「失敗を恐れず」宇宙へ挑む。技術を持った企業が日本の宇宙事業に関わる可能性
「SPACETIDE 2023」パネルディスカッション 今後10年間の日本の国家宇宙戦略レポート
アルテミス計画では民間との連携で日本独自の強みを
石田氏:次はアルテミス計画と国際宇宙ステーションについてです、この部分については、日本での中核を担われてきたJAXAの山川さんにお話を伺いたいと思います。今後10年を見据えた時に、アルテミス計画や国際宇宙ステーションにおける日本が果たす役割とはどんなものだとお考えでしょうか?
山川氏:まずISS(国際宇宙ステーション)の現状ですが、きわめて安定的に運用しております。まずそれをお伝えしたいと思います。今後については、2030年までは日本政府から参加の延長を表明していただいております。その後のいわゆるポストISSについては、民間の活力という観点から、さまざまな検討を進めています。
今日はアルテミスの話をメインにしたいと思うのですが、そもそもアルテミス計画とは皆様ご存知の通り、米国をはじめいろいろな国が参加し、月へ近づき、さらに火星へとどんどん国際宇宙探査を進めるためのプログラムです。アポロ計画以来の月面へ宇宙飛行士が着陸することからスタートし、ゲートウェイとなるいわゆる「ルナスペースステーション」という言い方ができると思うのですが、新たな宇宙ステーション開発が進められている段階にあります。
2022年5月、政府の宇宙開発戦略本部におきまして岸田総理が、「2020年代後半に米国人以外で初めての月面着陸を、日本人宇宙飛行士が目指す」ということを仰っていただきました。そこに向け日本として貢献できることは何かについて現在検討しながら、もう具体的に走り出していることもあるという段階であります。
ゲートウェイに関してお話ししますと、「ECLSS(エクルス)」と言いまして環境制御や生命維持装置に関する貢献がひとつ。さらにゲートウェイのうち宇宙ステーションに対しては通常の貢献活動と共にロジスティックサプライといわれる、物資を補給するといった観点での貢献を行うことも計画されています。そこに日本人宇宙飛行士のゲートウェイ登場も前提として計画が進められています。
もう一つの大きな観点が産業界との強い連携です。その成果のひとつが有人与圧ローバーになると思います。50年前のアポロ計画と今回のアルテミス計画の最大の違いは、アポロ計画はある種一過性の探査だったといえると思います。それに対しアルテミス計画のキーワードはサスティナブルです。持続的な月探査を行っていくことが最大の特徴ということになります。
ということで、いかに持続的に月近辺、あるいは月面で活動をするのかが最大のポイントとなってまいります。そこで先ほどのゲートウェイという月宇宙ステーションもそうですし、月面での活動をいかに持続的に行えるようサポートするのが役割となります。
もう一つは、国だけでなく、民間産業界に強力な貢献をいただき、ともに開発していくということです。参考までに言いますと、与圧ローバーだけでなく、NASAも複数のローバーを開発していますので、それと組み合わせ探査をしていくということになると思います。
石田氏:今後は民間企業とのコラボレーションが今後の鍵になってくるのかなと思いました。今回の宇宙基本計画の中にも「官民プラットフォームの構築」のようなキーワードがあったかと思います。そこで民間企業への期待感などありましたら、一言足していただくことはできますか?
山川氏:すでに6年くらい取り組んでいますが、「宇宙探査イノベーションハブ」という活動があります。民間企業さんとともに技術的なボトムアップ実現を狙ったアプローチです。要するに宇宙探査でも使える、地上でも使える、両方で使える技術開発を目指しています。
例えば月面に施工する建造物を構築する技術は、アポロ計画では必要ありませんでしたが、アルテミス計画では必要になってきます。ビジネスという観点で見ると、「月面だけで使える」ではビジネス化するのは現段階では難しい。しかし、地上でも使える、月面でも使えるとなるとビジネス化に現実味が出てきます。そこで月面、地上の両方で使える技術の研究開発プログラムが立ち上がり、すでにものすごい数、100社以上の企業の皆様、大学と連携させていただいています。これは民間の皆様との協業というJAXAの新しい取り組みの例といえます。