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AICHI STARTUP SCHOOL 2022、高校生が3日間のビジネスプランワークショップに挑戦

「AICHI STARTUP SCHOOL 2022」高校生応用編レポート

 愛知県では、「子どもたちが、自分の得意なことをいかしたり、課題を解決する力を身に着けたりすることで、将来の選択肢を広げ、様々な分野で活躍できる」ことを目指し、2022年から小中高生向けの起業家教育プログラムを導入した。2022年の夏に行った「AICHI STARTUP SCHOOL 2022」では、小学生、中学生、高校生を対象としたワークショップをそれぞれ実施した。また、高校生向けとしては、起業について学び、新規事業の立ち上げを体験する「基礎編」に加え、さらに本格的なビジネスプランを考えてプレゼンする「応用編」が用意された。今回は、この応用で高校生たちが考えたビジネスプランの発表と、ゲストによる「起業家講演会」の模様をお伝えしていく。

「AICHI STARTUP SCHOOL 2022」

スタートアップに注力する愛知県が主催

 「AICHI STARTUP SCHOOL 2022」の高校生応用編は、2022年の12月17日、18日、27日の3日間、のべ20時間にわたって行われた。参加したのは、県内在住と在学の高校生と高専生17名。初日は自己紹介やアイスブレイクで親交を深めて、起業についての座学を行う。2日目からは、数人のグループでディスカッションを行いながら、課題設定からはじめ、自分たちのビジネスプランを練り上げていく。

 最終日となる12月27日は、名古屋大学の東山キャンパスに設立された産学官連携の研究施設「ナショナル・イノベーション・コンプレックス(NIC)」内にある「Tongali」Idea Stoaで行われた。参加した高校生たちは、朝からプレゼンピッチのリハーサルとメンターによるフィードバックをもらい最終発表に備えた。午後からは発表会の観覧者も会場を訪れ、発表会の様子はYouTube LIVEで配信された。

名古屋大学「Tongali」Idea Stoa

 最終発表では、「AICHI STARTUP SCHOOL 2022」を主催した愛知県経済産業局 革新創造部長の柴山政明氏が登壇。県職員の他、中小企業診断士など3つの肩書をもつ柴山氏は、「個人的なアドバイス」と前置きし、「社会的環境が大きく変化する中では、ひとつの道や立場以外の選択肢もある。どれを選択するかは、自分自身で判断してほしい」と伝えた。さらに、2024年に名古屋市内に開業するスタートアップ支援拠点「STATION Ai」を紹介し、「ぜひ、このプログラム参加をきっかけに、STATION Aiを利用したり、色々な挑戦をしたりして、人生を向上させてほしい」と話した。

愛知県経済産業局 革新事業創造部長の柴山政明氏

高校生ならではのアイデアあふれる4チームが発表

 応用編に参加した高校生のチームは、全部で4チーム。5分の発表時間の後、審査員からの質疑応答が行われる。審査員には、今回のメンターを務めた名古屋大学特任教授の寺野真明氏、プログラムアドバイザーでもある角川ドワンゴ学園の鈴木健氏、名古屋を拠点に社会起業家支援事業を展開するUNERIの河合将樹氏の3名が担当した。

東海国立大学機構 名古屋大学 未来社会創造機構・特任教授の寺野真明氏

学校法人角川ドワンゴ学園 コミュニティ開発部PBL課 課長/起業部顧問の鈴木健氏

株式会社UNERI代表取締役CEOの河合将樹氏

可能性無限大社

 最初に発表を行ったのは、5人チームの可能無限大社だ。

 「美しく輝きたいけれど、時間がない」という人のために、顔認証によるAIが自分に合うメイクや化粧品を教えてくれ、かつ即購入できるサービスを考案した。ターゲットは20代後半から50代の多忙な人々。化粧品ブランドや運送会社と提携し、アプリ内でおすすめされた化粧品がまとめて購入ができる。

 事業はサブスクリプション、コンサルタント、情報発信に展開し、例えばサブスクリプションでは毎月5000円で自分に合った化粧品のほか、試供品や送料無料サービスなどを受けられる。また、移り変わりの早いトレンド情報などを発信することで、「いちいちチェックすることなく、簡単に現在流行りのメイクやファッションがわかるサービス」も予定している。事業計画では、2年目から独自の化粧品開発もスタートする予定だという。

サブスクリプションサービスの概要

 最後に、フランスの女優ジェーン・バーキンの「笑顔は女の子にとって最高の化粧」という言葉を引用し、「女の子だけでなく、様々な人に最高の笑顔を届ける会社にしていきたい」と伝えてプレゼンを締めくくった。

 質疑応答では、審査員の鈴木氏から競合サービスについて聞かれると、「一部競合するサービスはあるが、AIを使った顔認証のサービスは調べたところなく、ここでオリジナリティを出して事業展開したい」と、回答した。

シロ

 「『カスタムヒストリー』知識を武器に」をキャッチコピーにしたシロは、学校で習う歴史の知識をいかしたカードゲームを考案。「歴史を学んでも、自分たちで使って活用することがない」という課題感から、この事業を考案したという。

 教科書と実践知の間を埋める部分を「考察学」と名付け、「指定された知識群を使って、仮想目標に向かって筋道を立てていく。その際、『この知識を使えば、こういうことが解決できるのでは』と考えていく」ことだと解説した。続いて、カードゲームの例として、「織田信長なら、ゲームでは『楽市楽座では、領土の経済25%上昇の効果がある』など、中学生が実際に授業で学んだ知識をそのまま活かせ、さらには知識の使い方を学ぶことができる」と話した。

シロが提案する「考察学」

 収支計画では、「スターターキット」の他、カード枚数やレベルの異なる「拡張セット」を4種類用意し販売を行うほか、課金を見込んだアプリ開発も行う。さらに、今後の発展性として、数学や国語への展開や、学習教材としての販売なども検討しているという。

 審査員の寺野氏は、「『考察学』という言葉を、自ら紡がれたことに、すごく感服した」と絶賛し、「学びのまっ最中にいるがゆえに、ニーズの肌触りがある」と評した。また、「プロモーションが重要になりそうだが、アイデアはあるのか」という問いに対し、シロのメンバーは「自分たちの世代に人気のあるカスタマイズ部分をプロモーションしたい」と、ゲームの面白さで勝負すると回答した。

makeU

 女子3人チームのmakeUは、「学校では教えてくれない令和のキャリア教育 <自分のやりたいことを見つけ、実現する時代>」というタイトルでプレゼンを行った。

 「これはなんの数字でしょうか?」と最初に「58%」という数字を見せ、日本の中高生たちが、将来の夢が答えられず、なんとなく進学・就職してしまう人が多いという課題を伝えた。そのうえで、「『なんとなく』を減らす事業で、58%をゼロにする社会を目指したい」と話した。「留学と同等の価値を。」というテーマで、様々なキャリアもつ大人と中高生の双方がコミュニケーションできる「ミライ留学」を提案。「室内テーマパークのような、リラックスでき、かつ行きたい楽しいと思える空間づくりをする」という。参加する中高生は大人とコミュニケーションすることで、多様な価値観にふれて視野を広げ、話を聞いてもらえることで自己肯定感の上昇も期待される。一方の大人側は、中高生のニーズをリサーチできる利点がある。

makeUの収入イメージ

 審査員の河合氏は、「令和のキャリア教育とあるが、平成との違いはどこか」と質問。makeUのメンバーは、「これまでのキャリア教育は、学校での進路指導や、家庭で両親に相談する進路といったものだった。一方、令和では、ただインターネットで受け取る情報だけでなく、多様な大人と出会い様々な体験ができればと考えている」と回答した。

New create Japan

 ラストに発表したNew create Japanは、個の強いメンバーが揃い、最終日前日までプランがまったく固まっていなかったという。そんなチームが発表した事業は、「日本の文化を世界に伝えるため、日本の個人や中小企業の世界進出を手出する」というものだ。

 「現在の悪循環に陥っている日本を活性化させたい。そのために、日本の建築美術や、芸能、漫画など、多くの魅力ある文化を発信していきたい」という着想から、海外進出のコンサルタントと不動産という2つに着目した。コンサルタント事業では、海外進出への情報提供から手続き代行までを一括して請け負い、不動産事業では実際に拠点となる「日本人町」をつくり、土地の確保や治安維持を行うことで、進出先の整備を担う。「人生経験が浅い高校生が、競合の多いコンサルタント事業を行うのは難しいが、パワフルで希望にあふれた高校生らしいアイデアを展開できる」と意欲を示した。

顧客と市場の確保が同時に行えることをメリットとして解説

 審査員の寺野氏から質問された「個人に焦点をあてた」理由について、「今回のチームは個が強すぎて大変な面もあったが、集まることで思わぬ化学反応が起き、個の素晴らしさも実感した。その個を生かしたいという思いずある」と話した。また、拠点については、すでに「物価が安い」「観光地のような日本人町はない」といった理由で、第一の拠点の候補にインドネシアを想定しているという。

審査結果から良かった点と反省点を振り返る

 4チームすべてのプレゼンピッチ終了後、休憩をはさんで、審査員による評価が発表された。評価ポイントは、「課題(ニーズ)、定義」「独創性」「実現・継続・可能性」「社会貢献性」「プレゼンテーション」の5つ。それぞれ5点で25点満点となり、審査員3人の平均点と合計点が示された。 講師とプレゼンテーターを務める、セルフウイング シニアファシリテーターの佐々木大氏からは、「今回の点数は、順位をつけるためのものではない。どのポイントが強いのか、あるいは弱かったのかなど、この後の反省や振り返りにも役立ててほしい」と伝えられた。

審査結果を解説する佐々木氏

 なお、もっとも点数の高かったNew create Japanは、3月21、22日に愛知県で開催される「TOCKIN' NAGOYA」に登壇する権利があたえられた。

 最後に、審査員3人から全体の講評が全チームに送られた。

寺野氏
 「辛口になるが、感じたことを率直に伝えると、全体として課題が甘かった。起業は、『やりたい』ではダメで、『やらずにはいられない』というパッションがないと続かない。これからでも、頑張ってそれを見つけ出してほしい。  また、収益性については、お金をもらわないことには成り立たないが、そのためには価値を渡さないといけない。何を与えるかを突き詰めないと、事業にはならないだろう」

鈴木氏
「本来なら家でのんびりしている冬休みに、頑張って発表する場に来た自分をまずほめてあげてほしい。  アドバイスとしては、プレゼンを聞いたときに、具体的なイメージがパッとわくかどうか。その解像度をもっとクリアにできたのでは……という気がする。また、プレゼンでは『これを使ってみたい』と思わせるワクワクさを伝えることを大事にするともっとよくなると思う」

河合氏
「高校生向けビジネスコンテストは沢山あるので、今回をきっかけに羽ばたいてほしい。その時に 意識してほしいのが、審査員を含め『人間はみんな不完全な生き物』であるということ。正解なんて誰も分かりません。今回、審査結果を見て『なんでこんな素晴らしいアイデアがわからないのか』と思った人もいると思うが、そのぐらいの反骨精神を持っていて、起業家なら丁度良い。その違和感を大切にし て、これからもやり続けてほしい」

「たくさん失敗していい」起業家の先輩からの熱いメッセージ

 続いて、起業家講演として、I'mbesideyou代表取締役社長の神谷渉三氏が登壇した。神谷氏は、前職NTTデータを退職後、2社の起業を経て、現在のI'mbesideyouを創業した。

株式会社I'mbesideyou代表取締役社長の神谷渉三氏

 I'mbesideyouは、オンライン会議などの動画で、一人ひとりの参加者を、表情や声、ジェスチャーなどからAIによるリアルタイム分析を行うシステムで、企業におけるメンタルヘルス管理や、教育、医療をはじめとした様々な分野で活用されている。

 「息子が安心安全に生きることができる社会をつくりたい」という思いで、全世界に向けた取り組みを始めた神谷氏は、コロナ禍で爆発的に増えたオンライン動画のデータを解析し、AIや精神・神経科学の専門家とともに共同で研究開発を行っている。「すべての社会全体をリスペクトして学び合う学校に」というビジョンと、「唯一無二を、見える化する」というミッションを掲げ、一人ひとりの個性をテクノロジーで守ることを実践している。

I'mbesideyouの概要

 I'mbesideyouのシステムは、例えばオンライン家庭教師で、個々の生徒におけるNGワードを分析したり、編集者がクリエーターとの打ち合わせで最大限にクリエイティビティを発揮させる方法を模索したりするといった分野でも使われているという。

 また、フルリモート環境で社員は世界各地におり、半分以上がインドの優れた技術者である同社は、「お互いの国を尊重し合い、異文化を学び合う」ことを大切にしていると話した。
最後に神谷氏は、「自分のグロースレート(成長率)を知ることは大切。『成長を実感する体験こそが価値がある』とスタッフに伝えている。私が『その人なりに自由に生きていける社会』をつくるので、みなさんは自由に生きてほしい」と、高校生たちに向けてメッセージを送った。

 後半の質問タイムには、多くの手があがり、「失敗はあったか」「30代で起業したいけど、その前に起業したほうがいいか」「このサービスを実現する技術力はどうやって得たか」といった様々な質問が寄せられた。
 神谷氏はひとつひとつ丁寧に回答し、「失敗談は沢山あるが、失敗しないことは絶対ない。ただし、自分がチャレンジしたい領域でいっぱい失敗するのがよい」「起業をしたいなら、競争率の低い高校生のうちに体験して」「私自身はコードは書けないが、優秀なエンジニアの仲間がいる。できないこと補い合えるチームつくって、パフォーマンス出すのが大切」と話した。

神谷氏に質問する高校生

 神谷氏の講演の後、高校生たちはチームで審査結果や審査員からのフィードバックをもとに、反省と振り返りを行い、3日間に渡る「AICHI STARTUP SCHOOL 2022」高校生応用編は終了した。参加した高校生の中には「大学で起業に向けた勉強をして起業をしたい」と話しているメンバーもおり、この体験をもとに今後どんな活動につなげていくかを期待したい。

全員で記念撮影

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