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「失敗を恐れず」宇宙へ挑む。技術を持った企業が日本の宇宙事業に関わる可能性

「SPACETIDE 2023」パネルディスカッション 今後10年間の日本の国家宇宙戦略レポート

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宇宙輸送には民間との連携も

石田氏:最後に山崎さんに宇宙輸送について議論させていただければと思います。輸送システムにおける基幹ロケットの話はいろいろ出ていますが、今回の基本計画の中には民間ロケット育成に関してもかなり強く書かれています。実際に文部科学省さんがSBIR(Small Business Innovation Research)などの支援体制を作ってくれています。日本の宇宙輸送、民間の宇宙輸送システム育成等に関し、今回の基本計画の中でどういった部分が目玉だと思っていらっしゃいますか?

山崎氏:「宇宙活動を支える総合的基盤の調査」というところの大きな要素が宇宙輸送だと思っています。宇宙輸送以外にも例えば国際協力や、宇宙での秩序形成、ルールメイキング、また国内の制度整備や山川さんが仰っていた人材育成などさまざまなことが含まれています。

 日本が自律的な宇宙利用大国を目指すためには、きちんと宇宙輸送を自国の技術として持つことが大事だと思います。今回は多様な宇宙輸送需要に応えられるよう、基幹ロケット側もたくさんの衛星を、より柔軟な軌道に入れられるような機能ですとか、さまざまに改良していくという方向がひとつ。さらに民間の小型宇宙輸送ロケットや、これからの技術を含め将来構想をきちんと考えていく道筋を立てていくことが書かれています。前回の2020年時点でも、宇宙基本計画でもそうしたことが言及されていました。今回はそれがパワーアップした形になっています。

 石田さんの指摘通り、SBIRというスモールビジネスのイノベーションを加速しようということで、宇宙輸送に関して大体350億円の予算が付きました。ポイントは技術開発だけでなく、そこから事業化へ向けた道筋をきちんとついこうとされている点だと思います。技術移転や技術交流は、これまでもJAXAさんの協力で進められてきましたが、それをより加速し、きちんと事業化まで後押しできるようなところまでもっていこうと。

 これは希望ですけれど、将来的にはアンカーテナンシー(Anchor tenancy)のような形で、きちんと民間企業が信頼を培って宇宙事業ができるようシームレスに後押していくことができる形を作ることが望ましいと思っています。

 将来の宇宙輸送には、人工衛星だけでなく、アルテミス計画もそうですし、宇宙旅行もどんどん出てくるでしょう。ポイント・トゥ・ポイントになった時に人が乗れる宇宙輸送ということも考慮しながら、そのための信頼性技術、基礎要素技術を培っていこうという点にも触れていることが注目ポイントだと思います。

石田氏:会場から、ランチャーに関する質問が出ています。商業ローンチにおいては、スペースXがほぼ独占状態となっていると思います。その結果、競争環境としては米国以外の国は結構厳しくなっているという面もあると思いますが、JAXAとしては、日本のコマーシャルローンチマーケットをどう捉えていこうとしているのでしょうか?

山川氏:今、イプシロンロケット、それからH3ロケットをJAXAとして運用しています。まさに宇宙へのアクセスの自立性確保、国際競争力の確保、インターナショナル・コンペティティブネスの確保という観点でH3ロケットを開発し、イプシロンの後継機としてイプシロンSロケットを開発しているわけです。

 H3ロケットに関しては、開発が完了し、試験飛行完了後には民間企業に移管し、民間企業から打ち上げ、論理サービス提供といった事業展開をしていってもらいます。イプシロンSロケットも同様で、最初の実証段階終了後に民間企業に移管し、論理サービスを提供していただくことになります。両方とも、開発の最初の段階から民間企業に移管するというコンセプトで進めています。

 でも、もう一つの大きな柱として、やはり政府が宇宙にアクセスする、その自立性を確保することも極めて重要な点であるということは、念のために申し上げておきたいと思います。

 また、現在日本の民間企業であるスペースワンが、できるだけ早い段階で最初の打ち上げを行う予定だと聞いております。まだ詳細は発表されていないとは思いますけれど、和歌山県にプライベートなスペースポートをすでに完成させているそうで、我が国からも純粋な民間企業がロジサービスを提供していく時代が間もなくやってくることになるでしょう。JAXAの基幹ロケット、民間の完全プライベートな論理サービスをうまくお互いに補完し合うことで、全体として国際競争力を実現し、発展させていく時代が来ると思っています。

 民間企業のエネルギーをいかにうまく後押ししていくことができるのかが、JAXAから見て最も重要な点でありまして、そういったパッション、熱意をいかに実現するのかを我々として最大限に後押ししていきたいと思っております。

山崎氏:少しだけ補足しますと、今後10年を考えた時に、日本で打ち上げられる政府衛星だけでも数十機、商業的な人工衛星でいうと大体280機という試算が出ています。これを打ち上げるとすると、現段階ではスペースXが強いのは事実なんですけれど、それぞれの国、あるいはリージョンごとに宇宙輸送のハブが出来上がってくる方が、人工衛星側にとっても、その輸送側にとってもお互いにウィン・ウィンになれると思っています。そうしたアジアのハブをきちんと整備していくことが大事だと思います。

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