大企業とスタートアップの協業における知財と契約のポイント
CEATEC 2022セッション「大企業とスタートアップとの共創・協業の在り方 by IP BASE」
大手企業から見たスタートアップ
中村合同特許法律事務所 弁護士・弁理士の山本飛翔氏は、大手企業にとってスタートアップはどのような存在かについて説明した。
中小企業は、大企業が参加する既存の市場の中で役割の一部分を担うことが多いのに対して、スタートアップは、新しい市場を創出し、大企業が狙いづらい市場を補完してくれる可能性がある。
また資金面では、中小企業が売上と融資を原資に事業を回していくのに対し、スタートアップの場合は、VCなどの投資家から多額の資金を繰り返して成長していく、という違いがあり、VCのファンドから投資を受けた場合、10年前後以内でのIPOまたはM&Aを求められ、スピーディーに案件を進めていく必要性が高い。
大手側にとってオープンイノベーションでスタートアップと組むことで、既存事業が拡大するメリットがある。他方でスタートアップ側は、大手の資金や知見、リソースなどを活用することで、短期間で大きな成長が目指せることがメリットだ。
研究型スタートアップと事業会社の連携によるオープンイノベーションの推進に向けて
続いて、特許庁 オープンイノベーション推進プロジェクトチーム 事務局長 武井健浩氏が登壇し、「研究型スタートアップと事業会社の連携によるオープンイノベーションの推進に向けて」と題して、政府の方針と特許庁の取り組みについて説明した。
2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では(1)スタートアップ育成5か年計画の策定、(2)付加価値創造とオープンイノベーションの項目が設けられており、「イノベーションを促進するには、①スタートアップの創業促進と、②既存大企業がオープンイノベーションを行う環境整備の双方が不可欠である」と明記。「スタートアップの育成は、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決する鍵である」として、スタートアップの「5年10倍増を視野に5か年計画を本年度末に策定する」としている。
また、「既存企業がスタートアップ等と連携するオープンイノベーションを後押しするために」、「経営資源を成長性、収益性の見込める事業に投入して、新陳代謝を進めていくことが重要である」と指摘されている。
こうした政府方針の下では、特許庁が以前から作成していた「モデル契約書」の活用が鍵となる。モデル契約書は、大企業とスタートアップ企業の契約の適正化を図ることを目的として策定されたものであり、契約書のひな型ではなく、具体的な想定シーンにおける契約の各条項をについて詳しく解説しているところに特徴がある。
現在、スタートアップ×事業会社の新素材編とAI編、大学×スタートアップおよび大学×事業会社の大学編がオープンイノベーションポータルサイトで公開されているので、「事業価値の総和を最大化」に向けて、オープンイノベーションの際にはぜひ活用してほしい。
パネルディスカッション「大企業とスタートアップとの共創・協業の在り方」
パネルディスカッションでは、「大企業とスタートアップの協業のメリット」、「協業のメリットを最大化するための大企業とスタートアップの関係性」、「スタートアップに好まれる大企業になるためのポイント」について議論した。