日本の災害対策に求められるデータ標準化やベストプラクティス共有
「災害時のICTが抱える課題の俯瞰 ~今後のビジネスチャンスを探る観点から~」基調講演レポート
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ASCII STARTUPは11月19日、IoT、ハードウェア事業者に向けたビジネスカンファレンスイベント「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」をオンライン開催した。
10時からの基調講演では特別セッション「災害時のICTが抱える課題の俯瞰 ~今後のビジネスチャンスを探る観点から~」を配信。防災とICTをテーマにしたプロジェクト参画や関連執筆の多い総務省 国際戦略局 山口真吾氏が、IoT・AI×防災ビジネスの市場動向と参入へのポイントを語った。
アーカイブ配信は12月9日まで! チケット受付中
IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUPにて配信した基調講演および全セッションをアーカイブにて視聴できます。価格は無料。当日のチケット受け付けに間に合わなかった方や見逃した方など、動画にてぜひご確認ください。
本講演では、1)情報によって災害関連死を防止する、2)政治・行政・企業の乏しい危機意識、3)市場トレンドとビジネスチャンス、4)防災分野での人工知能(AI)の活用――の4つの視点から基調講演を展開した。
情報によって災害関連死を防止する
東日本大震災などの過去の災害では、直接死は免れたものの厳しい避難生活の中で亡くなった災害関連死が約5千名にものぼる。災害関連死は物資や医療サービスが迅速に提供されれば防げる被害であり、この対策を確実にできるかどうかは文明社会のバロメーターといえる。災害関連死の防止にはICTを利用した情報活用も有用だ。
現在は災害時のオーラルケアの重要性が見直されている。被災時に歯ブラシを持って逃げる人は少ないが、抵抗力の低い高齢者は、2、3日歯を磨かないと口内の雑菌が繁殖し、誤嚥性肺炎で命を落としてしまうこともあるからだ。
避難生活には食料などの生活物資の不足、トイレなどの衛生設備、狭い場所でのプライバシー保護、運動不足、心理的不安など、さまざまな課題がある。必要なものを迅速に把握し、物資や医療支援をいち早く届けることが重要だが、避難所は東日本大震災で約2400ヵ所、熊本地震は1000ヵ所以上と多く、それ以外にも車中泊やテントで生活する被災者もいるため、現場の情報把握は難しい。
さらに災害時の情報伝達には、電話回線の破損や停電で情報が届かなかったり、組織の縦割りによる情報の抱え込み、休日・夜間の担当者不在、官公庁のIT化の遅れ、データを分析・評価できる人材不足など多くの課題を抱えている。だが一方でこれからは、課題をきちんと認識できれば、必要なソリューション提供のチャンスともいえる。
わずか3項目の情報分野、政治・行政・企業の乏しい危機意識
政府は「防災基本計画」で防災計画の作成基準を示しており、地方自治体はこの計画に基づいて地域の防災計画を立てている。しかし、以前の防災基本計画には偏りがあり、通信手段の確保が15項目、情報の収集体制整備は9項目の記載があるのに対して、情報の整理・分析はわずか3項目と少なく、情報を収集できても、十分に活用されていなかった。熊本地震で情報不足によって支援格差が生まれたことへの反省から、2017年に改定された防災基本計画には情報分析能力の強化の一文が盛り込まれている。
災害情報分析のためICT導入義務が防災基本計画に反映されたが、2020年3月の調査では、ICT導入を地域の防災計画で措置したのは全国47都道府県中、20都道府県に留まり、27都道府県は未対応。企業のBCP(事業継続計画)策定率も17.6%と低水準で、特に中小企業の取り組みが進んでいない。東日本の被災地域や南海トラフ地震が予想される中部エリアは、自治体のICT導入、企業のBCP策定率ともに低い傾向があるなか、高知、福島、静岡は高く、取り組みのヒントになりそうだ。
地方自治体や企業だけでなく、中央省庁の防災体制も不十分だ。会計検査院の報告によると、防災の司令塔となる内閣府の総合防災情報システムは、一部のデータの登録は手入力に限られており、登録が低調であることが判明。また、地方公共団体や他省庁の災害関連情報システムとの連携ができていないなど、導入はされていても運用面で課題がある。
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