イヤホン選びに重要な音色だが、その印象は共有しにくい
音の三要素は、大きさ、高さ(ピッチ)、そして音色だ。最初の2つは、音の強さを表すdBや周波数を表すHzといった単位で客観的に示せるのに対して、音色は波形・スペクトル・音圧など様々な要素が影響し、かつ感じ方に個人差があるため複雑だ。しかし、製品選びでは、多くの人が「音色が好みに合うか」を重視する。
音の印象を共有するためには言葉を使った表現にせざるを得ないが、その言葉から実際の音がどんなものなのかをイメージするのも困難だ。実際の音をイメージできる、伝わりやすい表現が求められている。
そこで提案されたのが、ワインのテイスティングのように、音色を表現する際の用語(言葉や表現)を統一し、音色の印象を伝えやすくすることだ。アカデミズムの分野では、この共通化のための試みがすでに行われている。
音色を決める因子を定め、その程度で「音を聞いた印象を共有する手法」が確立すれば、音色の定量化が可能になる。結果、レビューの信頼度が上がったり、知識や感覚の養成を通じて、音の特徴を認識し覚えることができるとする。
オーディオ機器の製品開発に置いては、音質マイスターなど個人の感性に頼った音決めが主流だが、これをイヤホンやヘッドホンに応用すれば、最適なイヤホン・ヘッドホンを選びやすい環境が作れたり、多くの人とイメージを共有した調整ができるのではないだろうか。
S'NEXT代表取締役社長の細尾 満氏は以下のようにコメントしている。
「イヤホン・ヘッドホンの市場は拡大している一方で、新しい人の流入が止まっているのではないかという感覚もある。ワインやコーヒー、特にワインは官能評価の条件が詳しく決められていて、入門書も多く、ラベルにもテイストが明記されているなど、初心者でも入りやすくなっている。
私たち自身も官能評価を分析的にする手法を考えていて、その研究成果を反映し、VRなどが良く聞こえるように開発しているのが『E500』(開発中)という機種だ。誰か一人の感性だけでなく作られた製品なので、これがどう評価されるか知れるのは嬉しい」
オーディオの世界が複雑なのは、数値で説明できる部分と感覚でしか表現できない部分がクロスオーバーして曖昧になっている点だ。そこが、ちょっと得体のしれない印象を与える理由になっている。
しかし、その背景となるしっかりとした知識があれば、その複雑さの中にもしっかりとした判断ができる軸が作れるだろう。
学問として音響を学ぶには、時間も努力も必要だが、「イヤホン・ヘッドホンを楽しむための音響講座」のような親切な専門家のナビゲートで、その世界に触れるきっかけが得られるのは貴重だ。説明も分かりやすく、実践的なので、すべてを理解できなくても、オーディオに対する見方が変わってくる。イベントに参加した人の多くが、オーディオの世界に対して、より深い関心を得たはずだ。