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STARTUP×知財戦略第30回

第1期「知財アクセラレーションプログラムIPAS 2019」支援先企業決定

がん細胞を倒すナノデバイス開発ベンチャーなど、特許庁が先端企業10社を支援

2019年09月27日 07時00分更新

文● 松下典子 編集●ASCII STARTUP

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 特許庁は、2019年8月28日、東京・八重洲の31Builedge YAESUにて「知財アクセラレーションプログラムIPAS 2019」の第1期支援先企業を紹介するキックオフイベントを開催した。 特許庁では、スタートアップの事業を知財から加速させる知財アクセラレーションプログラム(IPAS)を2018年より実施している。今年度のIPAS2019は、参加企業数を昨年度の10社から15社に拡大。また公募時期を2期に分けて募集しており、第1期は64社の応募企業から10社が決定。ここでは、本イベントで実施された第1期支援先企業によるピッチをレポートする。

機械学習を使った組み込み型デバイス/LeapMind株式会社

LeapMind株式会社 執行役員CRO 兼村厚範氏

 トップバッターは、小型、省エネ設計の「組込み型Deep Learning」の開発を手掛けるLeapMind。

 機械学習は今後、自動運転や船、人工衛星、冷蔵庫やテレビといった家電、工場などあらゆる用途での活用が進むと予想される。実用化には、膨大なデータをいかに低コストかつ高速に処理するかが課題だ。クラウドを使う処理はインターネット接続環境が必要で、遅延が発生しやすい。GPUを使う方法は、デバイス単価が高く、消費電力が大きいといった課題がある。

 そこでLeapMindは、FPGAと専用の半導体ASICを活用して、高速かつ軽負荷で処理する技術を開発。同社の強みは、学習モデルを圧縮するソフトウェア技術だ。量子化により、演算ビット幅を1ビットまで削減し、精度を維持したままモデル圧縮と高速化を両立。さらに、FPGA上に専用回路を構築することで、低消費電力かつ高速処理を実現している。

 ソフトウェアとハードウェアの両方を開発しているが、ソフトウェア側の「Blueoil」は完全オープンソース化しており、市場を拡げつつ、いかに独自技術の権利を守っていくか、といった戦略が求められる。

機械制御に特化した組み込み型AIアルゴリズム/株式会社エイシング

株式会社エイシング 代表取締役/CEO 出澤純一氏

 エイシングは、製造業向けに機械制御に特化した組み込み型AIアルゴリズムを研究・開発している。機械学習はクラウドで学習して、エッジで予測するのが主流となっているが、クラウドでは遅延が発生するため、瞬時の判断が必要とされる機械制御には不向きだ。

 同社の開発するAIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(DBT)」は、エッジ側で学習と予測の両方を高速処理することで、リアルタイムの自律学習と予測を可能とする。ディープラーニングが画像認識や音声認識を得意とするのに対し、DBTは、リアルタイム処理が求められる機械制御や自動車の予測制御の用途向けに開発されているのが特徴だ。

 AIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(DBT)」は、すでに特許を取得済み。昨年度の「大学発ベンチャー表彰2018」では、経済産業大臣賞を受賞。経済産業省の「J-Startup」企業にも選ばれている。

物流業界やライドシェアへ向けた量子コンピューターの基盤技術/株式会社エー・スター・クォンタム

株式会社エー・スター・クォンタム CMO 大浦 清氏

 CEOの船橋 弘路氏とCMOの大浦 清氏の2人は、もともと人工知能の研究者。人工知能の演算処理に量子コンピューターを使うことで、より進化したサービスが実現できるのではないか、と2018年7月に起業。現在は日本郵便と連携し、さまざまな業務における実証実験を実施し、物流業界での社会実装に取り組んでいる。

 現時点では、量子コンピューターはまだ黎明期であり、アカデミアや事業会社と共同で基礎研究を進めている段階だが、今後さらにAIが進歩して、超ビックデータ時代が訪れると、分散処理やアルゴリズムによる改良ではいずれ限界がくる。

 同社が目指す次世代のAIシステムは、既存のスーパーコンピューターなどのシステムの中に、量子コンピューターを組み込み、量子コンピューター側で最適化した計算結果をAIの教師データとして応用することで、より効率的な機械学習を可能にする、というものだ。

 現在、量子コンピューター分野の知財はまだまだ未整備。海外展開へ向けて、どのように特許を取っていくべきか。IPASの中で戦略を立てていきたいそうだ。

薄くて柔らかい有機半導体集積回路を量産化/パイクリスタル株式会社

パイクリスタル株式会社 代表取締役 伊藤陽介氏

 パイクリスタルは、東京大学で開発された有機半導体単結晶技術を応用し、柔らかく、薄く、軽く、安価な有機半導体集積回路の商品化を目指している。有機半導体は、薄いフィルム状で曲げることができるので、曲面や狭いスペースにも設置が可能。真空プロセスが不要なため、製造コストが低く、少量多品種生産できるのがメリット。

 市場としては、体に装着して生体情報を検出するヘルスケア機器や、物流・小売り管理用の電子タグなどへの導入が見込まれる。

 現在は、自社での量産検証の段階。2020年上旬に資金調達を予定しており、量産確立後は、ライセンス供与や他企業との協業で拡大していく計画だ。

大容量・急速充電・安全性・長寿命・低コストの革新的な電池を開発/スペースリンク株式会社

スペースリンク株式会社 代表取締役 CEO 阿部晃城氏

 現在主流のリチウムイオン電池は、充電時間が長い、発火の危険性、性能の劣化といった課題を抱えている。スペースリンクは、こうした既存の電池の課題を解決する次世代蓄電デバイス「グリーンキャパシタ」を開発。

 カーボンナノチューブやグラフェンを活用したもので、リチウムイオン電池に比べて最大で100倍の速さでの高速充電が可能、電極に不燃材料を使用しているため爆発の可能性がない高い安全性、1万回の充電での劣化は3%と低い長寿命性といった特徴をもつ。2021年から量産販売へ向けて準備を進めているところだ。

薬を使わずナノデバイスでがん細胞を倒す兵糧攻め療法/メディギア・インターナショナル株式会社

メディギア・インターナショナル株式会社 代表取締役 田中武雄氏

 メディギア・インターナショナルは、生命理工学分野では初の東工大発ベンチャー。現在、標準治療が使えないがん患者は世界で数万人にのぼる。また、医薬費が高額であることから十分な治療が受けられない患者も少なくない。こうした背景から、体力や経済力が不十分な患者を救済するため、ドラッグフリーで腫瘍を封止する「腫瘍標的型低侵襲療法」を開発。

 ナノデバイスを腫瘍組織に投与することでバリアを形成し、がん細胞への酸素と栄養を遮断して、腫瘍組織の壊死を誘導する仕組み。がん種を問わず、あらゆるがんに効果があるという。

 材料には、紙おむつの原料にも使われている安価な高吸収性ポリマー(SAP)を使用し、低コストでの製造が可能だ。マウス実験では即効性が確認されており、2020年秋からの治験を予定している。経済産業省の国際ナノテクノロジー総合展・技術会議2019年にてプロダクト賞を受賞。

脳に薬を届ける薬剤送達技術を開発/株式会社ブレイゾン・セラピューティクス

株式会社ブレイゾン・セラピューティクス 代表取締役社長 戸須 眞理子氏

 ブレイゾン・セラピューティクスは、ナノテクノロジーを応用し、脳へ薬を届ける新薬を開発している東大関連ベンチャー。通常、医薬品は血液から臓器へ届けられるが、脳は血管の構造がほかの臓器とは異なり、通常の薬剤はほとんど届かない。最近は、認知症などに効果のある薬が出ているが、有効成分の0.1%ほどしか脳には届かないため、副作用が大きい。

 そこで、より効率的に脳へ有効な物質を届けるために、ナノテクノロジーによる薬剤送達技術を開発(特許を取得済み)。脳のエネルギー源がグルコースであることを利用し、グルコースで薬剤を包み込むことで脳内へ効率的に届ける仕組みだ。脳への送達率は、既存の方法に比べて60~100倍を達成。さらに空腹時に投与することで、血糖コントロールで脳だけに届けることも可能だ。

 この技術を用いて、あらゆる脳疾患の治療方法の開発を進めていくため、ライセンス提供や共同開発のパートナーを募集している。

便を調べて個人の腸内環境に合わせた食習慣をアドバイス/株式会社メタジェン

株式会社メタジェン 執行役員 COO 村上 慎之介

 メタジェンは、慶応大学の先端生命科学研究所と東工大のジョイントベンチャーとして設立。便に含まれる腸内細菌を調べることで、個人の腸内環境に合わせたアプローチで健康維持・疾患予防を目指す層別化ヘルスケアサービスを研究・開発している。

 腸の中には、1Kg~1.5Kgの腸内細菌が含まれており、栄養とともに血液に取り込まれて、全身へ回っていくため、さまざまな臓器の疾患にも影響している。腸内環境を適切にコントロールすれば、多くの疾患予防や健康維持が実現できるかもしれないが、腸内細菌のバランスは人によって異なり、何を食べると効果が得られるかは人それぞれ違う。

 そこで、各個人の腸内環境を評価し、層別化するサービス「MGNavi」を開発。ユーザーから届いた便を分析し、健康状態の評価と、各パターンに有効な食品やサプリメントを提案する。また、従来は、腸内細菌の解析には便の冷凍が必須だったが、常温のまま送れる腸内環境評価用の採便キットも独自に開発するなど、個人が手軽に腸内環境を調べて健康を維持できるサービスを提供していくとのこと。

ゲノム編集育種法でブランド豚開発を目指す/株式会社セツロテック

株式会社セツロテック 代表取締役社長 竹澤 慎一郎氏

 2017年2月に設立された徳島大学発ベンチャー。同社は、受精卵エレクトロポレーション法を活用した遺伝子改変(ゲノム編集)マウスを簡便かつ高効率に作製する特許技術をもつ。マウスに限らず、受精卵をもつあらゆる生物の遺伝子改変が可能だ。

 現在は、製薬会社や研究機関向けの実験ツールとして、ゲノム編集マウスやゲノム編集受精卵の作製を受託しているが、今後の展開として、同社が注目しているのが畜産業界における品種改良、いわゆるブランド豚の開発だ。

 従来の育種法では開発に10年がかかっているが、ゲノム編集育種法では最短3年で市場投入が可能になる。将来的には、機能性食品や新素材の開発など、あらゆる産業への遺伝子改変動物の提供を目指している。

 イベントでは欠席だったが、もう1社には、半導体フォトカソード技術を利用した電子ビーム生成装置の開発を手掛ける名古屋大学発のベンチャー、株式会社Photo electron Soulが決定している。プログラムでは、ビジネスの専門家と知財専門家を各企業に3ヵ月間派遣してメンタリングを実施し、それぞれのビジネスに合った知財戦略を構築していく予定だ。

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