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「YOXO BOX」イベントレポート 第11回

「いよいよ2020年 スポーツ×地域経済を考える」レポート

大成功したラグビーW杯からスポーツ×地方の可能性を探る

2020年05月01日 09時00分更新

文● 末岡洋子 編集●ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

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左からラントリップの大森 英一郎代表取締役、横浜マリノス 地域事業本部 ふれあい・ホームタウン事業部 ホームタウン課の牧野内 隆課長、Office Hondaの本田 祐嗣氏、ASCII STARTUPのガチ鈴木

 大成功に終わった「ラグビーワールドカップ 2019 日本大会」は、スポーツビジネス、そして「スポーツ×地域経済の発展」という上で大きな追い風となった。ラグビーW杯は地域に何をもたらしたのか――決勝戦が繰り広げられた横浜の地で、横浜F・マリノスの地域振興の担当者、スポーツビジネス起業家を交えてイベントが開かれた。

 イベントの名前は「いよいよ2020年 スポーツ×地域経済を考える ラグビーW杯は横浜に何をもたらしたのか?」。会場は、横浜市関内にあるYOXO BOX――横浜市経済局・関内ベンチャー企業成長支援事業共同企業体が進めるベンチャー支援・育成拠点で3月13日に開かれた。

 第1部では2019年秋、「ラグビーワールドカップ 2019」の組織員委員会でレガシー部部長を務めたOffice Hondaの本田祐嗣氏が、横浜や地域を中心にラグビーワールドカップがもたらした効果について振り返った。

 9回目にして初のアジア地域での開催となった先のラグビーワールドカップ、2019年9月20日から11月2日まで1ヵ月半の間、北は北海道から南は大分、熊本まで12の都市で開催された。なかでも横浜には、準決勝、そして決勝の場となった横浜国際総合競技場(日産スタジアム)がある。本田氏は新横浜駅前で撮った当時の写真を見せながら、「駅前のパブが人で溢れかえっている。日本人じゃない人が日本のジャージを着るという非常な、そして素晴らしい盛り上がりだった」と振り返った。

 では、経済効果はどのぐらいだったのか? インバウンドの増加傾向は数年前から続いているが、多くを占めるアジアからの旅行客と、欧米や豪州からのラグビーワールドカップの観戦客とではお金の使い方が違った。観戦客の予算はアジアの旅行客の倍と言われていたが、観光庁の調査では宿泊に費やしたお金は1人1泊2万9000円、予想していた2万円を1.5倍上回ったという。

 170万枚売れたチケットの34%は海外から。名寄せすると数は変わるが、単純に計算すると57.8万人になる。「海外からの観戦客の消費だけで1000億円ぐらいの直接効果があったのではないか」と本田氏。もちろん、間接効果を含むともっと数字は伸びる。

 横浜にもたらした経済効果については、観戦客が市内で支出する観光消費額や波及効果が98億円という日銀による試算が大会前に報道されたが、本田氏の大会後の試算では「直接消費だけで98億円ぐらいあるかもしれない」と見積もっているそうだ。

 本田氏はそれ以外の都市として、実際に出向いて話を聞いたという神戸と福岡の2都市の話を紹介した。

 神戸は「旅マエ」として、神戸ビーフや灘の酒などに絞って観光地の魅力を発信し、「旅ナカ」として飲食店の集客、体験プログラムなどを用意した。成功したのは、三宮センター街で開催した”ヨルバル”などの飲食系だという。試合が終わった後に三宮から元町にかけてのアーケード、神戸駅の地下街などで海外の旅行客も集まって飲食できるようにした。市事業または市助成事業としてパブリックスペースで行なったが大盛況だったとの報告を受けたという。一方で、体験プログラムは相対的に集客が少なかったとのことだが、設置した場所にも問題があったかもしれないという声が聞かれたという。

 福岡の関係者は「冷静に物事を見ていた」という。同じ九州の大分、熊本でフランス代表が試合をすることから、3県合同でのフランスプロモーションを行なったが、「どこまで効果があったと言えるか難しい」という振り返りだったそうだ。観戦客の行動は福岡の中心地(天神と博多駅前)に集中、「コースをつくって観光地を回ってもらうのは難しかった」という感想が挙がったという。

 本田氏は、ラグビーワールドカップの地方都市開催からのまとめとして、3つのポイントをあげた。

1)何にフォーカスするのかが大切
2)ラグビーワールドカップ担当部署と観光担当との連携
3)大会の価値をもっとしっかり伝えたかった

 特に2)については、「“スポーツは○○課の担当です”では、大会と観光の協業が進まない」という。「スポーツを使ってXXXするのだから、それぞれ違う立場の人が協力してやるという方向に持っていきたい」と本田氏。

 3)は、関係者がラグビーワールドカップを過小評価していたためだ。本田氏によると、「こんな凄いことになるのなら、最初から『こんなことになるんですよ、海外の人が山ほど来ますよ、スポーツ観戦をすっごく楽しみますよ』ということをもっと伝えておきたかった、と思っているようだ」という。

 本田氏は元レガシー担当の立場から、「それぞれの開催都市で、それぞれあまりリンクがなかった地方自治体と各都道府県のラグビー協会の関係づくりができればと思っていた」と述べる。大会は成功を収め、68億円程度の黒字をあげた。収入のうちチケット収入は約6割、残り4割のなかには公金が入っていることもあり「レガシーには公的な発想でアプローチしなければ」と語った。

 第2部は「地域経済×スポーツを考える」をテーマに、本田氏に加えて、横浜マリノス 地域事業本部 ふれあい・ホームタウン事業部 ホームタウン課の牧野内隆課長、ラントリップの大森英一郎代表取締役の3氏によるパネルディスカッションを行なった。

 牧野内氏は横浜F・マリノスのホームタウン(横浜市、横須賀市、大和市)において関心度の向上、スポーツ振興、そして各地域が抱える課題解決に取り組んでいる。大森氏は、箱根駅伝出場経験を持つランナーで、走る楽しさを知ってもらいたいと起業した。ランナー専用のSNSアプリ「Runtrip」のダウンロード数は10万を超えており、イベントも展開しているという。モデレーターは角川アスキー総合研究所 ASCII STARTUPのガチ鈴木が務めた。

――大森さんはランニングイベントをやっているとのことですが、都市部の巨大マラソンだけでなく地域経済と結び付けたものなど、ランイベントは地域との相性がいいですよね。

大森氏(以下、敬称略):Runtripは、地域の道を資源に変えたいと思い、ランナーが地元のお気に入りの道を投稿し、これを簡単に検索できるサービスにしました。また集まった会員さんがコミュニケーションを取れるようにSNSアプリ機能を追加して、結果高い熱量がうまれています。イベントでは、普通のマラソンが“ヨーイドン”でスタートを揃えるのに対し、我々はゴールを揃えます。どのコースを通っても、どのぐらいの距離でも、速さでもいい。ほかのランナーがどこにいるのかわかるので途中で会って飲食してもいいし、歩いてもいい。100キロ以上走ってゴールした人もいます。

 ゴールの後には参加者の間でコミュニケーションが生まれ、自分のRuntripについて話しています。加えて、マラソン大会で必要な道路使用許可や交通規制も不要なので、コストも抑えられます。

 地域との相性という点では、2007年に東京マラソンが開催されて以来、各地域でマラソン大会が開かれるようになり、現在では全国1700以上に及んでいます。いかにランナーに喜んでもらえるかという点で、地域の特色を生かした大会が増えています。最近の傾向として、ランナーのモチベーションの多様化が挙げられます。

――大規模スポーツイベント開催にあたって、地域はどのような関わり方ができるでしょうか?

牧野内氏(以下、敬称略):ラグビーワールドカップのように注目が高くなると、そのスポーツイベントが地域の方々の共通言語になります。普段は接点を持たないような人ともスポーツを介してコミュニケーションが図れます。そこにアプローチできるのは大事なことだと思います。サッカーも同じで、例えば有名な選手の名前を言うだけで話ができますよね。これこそがスポーツのよさであり特性だと感じています。

 横浜国際総合競技場(日産スタジアム)は、サッカーワールドカップの決勝が行なわれたこともあり、聖地のような存在になっているのかもしれません。それをうまく生かしてスタジアムツアーをやっています。

 地域の盛り上がりという点では、スタジアムのある新横浜はラグビー一色でした。街が1つの色に染まるというのは、訪問者には仲間意識を持ってもらえるし、気持ちが上がります。それにより、消費が生まれることもあるので、良かったと思いますね。

――ラグビーワールドカップではファンゾーンがあちこちに設置されました。どのような狙いがあり、どのような効果がありましたか?

本田氏(以下、敬称略):スタジアムに行かずとも試合を観られるパブリックビューイングができるところを作るというのが、ファンゾーン設置の経緯です。いろんな人が集まってラグビー観戦をして楽しめる場所というのがラグビーワールドカップでの定義です。実際その通りになりました。ファンゾーンがなかったら横浜もずいぶん寂しかったかもしれませんね。

――スポーツイベントのチャンスについてはどう見ていますか?

大森:ランニング業界の話をすると、大型のマラソン大会は局所的です。1日限定で終わってしまいます。スポーツイベントの素晴らしいところは熱狂が生まれること。この熱狂をいかにしてイベント当日以外の364日間も維持できるか。ここで、我々のようなベンチャー企業が貢献できるところがあると思っています。

 たとえば、マラソン大会ができるとその地域のランナー人口が増えると言われています。そして、ランニングショップ、ランニングレッスンなどのランニングビジネスをする人が出てきます。そうなると、大会当日に限らない永続的な場でコミュニティが生まれ、ビジネスが生まれ、結果として人口が増える可能性があります。

 いかに当日だけで終わらないようにするか。熱狂を燃え尽きさせずに、ビジネスに変えていくかがチャンスだと思います。

――そこに地域の人を巻き込んでいくにはどうしたらいいでしょうか?

本田:大森さんのイベントで、同じ場所に集まることを決めておくという点がとても面白いと思いました。その後、飲食するなどのことが考えられますよね。

 試合が終わってスタジアムから帰るときに、どこの店に行く? という時間がないようにするといいかもしれない。そういう使い方ができる場所なりプログラムがあったらいいと思いました。

牧野内:スポーツはする・見る・支えると言われているように、色々な側面があります。地域の人をどう巻き込むかという観点では、先ほどの「共通言語」が重要だと思います。そこからコミュニティを作り、試合じゃない日にイベントをやるなど、地域を巻き込んでいけるともっと広がるのではないか。

 Jリーグは社会連携を短縮した“シャレン!”として、「Jリーグをつかおう!」プロジェクトを進めています。コンセプトは、地域の課題解決や価値創造のためにJリーグのリーグやクラブが持っているプロパティを使おうというのがコンセプトです。プロパティはサポーターのつながりや発信力だったり、選手やクラブのブランド力だったり、スタジアムというハコだったり……。これを地域の方が使って共通価値を見出そうというのが狙いです。

 マリノスでは、横須賀活性化の取り組みを進めています。地域の方がアイディアを出し合い、選手を使ったPRビデオを作成しています。クラブ主導ではなく地域の方々が考え、クラブと一緒に共創したところが大きいと思っています。

 

――観戦以外だとどうでしょうか?

大森:観戦は“見る(See)”ですが、ここをどうやって“する(Do)”に結びつけるか。まだまだ隔たりがあるので、何かできればいいなと思っています。

 スポーツビジネスだけでなく、スポーツの周辺産業との結びつきでもビジネスを広げていくことができると思います。周辺として、ヘルスケア、ツーリズムなどがありますが、個人的にはヘルスケアに注目しています。自治体の健康ポイントなど、健康であることでインセンティブをもらえる時代になっていますが、健康は我慢の対価という一面もあり、それをスポーツにより“楽しいから続けられる”→“続けられるから健康になれる”と持っていきたい。このように、スポーツとの結びつきがもっと強化されれば、スポーツ産業時代がもっと大きくなるんじゃないかと思います。

――いまお話に出てきたツーリズムですが、スポーツツーリズムの可能性はどうでしょう? 横浜F・マリノスの場合、相手チームのサポーターが観戦に来ますよね。逆にマリノスのサポーターがアウェイの場所にいくこともありますよね。

牧野内:Jリーグのサポーターは自チームのホームゲームだけでなくアウェイゲームにも応援にいらっしゃる方が多いですが、せっかく他県にいくのだからサッカーだけ観戦して帰るのはもったいないという意識を持っている人は多いと思います。前日に移動してその地域の名物を食べて、次の日試合を楽しんで帰られる方も多くいますよね。

 自分自身、いくつかの地方の試合を見に行ったことがありますが、小さい都市ほどJリーグの試合が中心になっていると感じますね。たとえば長野県松本市の松本山雅FC、周りに何もないところにポツンとスタジアムがあるのですが、試合の日に子供からお年寄りまで幅広い世代の方が集まってくるのは壮観です。あたかもスタジアムが街の中心になっているような。地方都市ならではのスポーツのあり方として、街を象徴するものや街の人が誇れるものにスポーツはなりうると思います。

大森:地方都市に観光資源がたくさんあればツーリズムは伸びやすいが、観光資源が少ない場合はどうやってコンテンツを作っていくかがポイントになると思います。マラソン大会のレビューを見ると、評価が高いのは人です。地域の人に暖かく迎えてもらえた、応援がすごくよかった、といったことが大会の魅力になっていて、来年も参加したいとファンになっていく。いかに地域の人の熱狂を普段から作っておくか、ここが外から人を呼ぶときに重要なポイントになると思います。

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