社会実装に向けた取り組みが加速する自動配送ロボット
「自動配送ロボットを活用した新たな配送サービスに関するセミナー」レポート
NEDO事業の紹介および本セミナーの構成
続いて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ロボット・AI部 主査 プロジェクトマネージャ 鶴田壮広氏がNEDO事業と本セミナーのポイントを紹介した。
NEDOでは2020年から自動配送ロボット事業に取り組んでいる。2020年度と2021年度の2年間は、自動配送ロボットの開発と走行実証を中心に12事業者10テーマで事業を推進し、屋内・屋外に分かれ、さまざまなユースケースでの実証に取り組んできた。2022年度は、実用化・事業化をテーマとした開発目標を新たに設定し、事業を継続している。
また自動配送ロボットを社会に実装していくための人材育成と情報共有の場として、NEDO特別講座プログラム内で全5回のシンポジウム・セミナーを開催。
5回目となる本セミナーは、1)2020年度NEDO事業に参画した3社による講演、2)特別講演として日本政策投資銀行による「自動配送ロボット×ドローン」、東京都による「スマート東京先行エリア『西新宿』における取り組み」、3)2022年度NEDO事業の進捗に関して3社による講演、4)業界団体における安全基準等の策定状況に関する講演の4部構成となっている。
2020年度NEDO事業での実証に関する講演
2020年度NEDO事業での実証に関する講演では、京セラコミュニケーションシステム株式会社、TIS株式会社、日本郵便株式会社の3社が登壇した。
北海道石狩市での無人自動配送ロボットによる
ロボットシェアリング型配送サービスの実証実験
~車道を走行する中型中速、多用途ロボットの活用~
京セラコミュニケーションシステム株式会社のテーマは「工業地域向けロボットシェアリング型配送サービスの実現」。2021年4月~9月に石狩湾新港地域で実証実験が実施された。
実証地の石狩湾新港地域は、広大な敷地に対して公共交通機関がぜい弱であり、工業団地から幹線道路沿いにある小売・飲食店へのアクセスが悪い。配送業者の配送頻度も少なく、急な配送依頼や夜間の配送が難しい。
本実証では、地域内の物流の効率と配送ロボットの稼働率を上げるため、コンビニエンスストア、クリーニング事業者、宅配業者など地域内の8事業所を1台の無人自動配送ロボットが巡回する形での集配を行なった。
サービスの特徴は、1)1台の無人自動配送ロボットを地域内の小売店や宅配業者が共同で利用、2)従来の低速小型のロボットではなく、中型・中速のロボットを使用し、車道を走行して配送する、3)決められた巡回ルートではなく、利用者の予約に基づき、オンデマンドで走行ルートを選択して集荷・配送する、4)利用者はスマートフォンから対話的に予約やロッカー操作ができる――の4点。
使用したロボットは、遠隔型自動運転システムを搭載し、自律走行が難しい場所は遠隔で操作できる仕様だ。最高速度は15km/h、貨物積載部には、ロッカーを大5個、中5個、小10個の計20個を搭載する。
2022年3月以降は千葉市の幕張新都心エリアでも買い物支援サービスや移動販売の実証を実施した。さらに、令和4年度のNEDO事業では、石狩市の住宅エリアで宅配とコンビニエンスストアの移動販売を同一ルート上で実施する複合的な配送の実証に取り組んだ。
社会実装に向けた課題として、自動運転の安全性の向上、効率運用を実現するオペレーションの実現、ロボット活用を前提としたサービスのリデザイン、人とロボットとのコミュニケーション機能、経済合理性の確保、道路や制度整備などが挙げられた。
会津若松市中山間地域でのシェアリング型
配送ロボットサービス実現に向けた取組紹介
TIS株式会社は、2019年に会津若松市に拠点を設置し、キャッシュレスとロボティクスを中心に地域の課題を解決する事業企画に取り組んでいる。
2021年度はNEDOの支援のもと、自動走行ロボットを活用した新たな配送サービスとして、会津若松市の中山間部である湊地区にて実証を実施した。高齢化が進む湊地区の買い物弱者の課題を解決するため、リレー配送による買い物代行サービスを実現するものだ。
ユースケースとして、スーパーにリモートで商品を注文し、買い物代行員がタクシーと路線バスでリレー配送し、バス停から個宅までは遠隔監視の配送ロボットが届ける、というサービスを想定。統合運行監視システムの検証のため、実証機は自動運転の技術を使ったロボット(株式会社ティアフォー製)と、ドローン技術を使ったロボット(イームズロボティクス株式会社と会津大学の共同開発)の2種類の機体を運行した。
結果としては、買い物弱者を解決するサービスになりうるが、コスト面が最大の課題だ。ロボットの稼働率を上げるには、買い物代行以外の用途にも利用していくことがポイントである。統合運行監視システムについては、異なるメーカーのロボットでもインターフェースを調整すれば問題なく扱えることがわかった。
2022年度も同地域で継続して実証実験を実施している。多用途化へ向けたユースケースとして、買い物代行に加えて、廃品・ゴミの回収、地域野菜の給食センターへの配送を設定し、地域のNPOの協力体制で運行実験を行なっている。
今後は、さらに地域課題をヒアリングし、活用ユースケースを洗い出すことで多用途の事業モデルを策定していくとのこと。
「配送高度化」に向けた
配送ロボット活用の取組
日本郵政グループは2021年からDXを推進し、将来の人口減少による労働力不足を見据えて、ドローンや自動配送ロボット、自動運転技術の活用と実用化に向けた取り組みを進めている。
日本郵便株式会社の目指す配送のDXは、ピンポイント配送による人的リソースの最大効率化だ。すべての業務を無人のモビリティに置き換えるのではなく、人手のかかる「ぽつんと一軒家」やオートロック付きマンション内などエリアの一部を無人機で代替することで、効率化を図るというもの。
2016年度はドローンによる技術検証からスタートし、2017年に配送ロボットの実証を開始、2019年度以降は屋内での配送活用も進めている。2020年度は、日本で初めて公道を近接監視および遠隔監視で配送ロボットの走行実証を実施。2021年度は配送ロボットとドローンを連携した置き配の実験も行っている。
2020年度のNEDO事業では、オートロックシステム付きマンション内に配送ロボットを5台配置し、複数台を同時にオペレーションしながら個宅までの配送実験を実施した。
さらに2022年度は、アーバンネット名古屋ネクスタビル内で入居しているテナントへの集配業務の試行を実施。機体には香港Rice Robotics社が開発した小型の自律走行型配送ロボット「RICE」 を使用した。
オフィスビルの配送実験では、取り扱う荷物全体の82%をロボットで配送した。実証後のアンケートでは、使いやすいとの声が多く、効率や利便性に関する意見よりも、「わくわくする」、「見た目が可愛いので来てくれるとうれしい」といった声が多く聞かれたという。
今後の課題としては、人間とロボットの役割分担を前提とした業務フローの見直し、ロボットを使いやすいビルの設計・整備などが挙げられた。