特許庁が本気で進めるスタートアップが知財を守るために役立つ施策
IPTech知財セミナー@CIC「第8回 特許庁による本気のスタートアップ支援施策」
この記事は、特許庁のスタートアップの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」(関連サイト)イベントレポートの転載記事です。
特許庁ベンチャー支援班は2023年2月7日、IPTech特許業務法人代表弁理士/弁理士会ベンチャー支援部会部会長の安高史朗氏とCIC Tokyoが開催するセミナー「IPTech知財セミナー@CIC」に登壇。特許庁におけるスタートアップ支援施策について、安高氏の解説を交えて紹介した。
CIC Tokyoは、2020年に東京の虎ノ門に開設された日本最大のイノベーション集積拠点だ。250社以上が入居可能な2フロア計6000平米を有し、ヘルスケア、エネルギー、エドテック、スマートシティなど業界特化型のコミュニティを形成している。セミナールームやカフェエリアでは、年間200件以上のピッチ、アクセラレーションプログラム、ハッカソンなど、さまざまなイベントが開催されている。投資家、弁護士、弁理士なども入居しており、専門家からの充実したサポートが受けられるのも特徴だ。こうした支援のひとつとして「IPTech知財セミナー@CIC」が現地のセミナールームとオンライン配信で開催されている。8回目となる今回は、特許庁総務部企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長) 芝沼 隆太氏がゲストとして参加し、「特許庁による本気のスタートアップ支援施策」と題して、特許庁の支援施策を詳しく解説した。
特許庁におけるスタートアップ支援施策
スタートアップにとって知的財産とは?
設備や資金、販売網等の乏しいスタートアップにとって、革新的技術とアイデア(知財)は貴重な経営資源であり、知財権としてきちんと守っていくことが重要だ。
しかし、一般に知財はハードルが高いという認識が根深く、スタートアップの知財意識は不十分だ。令和3年度に実施された特許庁の調査研究によると、「設立前に知財戦略が経営戦略に組み込まれていなかった」と答えた企業は、知財が重視される医療・福祉分野でも45.5%と半数近くが知財対策をしておらず、情報・通信分野では86.5%とほとんど知財を意識していない。
また、スタートアップを支援するVCを対象とした調査研究では、45.7%のVCが「知的財産の支援ができる人材が組織内にいない」と答えている。こうした結果から、スタートアップの知財意識を向上させるとともに、知財支援の環境も整えていく必要がある。
知財の効果とリスク
知財の活用による効果を聞いたアンケートによると、創業期スタートアップの42.4%が「資金調達の貢献があった」と回答。そのほか「競合他社の参入防止」、「信用力・ブランド向上」、「業務提携等への寄与」についても多くの企業が効果があったと答えている。特許というと独占権というイメージが強いが、初期のスタートアップにとっては直接的な防御効果よりも、資金調達や信用力の向上といった間接的な効果のほうが高いようだ。一方で、逆に知財戦略が不十分であれば、VC等による資金調達やM&A等のイグジット機会を逸失するリスクがある。
スタートアップコミュニティの知財に関する課題として、(1)知財を企業価値として意識していない、(2)事業モデルに合わせた知財戦略を構築できておらず、中長期的な企業価値向上につながらない、(3)スタートアップコミュニティ内の知財専門家が少なく、スタートアップの抱える知財課題に精通した知財専門家に出会うことができない――などが挙げられる。
知財の関心度の高さに合わせて、コミュニティ形成とハンズオンの2つを柱に支援
知財をサポートするにあたり、相手の関心度の高さによって支援すべき内容が異なってくる。すでに知財に関心がある層には、ハンズオン支援として知財アクセラレーションプログラム(IPAS)を実施。まだ知財に関心がない層には、緩やかな結びつきのなかで意識を高めていけるコミュニティづくりを促進するため、スタートアップ向け知財コミュニティサイト「IP BASE」を開設して情報発信をしている。
知財アクセラレーションプログラム(IPAS)は、創業期のスタートアップに対して事業に合わせた知財戦略の策定を支援するもの。採択企業には、スタートアップ支援経験のある知財専門家とVC経験者などのビジネス専門家から構成されるメンタリングチームを派遣。今年度は108社から応募があり、そのうち25社に、1回2時間のメンタリングを月2回、5か月間実施している。副次的な効果として、スタートアップの経営と知財の両方がわかる専門家の育成にもつながっている。
安高氏も過去のIPASに知財メンターとして参加し、経営者とビジネスメンターの3者によるディスカッションは勉強になったそうだ。
IPASでは2018年から2021年度までの4年間に60社を支援し、IPAS支援開始後に出願された特許は406件、IPAS支援後に資金調達した企業は32社、EXITした企業は2社という成果が出ている。
IPASの成果をまとめた事例集として、スタートアップ向けには「知的財産支援から見えたスタートアップがつまずく14の課題とその対応策」、専門家向けには「IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎」をIP BASEサイトで公開しているので興味のある方は参考にしてほしい。
スタートアップ向け知財コミュニティサイト「IP BASE」には、先輩スタートアップや専門家のインタビュー記事、事例集、イベントや会員向け勉強会の開催告知などを掲載。会員数は2000名を超え、順調にコミュニティが形成されている。
さらに、知財に関心がない人へもコミュニティを広げていくため、全国の企業や団体が主催するスタートアップイベントにも登壇してセミナーを実施。過去のイベントや勉強会の内容の一部をYouTubeでもアーカイブ配信している。YouTubeのIP BASEチャンネルでは、知財に関する話題のみならず、資金調達や経営などビジネスに役立つ解説動画があるので要チェックだ。
2022年度からの新しい取り組みとして「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣調査事業」を試験的に実施している。IPASのような知財支援をVCから投資先へ提供できるように、VCに知財専門家を派遣し、派遣された知財専門家がVCと協働してスタートアップを支援する仕組み。2023年度はVCを公募し、本格実施する予定だ。
そのほか特許庁の支援施策として、スタートアップ向けに最短2.5ヵ月で審査結果がわかる「スーパー早期審査」、一次審査前に審査官と面接できる「面接活用早期審査」、手数料が3分の1になる減免制度が用意されている。手続きも簡単なので、ぜひ活用していただきたい。