これからICTを導入しようとしている中小規模の介護施設・事業所にうってつけなツールがLINE WORKSだ。導入企業はすでに25万社以上という国内市場でトップシェアのビジネスチャット(※)で、介護業界でも導入する施設・事業所が増えていて、介護スタッフの募集や定着にも効果アリという導入施設からの声もある。今回は地震や豪雨など頻発する自然災害の脅威などに備えるためのBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)にLINE WORKSの利活用を位置づけた事例を紹介する。
※富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2020年版」調べ
BCP(事業継続計画)策定の義務づけ
厚生労働省は、感染症や自然災害が発生しても、介護サービスが提供されるようにするため、令和3年度介護報酬改定で介護事業者にBCPの策定を義務づけられた。3年間の猶予期間が設けられているが、いかなるときも要介護者を支えるうえで欠かせないサービスの提供を続けられるよう、民間事業者を含め積極的な対応が求められる。そのための体制を構築する際、ぜひ活用したいのがLINE WORKSだ。
BCPの対策における連絡手段としてLINE WORKSを採用した、東京海上日動ベターライフサービス株式会社の管理部次長兼コンプラ・リスク管理グループのグループリーダー・三上信氏に導入の経緯や利用法をうかがった。
災害発生時の対応における課題
──BCPを策定する前、災害時における介護事業者としての対応について課題と感じていたことを教えてください。
当社では2019年からBCPの本格的な運用を開始しました。それ以前から、入居者と社員の安全を守るための安否確認の方法を決めており、参集基準等のマニュアルを作成していたのですが、西日本豪雨(2018年7月豪雨)の際、有料老人ホーム「ヒルデモア東山(京都府)」の被害状況を確認しようと当社の関係者複数から連絡が入り、現場でそれぞれに対応しなければならなかったという事態を経験し、発災直後の被害状況の確認方法に問題があると感じました。当社は訪問介護を41か所、介護付有料老人ホームを11か所、サービス付高齢者住宅を2か所経営しているのですが、これらが複数の都道府県に点在していることもあり、迅速な被害状況の情報収集やそれを受けた適切な指示の伝達、法人全体の状況の把握が難しいことが浮き彫りになったのです。災害時には本社に災害対策本部を立ち上げ、各施設の管理者に被害状況等の確認を行うのですが、夜間や休日といった業務時間外の場合には、報告を集める作業にかなりの時間がかかるということも課題でした。
災害時に有効な通信手段と知って
──BCPを策定するにあたって、どのようなことを重視しましたか。
私たちはBCPを「発災から復旧までのロードマップ」ととらえており、「サービスの継続」「利用者の安全確保」「職員の安全確保」「地域への貢献」を目的としています。具体的な重要事項には「停電対策(自家発電)」「教育・訓練」とともに「通信・情報共有」があり、介護サービスの利用者や社員の安否、事業所の被害状況をどう確認するか、対策本部からの指示はどのように伝えるか、こうした情報の通信手段の確保と活用がポイントでした。
──連絡手段としてLINE WORKSを選定された経緯は。
2016年に発生した熊本地震で連絡手段としてLINEが有効だったことは知っていましたので、LINE WORKSについて検討したところ、災害時に役立つツールであると確信できました。チャット形式で現場の状況について迅速かつセキュアに情報を共有できる。短いテキスト以外にも写真や動画を送れるので、災害で問題が生じた箇所の様子を撮影して「トーク」で共有するなど、メールや電話で伝えきれない情報を視覚的にも伝達できる。既読機能により確実に情報が伝わったことが確認できる。こうした機能が決め手でした。
被害状況の報告ルールを決める
──具体的な運用方法は。
有事の際の報告や応援要請にLINE WORKSを用いることを想定しています。まず「トークルーム」で情報共有することで、連絡の重複を防ぎ、本社の災害対策本部のメンバーがリアルタイムで状況を把握するようにしています。
運用に当たっては、重要な情報が埋もれないようにするため、既読機能を生かし、単なる「承知しました」といった返事はいらない、など被害状況の報告ルールを定めました。また災害発生直後の状況確認には「アンケート」機能も利用して一斉に被害状況の報告をしてもらい、並びで見ることができるようにして、災害対策本部で、どこから対応すべきか判断しやすくしました。さらに「ホーム(掲示板)」に災害時の対応ルールや外部連絡先などを記載しています。ここに各事業所が備える非常用電源設備の燃料の注文先電話番号やメールアドレスなどもまとめておくことで、緊急時にPCを立ち上げることなく速やかな対応を可能とし、災害時に介護事業を止めない体制づくりに役立てようというものです。
加えてLINE WORKSで本社や他施設から得た情報を働いているスタッフには、一斉に連絡するためインカムなど既存の設備と組み合わせることで、より効果的に情報を受発信できる工夫をしています。
災害訓練でも利用しLINE WORKSを習慣化
──対応を周知し、定着させるためにはどのようなことに取り組まれましたか。
まずBCP対策の一環として災害対策本部と各施設の責任者(支配人)に限定してLINE WORKSの運用を始めました。有効性を実感できたことから、各事業所の管理者やマネージャー、キッチンの責任者へと対象を拡大していきました。当社は各施設と本社の災害対策本部を結んで定期的に全社災害訓練を実施していますが、その際も、各事業所からの本部への報告にLINE WORKSを利用することで慣れてもらえるようにしています。
備えを進める中、LINE WORKSは大きな災害時にも迅速な連携を実現し、災害時にも介護事業を止めない体制を構築するうえで役立つツールだと感じています。また、非常時にこれを介してつながることで被災時に孤独にならず、安心感を得られるであろうということも大きな利点です。
次回は、取引先と福祉用具のレンタル・販売の受発注をLINE WORKSでスピード化した事例を紹介する。
ワークスモバイルジャパンでは、介護・福祉従事者向けに、BCP策定や緊急連絡網整備のポイントをおさえたLINE WORKSを活用した無料でできる緊急連絡網の整備するセミナーを行っている。詳細は以下の通り。
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