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ビジネスと知財をつなぐ戦略を早くから考える重要性

「IoT H/W BIZ DAY 2021」IP BASE協力の特別セッション「急成長中の次世代IoTスタートアップだからこそわかった、知財戦略の重要性」

連載
IoT H/W BIZ DAY 2021

 2021年11月19日、IoTやハードウェア製品をはじめ、AIやクラウド、ネットワーク関連など、モノと通信に関わる事業者すべてに向けたビジネスカンファレンスイベント「IoT H/W BIZ DAY 2021」がオンラインで開催された。知財戦略の重要性を探るIP BASE協力の特別セッション「急成長中の次世代IoTスタートアップだからこそわかった、知財戦略の重要性」を配信。今回は、次世代IoT無線「UNISONet」を提供する東京大学発スタートアップのソナス株式会社 代表取締役 大原 壮太郎氏と、経済産業省 特許庁 総務部 企画調査課 課長補佐 ベンチャー支援班長 鎌田 哲生氏に登壇いただき、知財戦略への取り組みや重要性についてトークセッションのレポートをお届けする。

特許庁によるスタートアップ向け知財戦略の取り組み

知財アクセラレーションプログラム「IPAS」

 経済産業省 特許庁 総務部企画調査課 課長補佐 ベンチャー支援班長 鎌田哲生氏から、特許庁のベンチャー支援施策について説明あった。アンケート調査よると、スタートアップにおける知財意識は低く、バイオや薬といった特許ないとやっていけない業界あっても事前に知財戦略について考えていないことが分かったという。ところが、海外ベンチャーキャピタルからの出資や、大手企業のM&Aにおいては知財を重視しており、不十分な知財戦略よりイグジット機会損失するのは、あまりにももったいないという現実がある。

 特許庁では、事業と知財を掛け合わせたスタートアップ成長のための「知財アクセラレーションプログラム IPAS」を実施。加えて、これから起業したいと思っている人や起業したばかりの人に向けて、スタートアップ向けサイト「IP BASE」も運営している。「IPAS」では、知財専門家やビジネス専門家によるメンタリングを約5カ月間受けることができ、課題の確認やビジネス戦略に対応した知財戦略を練ることが可能だ。実際に過去3年間で40社を支援し、220件以上の特許を出願、過半数の会社は資金調達に成功しているという。YouTubeチャンネルも解説し、知財の基礎情報や支援施策、過去のセミナーなどを紹介しているので、興味のある方にぜひご覧いただきたい。

ソナス株式会社の知財戦略

 続いて、ソナス株式会社 代表取締役 大原壮太郎氏から、同社の事業内容について紹介があった。IoT向けに電池で動くような省電力の無線通信「UNISONet」を核とした東京大学発のベンチャーであり、デバイスからWebシステムまでIoTシステムをワンストップで提供している。

ソナス株式会社 代表取締役 大原 壮太郎氏

「UNISONet」の7つの特徴

 UNISONet」は同時送信フラッディング型という革新的転送技術を採用。省電力だけでなく、双方向低遅延や高速、超安定、ロスレス、多数収容といった特徴があり、現在は、「UNISONet」をコアにソリューション事業とワイヤレス事業を展開している。

事例:無線振動計測による構造物モニタリング

 無線振動計測による構造物モニタリングでは、地震で建物が揺れたあとの被災度判定や経年劣化の診断に活用されている。大地震のときに人が見て回るのではなく、センサーで即座に判定できればという視点から大手ゼネコンなどが採用。同期の取れたロスのない生振動データを年単位で取得できる点が高く評価されている。また、JR東日本など鉄道インフラ向けの傾斜監視システムにも採用されている。

IPASでソナス株式会社が行ったこと

特許庁のIPASについて語る両氏

「どういった知財を取るかという部分で、特許の専門家だけが来て支援をいただくわけではない。必ずビジネスの関わる支援がセットになっているところが大きな特徴」と大原氏。当時は、お客様に対してライセンスをしていくのか、我々がクローズして無線規格をソリューションとして出していくのかが、決まっていなかった段階で、まだビジネス戦略が固まっていなかったという。「そのあたりを整理し、必要な知財に関して、ビジネスの流れに基づいて支援していただいた」と当時を振り返った。

「IPASはビジネスと知財を連動させることが特徴なので、まず状況把握のために話を聞いて、経営者が気付いていない課題を掘り起こすことが多い」と鎌田氏。「戦略としてどこの時期にIPASを受ければ良かったのか、もう少し前に受ける方が良かったかもしれない」という思いがあると大原氏は述べた。この発言に対し、「最初に知財戦略を立ててもらうと失敗がなく、成長にのれる。後ろで気付いても後戻りができない。ソナスさんも早いうちに気付いて良かった」と鎌田氏も同意見を述べた。

IPASでのメンタリングの進め方

 鎌田氏から、IPAS進め方を改めて紹介。「IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎」についてネットでも公開している。

IPASに参加したことでソナス株式会社が変わったこと

 一番変わった点について大原氏は、「知財にコストをかけるという意識。当時は自分の給料が月10万という状況の中で、知財にお金を出せず二の足を踏んでいる部分があった。知財のコンサルにも入ってもらい、新しい発明が出たら、類似の特許がないかを確認し、なければ特許申請するための外堀を埋めていくようにした。しっかりとお金も時間もかけて知財をとっていくように変えた」と述べた。「時間を作ることは大事。経営者は考えることがたくさんあるので、知財が後回しになりがち」と鎌田氏。

 経営者だけでなく、社員の意識も変わったか?という問いに対しては、「IPASの支援を受けて、その後東京都の支援も継続して受ける中で、知財の規定を決めて社内で共有している。定期的にディスカッションも行っていくことで、知財に対する見方が変わってきている。経営者から知財の重要性についてメッセージを示していくことが大事」と大原氏が回答。鎌田氏も「「これが知財になりそうだというより、知財を出すという意識が重要」と述べた。

知財戦略を構築してから成長につながったこと

 知財戦略によって資金調達を得られたことはあったか?という問いに対し、大原氏は「知財戦略がないと得られない。事業計画を口頭でプレゼンして、感触がいい場合は資料をお渡しし検討に入るが、必要資料の中に知財一覧が入っている。この技術がビジネスにつながっていくためのものがとれているか、出願できているかは、しっかり見られる」と回答。「知財戦略はあったらいいものではなく、なければいけないもの」と鎌田氏も同意。大原氏は、「VCさんと話をする際も、この知財はどういう知財なの?という確認があり、1つ1つ説明をしないと前に進めない。大企業ができなくて、うちではこれができるという前提が知財。特にバイオ系や医療系、製薬系などは知財の重要性が高い。そういったスタートアップにはぜひIPASに参加してほしい」と述べた。

大学との共同出願に関して重要なこと

IPAS「知財戦略支援から見えた、スタートアップがつまずく14の課題とその対応策」

「大学は専門の方がいて、こちらは経営者で必ずしも知財に詳しくないこともある。その力の差や情報の差はあったのでは?」という問いに対し、大原氏は「交渉する際にどこがキモになるのか分からず、先輩起業家さんに聞きながら進めるしかなかった」と回答。  鎌田氏は「知財戦略支援から見えた、スタートアップがつまずく14の課題とその対応策」について紹介。3年間の実例の中で、多くの企業が似たような箇所でつまずくことが分かってきたことから、その解決策について書いたものだという。

「14の課題を見るとドキドキする。当時を思い出すと胸が痛いが半分くらいは当てはまった。特に、“秘匿又は権利化の見極めがうまくできない”がはまった。ノウハウ化するか権利化するかが重要だったのでIPASにもご支援いただいた」と大原氏。それに対して、「知財化すると1年半後には特許として公開されるが、特許は20年しかもたない。アルゴリズムとして秘匿化すると永久に秘密が守れるという優位性がある。どっちがいいかは、ひとつずつ判断していくしかない」と鎌田氏も同意。 IPAS支援の成果については、「そういう過程を経て、感覚としてこれはノウハウ化すべきとか、自分たちで判断がつくようになった」と大原氏も述べている。

 最後にスタートアップへのメッセージとして、大原氏は「なるべく早く知財戦略を考えることが重要。技術系の会社なら、どうサービスやビジネスにつなげるかという前段階に知財戦略があると考えるべき。お金がない段階でもIPASという制度があるので利用してほしい」とコメント。鎌田氏も「特許庁でもいろいろな支援策を用意しているので、まず頼ってみてください。IP BASEでも勉強会を開催してます。多くの企業にIPASに参加してほしい」と話し、特別セッション「急成長中の次世代IoTスタートアップだからこそわかった、知財戦略の重要性」は閉幕した。

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