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ゲームエンジンで変わる都市空間シミュレーション

~アカデミア研究開発事例~【前編】

特集
Project PLATEAU by MLIT

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ゲームエンジンならリアルだし、シミュレートもしやすい

――研究においてゲームエンジンを使うメリットを教えてください。

川合:ひとつめは、視点の自由な移動、立ち止まってみるなど、さまざまなインタラクションができることです。これまでのCGやCADによるシミュレーションでは、あらかじめレンダリングしたものを映像で見せていくしかありませんでした。

 もうひとつは、自分が動くだけでなく、エージェントに勝手に動いてもらえることです。上述した津波のシミュレーションがそうですが、これにはUnityのナビメッシュという機能を使っています。条件をランダムにすると不規則な動きをするので、そのあたりが、とても面白い。

 レンダリングの設定も、凝れば凝るだけ非常にきれいな絵が作れるので、そのあたりもすごく可能性というか、面白さを感じます。

[補足] レンダリングとは、3Dモデルをカメラの視点や配置した光源の位置などに基づいて、色の反射などを計算しながら、実際に見える画像として作っていく処理のこと。

[補足] ナビメッシュとは、面に対して動ける範囲を設定する機能。詳細は中編で説明する。

――逆に、デメリットや弱いところはありますか。

川合:重たいところでしょうか。最近の学生は、みんなノートパソコンを持つんです。昔はデスクトップでゲーミングPCというのが主流でしたが、最近はもうスマートに、スターバックスでMacBookみたいな感じになってきているのですが、「外だとUnity動かないぞ」みたいな感じで。ある程度マシンパワーが求められるのは難しいところかもしれません。

――こうしたシミュレーションは、どの程度のスペックで動くのでしょうか。

川合:普段使っているのが、Corei7のPCです。メモリーは32GB。グラフィックボードはRTX2080という少し前の型ではありますが、それぐらいのノートパソコンであれば、一応、動かせます。メモリーとグラフィックボードは、もちろん高性能なほうがよいです。

 PLATEAUを扱ううえで大変なのは、データがとても大きいので、その大きいデータを利用するための保存領域がすぐになくなってしまうことです。よく学生が動かない、開かないと言っている原因の多くが、ディスクストレージがいっぱいになっているケースです。「要らないデータを削除しないと動かない。Cドライブの残り容量を見てごらん」と指導すると、解決することが多いです。

 大学では、仮想サーバーのようなところに課題や研究で使っているデータをアップしているのですが、うちの研究室で使っているデータが大きすぎるため、もう少し整理して、使わないデータを消すようにしばしば学内で注意されます。メモリーやグラフィックボードだけでなく、ストレージの領域を考えておかないといけません。

――描画だけでなく、シミュレーションの部分も、通常のPCで計算するのでしょうか。

川合:そうです。たとえば津波避難シミュレーションだと、50回とか100回とか同じ条件で回して平均を取るのですが、そういった場合は、パソコン教室を借り切って、60台で一気に計算することもあります。

 教卓から遠隔コントロールもできるようにしてあるので、一気に動かして、CSVデータで吐き出せます。もう少し凝れば、パソコン同士を並列につなげて、スパコンのように使うこともできるみたいですが、そこまではやっていません。

PLATEAUは地形・建物・道路を全部扱える、簡単で信頼できるデータセット

――先ほど、PLATEAUをビルなどのリアルなところで使っているとお聞きしましたが、具体的に、どの部分か教えてください。

川合:今進めているプロジェクトですと、建物モデルのところです。

 最初のころは、国土地理院の基盤地図情報やOpenStreetMapなどを組み合わせたり、テクスチャーデータとして、Googleのストリートビューをスクリーンショットしたものを加工したり、いろいろやっていました。

 いまではPLATEAUで全部、地形も建物も道路も同時に扱えるので、とても便利です。地理院地図を使っていた時代から考えると、その同じメッシュで、同じ座標系でポンと作れるというのは画期的です。

 これまでいろいろなデータを組み合わせてきましたが、やはり精度の面からピッタリ合わないんですよ。それで、無理やり端っこの4点を合わせていくのですが、どうもうまくいかない。建物が宙に浮いたり道路が地面に沈んだりと難しかったのですが、比較的きれいにいくのがPLATEAUです。

 もちろん細かい部分は、多分計測時のデータが違うのだろうと思うので、地形データが少し凸凹することがありますが、これまでやってきたものに比べると格段に扱いやすいです。

[補足] OpenStreetMapとは、皆でオープンデータの地理情報を作るプロジェクト(https://www.openstreetmap.org/)。オープンソースのベースマップが提供されていて、地図として利用するだけでなく、地図上のどこに何があるのかをユーザーが登録して、皆で共有できる。

[補足] メッシュは、正式には「地域メッシュ」と呼ばれるもので、国土を緯度・経度により方形の小地域区画に細分したもの。総務省が定めたもので、国勢調査をはじめとする、さまざまな統計の区切りとして使われている。PLATEAUでは、提供される地図が、約10km四方の「2次メッシュ」や約1km四方の「3次メッシュ」のデータを中心に提供されている。

[補足] 座標系とは、地図上の位置を示すときの座標の扱い方のこと。地球を球体として扱うのか、一部の平面として扱うのか、原点をどこにするのかなど、いくつかのやり方があり、違う座標系同士のものを重ねようとしても、ピッタリ合わない。

[補足] 4点を合わせる手法の難しさについては、中編を参照。

――以前はどのように3Dデータを入手していましたか。

川合:最初は手づくりです。1年かけて、「毎週1棟は作るように」というように、学生にひたすら作らせていました。昔はForm・ZというCADのソフトを使っていましたが、最近はBlenderに移ってきて、さらに、Houdiniというソフトを使ってプロシージャルモデリングで作る学生もいます。たとえば、道路の自転車レーンなどは、一個一個テクスチャーを置いていくと巨大なマップになって大変なので、1か所だけ作って、これを100回繰り返すといった処理を指定する作り方です。建物を配置するときも、建物モデルをいくつか登録しておいて、ランダムに100個並べるといった、そういうモデルを好む学生が増えています。

 3Dデータは買うとなると非常に高価です。だから都市を作ろうとなると、手作りではもう限界があります。OpenStreetMapには、一部に3Dデータがあるのですが、著名な場所以外は整備されていませんし、データとして、いい加減なところもあり、信頼できるデータセットがなく、難しい状況でした。

 そうしたなか、PLATEAUの3D都市モデルの登場で、急にいろいろとできることが増えたのは画期的なことです。

[補足] Houdiniは、数式と処理を組み合わせてモデリングする3Dソフトウェア。プログラムによって3Dモデルを生成できるため、同じ形状や、それを少しだけ変えたものを繰り返したものなどが作りやすい。

川合 康央(YASUO KAWAI)
文教大学 情報学部 情報システム学科 教授,学科長

1972年三重県生まれ。京都工芸繊維大学大学院で都市計画を学び、2002年博士課程修了。同年より文教大学情報学部に着任。研究室では、オープンデータとゲームエンジンを組み合わせ、様々な社会課題を解決することをテーマにした研究を行っている。

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