メルマガはこちらから

PAGE
TOP

VCも中抜きされる今、出資だけでは差別化にならない 国内屈指の独立系VCが進める”支援”の拡充

グローバル・ブレイン株式会社 Founder/CEO/General Partner 百合本 安彦氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

 国内有数の投資実績を誇る独立系ベンチャーキャピタルであるグローバル・ブレイン株式会社では、ベンチャーキャピタリストだけでなく、スタートアップの成長を専任で支援するチームの組成を早くから始めている。2020年4月には、VCとしては例の少ない社内専属の知財支援チームを立ち上げた。百合本安彦代表と同社知財担当の廣田翔平氏に、スタートアップエコシステムにおいて、VCがインハウスで行う知財支援のメリットや狙いを伺った。

グローバル・ブレイン株式会社 Founder/CEO/General Partner 百合本 安彦(ゆりもと・やすひこ)氏
富士銀行(みずほ銀行)、シティバンク・エヌ・エイ企画担当ヴァイスプレジデントを経てグローバル・ブレイン株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。自ら起業し、ネットバブル、リーマンショックを乗り越え、日本を代表するVCに育ててきた経営者としての経験を活かし、スタートアップ経営者の良きアドバイザーになっている。

 グローバル・ブレイン株式会社(以下、GB)は、1998年に設立された独立系ベンチャーキャピタル(以下、VC)。徹底したハンズオンによる支援が特徴で、これまでにIPO21社、M&A51社の実績を持ち、国内IPOではメルカリ、ラクスル、ウェルスナビ、メドレー、ギフティほか、海外も含めて幅広い領域で実績を持つ。M&Aの実績が示すように大企業との連携も盛んであり、KDDIをはじめとする国内8社の大企業とのCVC運営を行っている。全ファンド運用総額は1574億円、2021年度内に新ファンドを創設する予定だ。

 2021年6月現在、GBのメンバーは82名と一般的な独立系VCが10人前後なのに比べると圧倒的に多い。その理由は、キャピタリスト以外にスタートアップの成長を専任で支援するチームを組成するためだ。経営、広報、人材採用など各分野の専門家で組成された「Value-upチーム」と同社で呼ばれる支援チームがスタートアップの経営者に寄り添い、事業戦略の構築からEXITまで手厚くサポートするのがGBの強みだ。百合本氏がベンチマークとするのは、アンドリーセン・ホロウィッツやGoogle Venturesのようなハンズオン支援型のVCであり、設立当初から支援体制強化を志向していたという。

「米国ではVCの競争がますます激しくなっています。近年は、クラウドファンディングやP2Pレンディング、SPAC(特別買収目的会社)など、VCを一切介さずに資金調達する手段があり、おそらくこれからも増えていくでしょう。そうなったとき、VCは投資をするだけでは差別化ができません。

 また一方で、単純に投資をするだけで大きな価値が生まれるほど、ビジネスは甘くありません。厳選した投資先に対して、優秀な人材をそろえたチームが徹底的に支援することで、よりその価値を上げるのが我々のやり方です」(百合本氏)

 企業の事業内容やステージに合わせて、キャピタリストと支援チームの3~4名が専属で支援にあたり、そのときのミッションに応じてチームの編成を柔軟に変えていく。人材や連携先企業の紹介、事業戦略の立案、営業先への同行など、支援の形はさまざまだ。

 支援のなかでも、百合本氏が最も重視しているのが人材だ。2019年8月にはスタートアップの人材採用に特化した子会社GBHR株式会社を設立。現在、GBの投資先のうちの40社以上が利用しており、GBHRは年間1000名を面接し、GBの投資先で面接をした人のうち30~40人が採用に至っている。

 また、GBは2013年からディープテック領域への投資も進めており、AI・ビッグデータエンジニア、ライフサイエンス、フィンテックなどのプロ人材を集め、ディープテック領域でのスタートアップ投資のための専門チームも構築している。

インハウス知財部門のように伴走する知財支援チームを組成

 このようなディープテック企業の命運を握るのが知財戦略だと百合本氏は強調する。従来より、外部提携パートナーとしてiCraft法律事務所の弁護士・弁理士である内田 誠氏ら専門家への外部依頼を行っていたが、本格的に知財支援を強化すべく、内田氏と顧問契約を締結し、2020年4月には社内インハウスの知財支援チームを立ち上げた。

「ビジネスアイデアは優れているのに、知財を調べてみると参入障壁が不十分、というケースが多い。我々はVCとしてのデューデリジェンスの段階から知財チームが入り、出願状況などをチェックして、どこを支援していかないといけないかを把握したうえで、知財についても徹底的にサポートをしていきます」と百合本氏。

 GBの知財支援チームメンバーをまとめるのは、同社InvestmentGroup Director/弁理士/AIPE認定知財アナリスト(特許)の廣田 翔平氏だ。GB参画前に在籍していた三菱電機では、企業内弁理士として半導体、AI分野、衛星測位等の分野で特許業務全般に従事していた。立ち上げから1年を経て、知財支援チームとしても実績が見え始めているという。

「スタートアップは、社内に知財担当者がいないのがほとんどです。知財の重要性は知っていても、具体的なやり方がわからない、という悩みを抱えています。それを補完するのが第一のコンセプト。VCは投資先との目線が基本的には同じで投資先の成長そのものが我々の成果なので、当事者意識をもってコミットできるのが大きな特徴だと思います」(廣田氏)

 知財支援チームは、インハウスの知財担当者と同じように、外部の事務所には聞きづらい些細な質問から、中長期的な戦略、それを実行するための出願計画から実際の出願手続まで、伴走しながらサポートする。投資先であるスタートアップの状況やリソースについても把握しており、特許を取ることそのものが収益につながっていない場合には、不要な出願をしないよう提案することもあるそうだ。

キャピタリストが知財支援チームに参加し、知財の問題意識を体感

 こうしたサポート体制は、VCという業態とどのようにマッチさせていったのか。

「私自身、企業の知財部門出身なので、インハウスの役割は理解しており、知財担当者のいないスタートアップの体制では知財のケアが困難になっていることは予想していました。あとはいかにニーズを掘り起こしていいくか。まずはGB社内のキャピタリスト向けに知財の勉強会や全体ミーティングの場で知財支援の必要性や支援内容を共有し、オウンドメディアでも知財の話題を発信して、最初の半年間は、知財の課題感を周知させることから始めました」(廣田氏)

 GBの場合、情報共有だけでは終わらせず、キャピタリストが知財支援チームの一員として参加するローテーションを組み、チームで知財の重要性を浸透させていった。キャピタリストが知財支援チームに参加して実地で学ぶ体制は、メリットも大きいようだ。スタートアップと日々接するキャピタリストが知財支援の具体的な内容や重要性を正しく理解することで、自ずとスタートアップ側にも認知が広がり、チームへの相談件数は指数関数的に増えていったという。

 現在廣田氏は、GBが手がける全投資案件のデューデリジェンス資料に目を通している。もちろんすべてが知財とクリティカルに関わるものではないが、そこで蓄積された知見から、投資家目線のデューデリジェンスで把握した課題を知財支援にフィードバックできるのも、VCがインハウスで行う知財支援ならではだという。

https://universe.globalbrains.com/posts/global-brains-ip-support-team-the-intellectual-property-department-of-the-startup?fbclid=IwAR1QuHyxEiHgGsCeU1k4zp6qwX7UsuFe_fXkY15kVFIFZvH9RxVFDUJbluo
GB知財支援チーム。廣田翔平氏(左)のほか、外部提携パートナーの内田誠氏(中央)、Corporate Management Group 弁護士 の西野 光慧氏(右)。

 チームによる具体的な支援内容は、主に2つ。ひとつは、特許・商標出願や知財戦略の支援。もうひとつは、オープンイノベーションにおける契約まわりの相談だ。

 HRテックを手がける投資先のケースでは、新規プロダクトを開発しているタイミングで相談を受けて、新規の特許出願の支援を行った。その中で、相談前に出願されていた特許が既存プロダクトをカバーしていないことがわかり、代理人である弁理士とも協力して既存出願の中間処理で補正対応し権利化を進めている。さらに、既存出願の補正対応ではカバーできない点については、新規性喪失の例外適用の申請をして追加の出願を行い、こちらは早期審査を利用することによりすでに権利化まで至っている。結果として、新規プロダクトだけでなく既存のプロダクトも含めた包括的な知財支援を実施することができ、VCとしてより投資先に近い立場を活かした支援事例となった。

 ソフトウェアやITサービス領域は、その性質上知財が重視されない傾向があるが、プロダクトやサービスの特徴を示すには特許はわかりやすく、IPOやM&Aを目指すのであれば、権利を抑えておくことで将来的な高評価につながってくる。

 一方でディープテック系スタートアップでは、上記のような知財戦略の支援だけでなく、大企業との受託や共同開発などオープンイノベーションに関する相談が増えている。こうしたアライアンスの契約では、知財の取り扱いが問題になる。そこで、契約交渉の前段階からスタートアップの営業担当とミーティングを重ね、法律的な前提の説明から、交渉を有利に運ぶための話し方までをサポートしており、オープンイノベーションを支援するGBのBizDevTeamとも一緒になって壁打ちをすることもあるそうだ。具体的な契約書作成も含めたアライアンス支援となれば、外部提携パートナーの内田氏とも連携して、大企業との交渉前のディスカッションから契約書作成までを一貫してサポートする。

海外スタートアップが日本に入りやすくなると、よりエコシステムは発展する

 目下のGB知財支援チームとしての目標は、わかりやすい成功例を出していくことにある。

「知財支援ニーズが存在することはわかってきた段階ですが、潜在的にはもっとあるはず。知財で成功したスタートアップ事例が増えていけば、GB知財支援の強みが引き立ちますし、業界全体としても知財の重要性が周知できる。知財は成果が出るまで時間がかかるので、今はその種まきをどんどんしています」と廣田氏。

 最後に両氏に、日本のスタートアップエコシステム発展にまだ足りていないもの、GBがいま進めている取り組みについて伺った。

「スタートアップエコシステムの中で知財が正当に評価される仕組みが必要です。現状は、投資家側にも知財の目利きができる人材が限られており、スタートアップ側にも専門家がいないため、スタートアップの知財が適切なものでも評価されなかったり、逆にスタートアップの知財が本来の内容とはかけ離れて過剰にアピールされてしまったりしている。結果、投資家から知財が評価されないと言われたり、知財に期待して投資をしても期待していたような参入障壁が築けておらず、『知財活動は成果がでない』と言われてしまうのです。

 ビジネスに合致した適切な知財を取れば必ず成果は出るので、投資家側は目利きとしての知見をためていくこと、スタートアップ側もセカンドオピニオンをとるなどして、自分たちの知財活動が適切に進んでいることを確認しながらしっかり知財戦略を立てることが重要です。エコシステム全体としての仕組みを作るには時間がかかりますが、まずは僕らの見える範囲からフェアに評価していきたいと思っています」(廣田氏)

「国内だけでなく、海外のスタートアップが日本市場に入りやすくなると、よりスタートアップエコシステムは発展すると考えています。前述のBizDevチームを設立し、海外ディープテック企業の日本進出・ローカライズに必要なシステム構築や大企業との連携などを支援する取り組みを始めています。一方的に進出するだけではなく、日本側で受け入れる水先案内人となり相互のネットワークを強めることが、結果的により日本のスタートアップの世界展開につながります」(百合本氏)

■関連サイト

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー