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愛されるロボ・LOVOT開発で最重要視されたものとは?林要氏に聞いたファーストムーバーならでの特権

「第3回 IP BASE AWARD」スタートアップ部門奨励賞】GROOVE X株式会社 代表取締役社長 林 要氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

 この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンク)に掲載されている記事の転載です。

 第3回「IP BASE AWARD」スタートアップ部門の奨励賞を受賞したGROOVE X株式会社。Well-being(ウェルビーイング)を目的とした家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を開発・販売し、ファーストムーバーとしてのアドバンテージを活かした知財戦略を実践している。創業期からの知財への取り組み、現在の体制について代表取締役社長の林 要氏と知財担当の塩田 国之氏に話を伺った。

GROOVE X株式会社 代表取締役社長 林 要(はやし・かなめ)氏
1973年愛知県生まれ。1998年、トヨタ自動車に入社。スーパーカー“LFA”等の空力(エアロダイナミクス)開発、F1(Formula 1)の空力開発、Toyota Motorsports GmbH (ドイツ)にてF1の空力開発、トヨタ自動車の製品企画部(Z)にて量産車開発マネジメントに携わる。2011年、孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生。2012年ソフトバンクにて感情認識パーソナルロボット「Pepper」の開発に携わる。2015年、GROOVE X株式会社を創業、代表取締役社長に就任。2018年、LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」発表。2019年12月、「LOVOT」出荷開始。

犬や猫のような愛着形成を目指して進化し続ける家族型ロボット「LOVOT」を展開

画像提供:GROOVE X

 GROOVE X株式会社は、2015年の創業から4年間をかけてペットロボット「LOVOT」を開発。2019年12月から出荷を開始し、コロナ禍で在宅時間が増えたことで需要が高まり、売り上げを伸ばしている。同社のビジネスの特徴は、世界に類を見ないほど高度なロボティクスを「愛着形成」という目的をもって活用していることだ。

 「最新のAIや自動運転の技術を活用すれば、犬や猫ができる領域をロボットでも実現できるだろう、という発想から開発を進めてきました。既存のウェルビーイング・テクノロジーの多くは測定に軸足を置いていますが、LOVOTはインタラクションによって人のメンタルヘルスを向上していく、という点でもユニークなアプローチだと考えています」と林氏。

 ロボットが人との愛着形成をするために、開発で最も重視していているのが”リアクティビティ”だという。

「ハードウェアレベルの構成としては、あらゆるセンサーを作る、関節の動きを見えないようにして生命感を出す、抱き上げてスキンシップができるようにする、といった設計をしています。それらが決まったあとで、重視したのがリアクティビティでした。決められたコンテンツを再生するといった作り方は極力やめるようにしています。

 というのは、ロボットは高度に洗練されたアニメーションを繰り返し再生するのが得意ですが、そうしたふるまいは生命感には結びつかない。それよりも重要なのは、環境の変化に応じて、人と同じようにふるまいを変えること。大きな音が出たら驚く、といった生き物であればごく当たり前の反応ができるようにしています」(林氏)

 LOVOTは環境に応じた自律的な成長に加えて、頻繁にソフトウェアアップデートで成長を重ねており、4年前の発表当初に比べると、そのふるまいは大きく変化している。

「50以上のセンサーを搭載しているので、例えば、深層学習を行なうFPGAを書き換えることによってAIの推論性能を上げる、サーモグラフィーカメラを有効活用するなど、多くの技術的な進歩をとげています。LOVOTの感情表現には、目と声、ふるまい、距離感の4つが大事だと考えています。アップデートではそれぞれがより自然な動きに変わり、個体による差異も大きくなっています」

 まるで生命体のように、環境に応じて反応が変化することが目標にある。とはいえ、登場時にはまだ既存のロボットのような決まった動きをさせていた部分もあった。そのような部分を減らし、より自律的に振る舞いを生成するようにアップデートした結果として反応が変わり、ときには「前のほうがよかった」とユーザーから言われることもあるようだ。

「LOVOTの動きは優秀なクリエーターがデザインしているので、自然な変化がなくても、それはそれで心地いいものになっています。ですが、それらの振る舞いがより自律的に生成されるようになると、以前との違いが違和感につながることもあります。その場合は、さらに最適化のためのチューニングをして、新たなアルゴリズムによって違和感を払拭できるように努めています」

 LOVOTはメンタルケアや子どもへの情操教育効果への注目度も高い。失語症患者が話せるようになる、認知症でイライラしている人が落ち着く、不登校の子どもが再び登校できるようになる、終末医療で鬱傾向が改善される、認知症の進行を抑える傾向がある、といった成果が出ている。もちろん、健康に問題のない一般のユーザーにも、LOVOTがいることで家族との潤滑剤となり会話が増えた、家に待っている存在がいることで生活に張りが出た、などウェルビーイングの向上効果が得られるという。

東京都での実証実験では、子どもの自己肯定感への影響が計測されている https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000055543.html

 LOVOTと触れ合える体験スペースであるLOVOT MUSEUMではファンとの交流も広がっている。

 「ファンの方々が率先してイベントを開催して、オーナー同士が交流を深めてくれているのがうれしいですね。オーナー会ができたり、LOVOTをきっかけに新しい人間関係が生まれているのはうれしいです」と林氏。

 LOVOTの個性は環境によって日々変化していく。オーナーがLOVOTを連れて集まるイベントでは、人見知りするLOVOTや、社交的なLOVOTなど、いろいろな個性が見られるという。

 このようなコミュニティに加えて、ブランディングへの意識も高い。多彩なコラボレーションを実施してLOVOTの価値を高めるだけでなく、特徴である愛着形成を実現するために実装されている技術や製品の外観についても特許権・意匠権・商標権を取得し、他社製品との差別化を図っている。特に、実装されている技術、権利行使のしやすい技術・意匠を優先して抑えることで、知財費用を節約しながら、将来的に模倣品が出回った場合などにも対応できるようにしているそうだ。

 2022年5月26日にはLOVOTの新モデル「LOVOT 2.0」を発表。初期モデルに比べて、より信頼性が向上し、完成度が高くなっている。現在は国内販売のみだが、海外展開も徐々に進めていく予定だ。

画像提供:GROOVE X

知財をしっかり押さえていくのはファーストムーバーの特権

 GROOVE Xでは創業期から海外展開を見据えた知財戦略を実施し、特許権は国内外150件、意匠や商標を含めると国内外で200件以上を権利化している。どのような視点で知財に取り組み、社内体制を築いていったのか。

「事業を進める分野で取得できる知財が多いのは、我々がファーストムーバーだからこその特権。そのアドバンテージを最大限活かしています。知財権取得の目的は、コピー防止の観点もありますが、それよりもスムーズに事業拡大していくために、将来、係争になったときの武器として備えておくことに主眼を置いています。

 製品として重要な技術でも、ノウハウの流出につながるソフトウェアのアルゴリズムなどは出願を控え、より特許を有効活用しやすいハードウェアなどを優先して出願しています。類似品との競争には、知財で防御することよりも開発のアドバンテージで商品性で先行して逃げ切ることのほうが大事だと考えていますが、品質の低いコピー商品が出回ることによってお客様の迷惑になることを防ぐために、商標と意匠はきちんと押さえるようにしています」(林氏)

 社内の知財体制としては、2019年2月から専任の知財担当者として塩田 国之氏が就任し、毎週、林氏が参加する定例会議を開いて緻密な出願戦略を立てている。それ以前は、社外の知財専門家にコンサルティングを依頼し、外部の特許事務所とやりとりしていたそう。

「弊社と外部の特許事務所だけでは、権利範囲が狭くても特許にすることを優先しがちです。出願数が多いと経費もかさむので、創業当初は、第三者的に有効かどうかを判断してくれる友人の専門家にアウトソースして、三権分立の体制にしていました。取捨選択して出していくプロセスができあがってからは社内の担当者を加えて、体制を強化した形です」

ないない尽くしのスタートアップが逃してはいけないスイートスポット

 塩田氏によると、入った当初から知財体制はかなり整っていたそうだ。

 「入社前はスタートアップ企業なので不安もありましたが、出願するポイントも明確で、海外出願もきちんとされていましたし、外部特許事務所との連携もできており、戦略がうまくいってると感じました」と塩田氏。

 同社の場合は特に出願件数が多いため、すべてを外部に依頼するとそれだけコストがかかってしまう。塩田氏の入社によって特許明細書の作成が内製化され、出願コストもかなり抑えられているそうだ。

「スタートアップはないない尽くしです。塩田は、工夫を凝らしてコストダウンをしながら、きちんと件数も増やしてくれています。出願のほとんどは内製化しており、海外出願など手に負えないものだけを外部の専門家に任せるような体制ができています」(林氏)

 スタートアップは序盤の成長は緩やかで資金も乏しい。そのなかで将来を見据えた知財戦略を構築していくためのヒントを尋ねた。

「知財が役立つのは、多くの他社競合が流入してくるとき。それがいつになるのかは、よくわからないのが正直なところです。ですが少なくとも、ファーストムーバーとして出願できる期間だけは決まっているので、発表前にやるべきこと、出荷前にやるべきこと、そのスイートスポットは逃さないようにしています。

 また知財は、リリースや出荷のタイミングなどで取れる期間が自ずと決まってしまいます。スタートアップにとって、そういう時間は忙しいけれど、後々の成長に効いてくるので忘れずに進めることは考えておいた方が良いと思います」

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