日本の将来を作る製造業DXエンジニアの育て方
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マスクド:製造業では遠方の工場で長期間滞在して作業を行うなど、エンジニアに対して負担もかかります。会社としてフォローしている点などはありますか。
天野:どうしても繁忙期や業務の波があり、新たな設備導入は工場が稼働を停止する長期休暇と重なります。そこでプロジェクト終了後にはエンジニアが長期休暇を取れるようにしています。このような環境で業務を続ける中で一番不安に感じるのは、個人としてのキャリアプランだと考えています。
お客様の都合もあるので、自分の思い通りの仕事とは限りません。そこで新たなスキルを習得できるメーカー主催の外部講習への参加も奨励しています。こうした取り組みの中でエンジニアに伝えたいのは、この仕事に未来があるということです。
我々のような製造業のDXを支援するエンジニアは、まだ取り組む人材や競合が少なく、いずれ引く手あまたの時代が来るはずです。すでに弊社の新卒では、数千万円のロボットを動かしながら、制御プログラムを開発しています。彼らはほかでは味わえない経験を積んで、2年目、3年目で優秀なエンジニアになりました。こんな将来像を描けるエンジニアを増やしていきたいですね。
マスクド:製造業の魅力を伝えるため、どのような取り組みがございますか。
天野:高校や大学でロボットに関する授業をやらせていただいたり、FA・ロボットシステムインテグレータ協会の一員として、学生向けにロボットアイデア甲子園を開催しています。また、前述のショールームやラボを通じて高校生にロボットシステム開発を体験してもらい、これがきっかけとなって弊社に入社する学生もいます。また、大学との協業や連携を重視して、学生への教育を強く意識しています。将来的にはグローバルでのエンジニア育成を目指して、アジア地域の学生を受け入れる架け橋になりたいと思います。
マスクド:今後のエンジニア育成や組織づくりについて、どのような展望を考えていますか。
天野:もっと働き方の自由度を上げたいです。エンジニアとして経験を積んで一人前になれば、勤務地などにとらわれる必要はないと考えています。また、働く時間に自由度を持たせて、場所や時間の制約を撤廃していきたいです。
かつては工場の立ち上げで数年間の海外赴任などもありました。しかしデジタルによって場所の制約がなくなれば、半年程度でも十分でしょう。さらにデジタルの良さは時間や場所に縛られないことに加えて、ルールに沿って評価できる点だと考えています。評価も大切な仕事の喜びであり、賞賛と報酬を得られます。昔ながらの企業では評価の根拠が不明瞭で、声が大きく、ゴマすりが上手な人が出世する面もありました。対して我々はジョブグレードという制度を導入して、グレードが上げれば給料も上がるシンプルな仕組みです。何歳になっても能力が下がらなければ給料も変わりません。
このように働き方を整備して作業の効率化を進めても、最後には人の感性が残ります。例えば農作業を自動化しても、人に残すべき仕事もあるでしょう。面倒な種まきや草むしりは効率化しながら、最後の収穫は人間のために残すべきです。果物狩りが人気なように、収穫という作業は楽しいですからね。こうしたワクワク、ドキドキする感覚が大事だと思っています。
もしも「日本式ものづくり」という概念を提唱できるなら、「日本式ものづくりは、ワクワクだ!」と言いたいです。そんなふうに人に喜びを与える技術を持つエンジニアが集まる組織でありたいですね。
取材を終えて
日本を支えるものづくりでは、擦り合わせや職人技など誇るべき強みがあります。一方で人手不足や競争力の低下といった課題を抱えているのも事実です。昨今ではロボットによる省力化やデジタルを活用した技術継承などの策も挙げられていますが、簡単に解決できる問題ではありません。そこでTeam Cross FAのようなものづくりにもデジタルにも強いエンジニアによって、製造業の新たな時代が開かれるのではないでしょうか。
マスクド・アナライズ
空前のAIブームに熱狂するIT業界に、突如現れた謎のマスクマン。
現場目線による辛辣かつ鋭い語り口は「イキリデータサイエンティスト」と呼ばれ、独特すぎる地位を確立する。
"自称"AIベンチャーを退職(クビ)後、ネットとリアルにおいてAI・データサイエンスの啓蒙活動を行う。
将来の夢はIT業界の東京スポーツ。
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