければ修正ができますし、予定通りに進むことはまずありませんから、起業するなら早いほうがいいように感じます。もしも戻れるなら、1〜2年生の頃から起業家育成プログラムに参加したかったですね。そうすれば見えている景色もまた違っていたと思います」
2023年8月、長曽我部さんはForbes JAPANの『FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023 日本発「世界を変える30歳未満」120人』に選出された。多くの企業や関係者の期待を背負い、ファイバークレーズは「世界が誇る素材を創る」をミッションに掲げ、新素材の開発にチャレンジを続ける。