●Zoomの野望
「もし私が今、自分の会社を立ち上げる時、1つのオフィスを用意しないだろう。加えて、世界中から才能溢れる人材を雇用することができる」
6月8日、東京でリモート開催された日経グローバルデジタルサミット2020に登壇したZoom Video Communicationsの創業者兼CEO、エリック・ユアンはビデオ越しにこんな話をしていました。そしてこの変化は一時的ではなく、元に戻らないとの見通しも示しています。
Zoomは今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、企業、学校、病院などが「インフラ」として頼りにしたビデオ会議サービスとなりました。直近の2021会計年度の第一四半期決算は売上高は前年同期比で169%増加し3億2820万ドル。
セキュリティーの不備による「Zoom離れ」も進みましたが、暗号化キーの中国経由問題への対処を含めた暗号化の改善に取り組み、5月30日以降はバージョン5以下のクライアントが利用できなくなる処置を施すなど、対策を進めています。実際に大学の授業や打ち合わせで使っていると、ビデオ会議の品質からして、Zoom以外の選択肢が考えにくいというのが現状の結論です。
そんなZoomが前提の仕事環境を考えると、1つの固定オフィスを前提とした働き方を選ばないかもしれません。筆者がまだアメリカのWeWork Berkeleyで仕事をしていた頃、まさにそうした風景が広がっていました。
月額450ドルの固定デスクのエリアを眺めてみると、画面はみんな紫色のSlackアプリが開かれており、ビデオ会議は散発的に同時に開かれているといった具合。コワーキングスペースの固定デスクは、リモートワークで他の1つもしくは複数の企業に従事する人たちが重宝していたというわけです。
もちろん、小売店や飲食店はそういうわけにはいかないし、工場などの現場がある業種も難しいと言えます。また国によっては、例えばプライバシー情報の扱いで拠点を廃止できない、といった事情も抱えているかもしれません。あるいは、スタートアップが、拠点を不要とする方法に偏るだけなのかもしれませんが、働き方そのものが不可逆的に変化していくものの、それは全く新しいものではなく、すでに世界のどこかで実施されているワークスタイル、ということでもあります。
しかしこの変革は、より大きな流れになるでしょう。Zoomに加えて、Microsoft TeamsやGoogle Meetが、大幅な機能強化でZoomに追いつこうとしているからです。
筆者の中で、Google MeetはUIや機能の少なさ、品質面、iPadアプリの出来の悪さで「教育環境で使いにくい」という評価を下していましたが、機能開発の計画が明らかになり、会議の管理機能や背景のぼかし機能、クラウドノイズキャンセリングなど、会議の品質向上に大いに期待できる実装が待ち受けています。
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