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「企業が知りたいのは天気予報ではなく気象のビジネス影響」ClimaCellの戦略

“Weather of Things”やAI技術で気象テクノロジー基盤構築、SBエナジーが出資し国内展開スタート

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さまざまな業界と職務に対応した気象インサイトを可視化

 そして最後の特徴が「プロダクト」だ。ロケーションごとのハイパーローカルな気象インサイトを提供するSaaS「HyperCast」と、このHyperCastによる情報をAPI経由で取得できる「MicroWeather API」の2つを提供している。

 HyperCastでは、顧客の業界ごとにさまざまな知見、インサイトの「ライブラリ」が用意されており、これに基づいて顧客企業の担当者に「どんなアクションを、いつ、どこで起こすべきか」を可視化する。

 「幸いなことに、ClimaCellの創業メンバーや出資者には多彩な業界のエキスパートが集まっている。彼らや顧客から、『この業界ではこういう気象インサイトが必要だ』という意見を集め、ここまで作り上げてきた。豊富なライブラリがあり、全部でいくつあるのか、わたし自身も覚えきれないほどだ(笑)」(イタ氏)

電力業界向けのダッシュボード例。この画面では、気象予測に基づいて送電網ごとにリスクが発生しうる日時を示している

 もちろんダッシュボードはカスタマイズ可能であり、企業内の各担当者の役割に応じてパーソナライズすることができる。たとえば電力業界であれば、送電網の運用担当、電力の販売担当、再生エネルギー担当など、それぞれの担当が必要とする気象インサイトはまったく異なるからだと、イタ氏は説明する。

 「ClimaCellにはさまざまな業種の顧客がいるが、顧客企業は天候が知りたいわけではない。『それがどんなビジネスインパクトを与えるものなのか』が知りたいのだ」(イタ氏)

自然エネルギーとVPPの事業に欠かせない精緻な気象予測

 ClimaCellの顧客企業であるSBエナジーでは、自然エネルギー発電事業を推進するために、発電所ごとの精度の高い発電予測と需要予測のテクノロジーを必要としていた。

 SBエナジーは、日本国内やモンゴルに大規模な太陽光/風力発電所を所有しているが、こうした発電方式は当然、その時々の気象条件によって発電量が大きく左右される。その一方で、電力システムは常に「需要」と「供給」のバランスが整っている必要がある。そこでSBエナジーでは、「バーチャルパワープラント(VPP、仮想発電所)」の事業に取り組んでいる。蓄電池やEV(電気自動車)への蓄電、および電気給湯器などのIoT制御によって、需給バランスをダイナミックに調整する構想だ。

 「雨や曇りで発電量が少なくなるだけでなく、たとえば日光の強い夏場などには発電量が大きくなりすぎて“電力を捨てる”といったことも起きている。こうした需給バランスの課題を解消するために、われわれはバーチャルパワープラントの実証事業に取り組んでいる」(林氏)

SBエナジーが展開する自然エネルギーとVPPの事業

 ここで必要となるのが、精度の高い発電予測と需要予測だ。そしてそのどちらにも、気象状況というファクターが大きく関係する。そこで、ハイパーローカルな気象予測テクノロジーを持つClimaCellのサービスを採用することにした。林氏は、ClimaCellを試用した段階で、それまで利用していた気象予測サービスよりも正確かつ精緻な気象予測ができたのがその理由だと述べる。

 両社の関係にはユニークな点もある。SBエナジーは顧客として気象情報サービスを利用しているが、それだけでなく、SBエナジーが保有する発電所は“センサー”としてClimaCellに気象データを提供しているという。「われわれがデータを提供することで、ClimaCellの気象予測がさらに精緻化される。ClimaCellはとても相性が良いパートナー」だと、林氏は説明する。

 他方でSBエナジーはClimaCellへの出資者でもあり、日本市場におけるClimaCellのビジネスをサポートする役割も担っている。林氏はソフトバンクグループの営業網を活用しながら、今後さまざまな業種の国内企業にClimaCellを紹介していきたいと話した。他の自然エネルギー/再生可能エネルギー事業者にも積極的に提案していく方針だ。

 「今後、日本の電力制度が変わっていく中で、再生可能エネルギー発電事業者が自ら発電量を予測し、責任を負うことが義務づけられるようになる。そのためには精緻な気象予測が必要となるので、そこにもぜひClimaCellとして貢献したいと考えている」(林氏)

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