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STARTUP×知財戦略 第105回

【「第2回 IP BASE AWARD」スタートアップ部門奨励賞】株式会社バカン 代表取締役 河野剛進氏インタビュー

全国10,000施設へ急拡大した”密を回避する”混雑解消サービス、要となったのは創業当初の特許とノウハウ蓄積

2021年08月17日 16時00分更新

文● 松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

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この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンク)に掲載されている記事の転載です。

 株式会社バカンは、施設や場所の混雑情報をリアルタイムで配信・可視化するサービスを提供するスタートアップ。2016年の創業から5年足らずで多くの企業や自治体と連携し、急速に事業を拡大している。これらの連携を下支えしているのが創業初期に取得した特許の存在だ。株式会社バカン 代表取締役の河野 剛進氏と法務知財チーム知財担当の松丸 美央氏に、同社の特許戦略と社内の知財体制について伺った。

株式会社バカン 代表取締役 河野 剛進(かわの・たかのぶ)氏
東京工業大学大学院修了(MOT)。株式会社三菱総合研究所で市場リスク管理やアルゴリズミックトレーディング等の金融領域における研究員として勤務後、グリー株式会社にて事業戦略・経営管理・新規事業立ち上げ、および米国での財務・会計に従事。ベンチャー企業の経営企画室長やシンガポールでの合弁会社の立ち上げ等を経て、2016年6月に株式会社バカンを設立。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

コロナや災害など、顕在化したリスクで急拡大した混雑解消プラットフォーム

 株式会社バカンは、「いま空いているか」が1秒でわかる優しい世界をつくることをミッションに、AI×IoTでリアルタイムの空き情報を配信するサービスを構築・運営している。

 センサーや画像認識を活用してあらゆる場所の混雑状況を可視化する機能をベースに、空いている施設やお店を探している個人、回転率を上げたいお店、密を避けたい施設など、使う人の目的に合わせて、スマホやタブレット、あるいは街のデジタルサイネージに最適な形で表示することでさまざまなサービスへと展開できるのが同社の強みだ。

 これまでは、民間の百貨店や飲食店、オフィス、駅、空港に対して混雑や空室状況の可視化サービスを提供していたが、コロナ禍では密を避けるため、市役所の窓口、コロナワクチンの予約代行施設、公園など公共施設への導入も進んでいるそうだ。

 混雑状況が可視化されることで、外出への不安が少しでも減らせる。観光地、選挙の期日前投票会場、夏は海水浴場の混雑状況など、時間帯の指定や地図上で状況をビジュアライズすることも簡単にできるそうだ。

 目下、特に需要が高まっているのが、避難所の空き状況の可視化だ。

「水害や地震などの災害発生時には、避難所への一極集中が起きてキャパシティーを超えてしまうと、住民・職員双方に大きなストレスになります。受け入れが遅れると体力が失われ、また密になれば感染リスクも高くなってしまう。空き情報を可視化すれば、最寄りの空いている避難所を探して、自助努力による分散避難が可能になります」(河野氏)

 このようなソリューションの場合、センシングやAI分析の精度など技術的な部分に目がいきがちだが、システム構築でいちばん時間をかけたのがオペレーションの設計部分だった。各種センサー、測距機能付きのカメラといった設置場所に合わせた機器の運用、スマホアプリにするか、地図上で見せるか、使う人や導入目的によって運用しやすいUI(ユーザーインターフェース)は変わってくる。

「ユーザーがどう感じるか、導入先が使いやすいかをひとつひとつヒアリングして拾い上げ、サービスへ落とし込んでいきました。バカンの前に僕がやってきたウェブサービスとは観点がまったく違い、地道に向き合っていくしかありません。難しいですが、これをやらないとスケールできませんから」

 バカンでは、こうして得たノウハウをシステムに組み込んで標準化することで、導入先の要望に合ったサービスをスピーディーに提供できる仕組みを構築している。一般的なサービス稼働までは通常2~3週間だが、シンプルなものであれば数日以内で導入できるそうだ。

 特に災害関連では、2020年の8月から支援を開始し、現在160以上の自治体、1万施設以上に提供。避難所への導入については、人口カバー率10%まで急速に普及している。

大手企業との連携するため、創業初期から知財ポートフォリオを構築

 河野氏が知財を意識し始めたのは創業して半年ほどたってからだった。

「大企業との連携を考えたときに、わかりやすく自社の強みがあったほうが組みやすくなります。また、お互いの知財の境界線をはっきりさせておかないと、あとで揉めかねないな、と特許化を考えるようになりました。自分たちで対策をするのは当たり前ですし、制度として権利が国に担保されるのなら活用しない手はありません」(河野氏)

 河野氏は大学で知財を学んだ経験もあり、基本的な知識や興味があったことも大きかった。独学ながら、知財ポートフォリオを構築するため創業当初から5件の特許を出願している。

「最初に出願したのはデジタルサイネージに表示する仕組みに関連する特許です。リアルタイムの空き情報をトリガーにディスプレーの表示を自動的に切り替える弊社独自のシステム『VDO』(Vacant-driven Display Optimization)を中心に、その周辺特許を固めていきました」

 狙い通り、特許を取得していたおかげで大手企業との連携交渉はスムーズに進められたそうだ。「早期審査を利用して早く権利化できたので、より安心感を持ってもらえました。特許という裏付けがあるので、大手企業などに対しては自社の技術やサービスの何が優れているのかを明確に伝えられます」

 現在は、初期の特許を補強する形でVDOに関する周辺特許の強化を進め、一部についてはPCT出願を利用して、シンガポールやオーストラリアなど海外への備えも行なっている。また、ユーザー体験を上げるための表示方法などオペレーション部分についても特許化を模索しているとのこと。

あらゆる部門と交流して事業に関われるのがスタートアップ知財の醍醐味

 戦略的に知財活動を進めていくため、近年は社内にも法務知財チームを開設。バカンで知財を専任で担当している松丸 美央氏はメーカーの知財部の出身。前職では、権利化や第三者特許対応に携わってきた。

 大手企業の知財部とスタートアップの知財担当として働き方の違いについて聞くと、「技術職ではない、いろいろな立場の人とも情報をやり取りできるのは、スタートアップならではです。例えば、営業のメンバーが現場で感じた課題を直接ヒアリングして、エンジニアにその情報を伝えて、解決策を考えてもらったことが発明につながっています。自分でアイデアを提案して、プロダクト開発にかかわっていけるのは、スタートアップならではの面白さです」と松丸氏。

 バカンの場合、導入先企業のジャンルも幅広いため、顧客との接点の多い営業メンバーからはあらゆる情報が集まり、サービスへと還元される。また、松丸氏が媒介となることで、企画や営業メンバーの知財意識も高まるいい循環が生まれているようだ。

 バカンでの仕事内容は、権利化に至るプロセスの構築、発明者へのインセンティブ設計、社内の啓蒙活動、権利化を進める領域のカテゴライズなど多岐にわたる。事業戦略とのズレが生じないように、各事業部の責任者と定期的にミーティングをして、開発状況を確認しながら出願フローを作っているそうだ。また、普段から知財に関心を持ってもらうため、社内Slackで知財のニュースを共有するなど啓蒙活動も行なっている。

「特許単体では事業になりません。まず事業戦略があり、それを支えるのが特許です。事業戦略をどのように促進し、どのように守るかという観点で、知財でできることを考えるようにしています」(松丸氏)

 松丸氏は、バカンの空き情報サービスを「収集」と「配信」に分けて捉え、それぞれについての知財戦略を構築している。「収集」は、センサーやカメラの画像認識などの技術特許について。「配信」では、空き情報を使って地図や直前予約など、どのようなユーザー体験でサービスを提供するか、といったUIに特化したもの。サーバー内部でのアルゴリズムは出願せず、秘匿する戦略をとっている。

 出願については、内容によって社内で作成するものと、外部に依頼するものとに分けている。専門家を選ぶ基準は、その技術分野に精通していることはもちろんだが、バカンの事業を面白いと思ってくれるかどうか、を重視しているとのこと。

 河野氏に専門家の探し方を尋ねると、「フェーズによっても相性のいい専門家は違うかと思います。創業初期の段階では、知財の知識がないことを前提に、一緒に考え、勇気づけてくれる方と出会うのがすごく大事。フェーズが上がってから徐々に専門性のある方への移行を考えていけばいいと思います」

 河野氏の場合、最初の出会いはアクセラレーションプログラムの主催者からの紹介。スタートアップへの理解がある温かみのある事務所でITに詳しい弁理士に担当してもらったことで、特許出願の自信が付いたそうだ。

いい特許を取るには、事業の中枢を意識したチャレンジが大事

 バカンでは、最初に出願したVDOが今もサービスの要になっている。

「創業初期のスタートアップは、まだ構想を練っている段階。事業になるかどうかはわからないうちに最初の出願をチャレンジしたからこそ、事業の中枢になるような特許が取れたのだと思います。コアとなる権利を取ることを尻込みしていたら、事業に生かせるような特許にはなっていなかったかもしれません」と松丸氏は評価する。

 従来のITはシステムのみで知財への意識が低いといわれていたが、目下あらゆる分野にIoTやAIが活用されることで、知財を重視する風潮は世界中に広がっており、特許の重要性はより高まると予想される。

「もちろん特許を出さない戦略もあるけれど、海外展開を前提とするならば、自分たちで権利を取って守ることが大事です。これだけ欧米・中国で特許争いになっているなかで、無防備な状態で進めると国内の業務すら難しくなることもあり得ます。まずは自分たちが他社の権利を踏まないこと。また他社の技術を使いたくなったときに、交渉できる状態を作っておくことも大事です」(河野氏)

 混雑抑制のために導入されたサイネージについては、その空間と時間の活用しバカン独自の試みも進められている。商業施設やコンビニエンスストアなどでプロモーション動画の配信での実証実験では、コンテンツへの意識が集中するといった広告面のメリットや、個室内の長時間滞在といったリスク軽減などのメリットが見えてきている。

 今後の事業展開について河野氏は、「地域や大企業と組みながら、日常から非日常までサポートできるサービスにしていきたいです。サービスをメディアとして活用すれば、観光地などの認知施策にも活用できます。その場所へ来た人に安心と新しい体験してもらうなど、リアルとメディアを融合したサービスの可能性を広げていけたらうれしいですね」と抱負を述べた。

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