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IoTビジネス成功の鍵「データ」にまつわる問題を考えた鼎談

“レシート画像買取”のワンフィナンシャル、“高速IoTデータパイプライン”のアプトポッドが登壇

連載
IoT&H/W BIZ DAY 6 by ASCII STARTUP

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 2018年9月14日に開催された「IoT&H/W BIZ DAY 6 by ASCII STARTUP」では、アプトポッド、ワンフィナンシャル、デンソーが登壇する「IoT&データ活用によるモビリティの未来」と題されたトークセッションが行われた。

IoT&H/W BIZ DAY 6で催されたトークセッション「IoT&データ活用によるモビリティの未来」

 IoTのビジネス活用で大きな鍵を握るのが、IoTを通じて得られる「データ」だ。さまざまなモノ/場所がIoT化され、インターネットを通じてつながることで、これまでは実現できなかった種類/精度のデータが取得できるようになり、リアルタイムかつ高精度な状況分析やアクション(フィードバック)、さらにはまったく新しいビジネスが実現する。

 ただし、これまで実現してこなかったからこそ、新しいデータとその活用方法に対するイメージや具体的ビジネスアイデアをつかむのは難しいとも言える。そこで本セッションでは、それぞれ異なる市場/立ち位置でデータ活用ビジネスに取り組む3人の登壇者が、縦横にその未来像を語った。

(左から)ワンファイナンシャル CTOの丹 俊貴氏、アプトポッド 代表取締役の坂元淳一氏、モデレーターを務めたデンソー 技術企画部 MaaS戦略室事業開発課の坪井聡一郎氏

モバイルIoTデータ通信の低遅延化を実現、適用業務拡大を支援するアプトポッド

 アプトポッドは、B2B領域のIoT活用を支えるミドルウェアやサービスを提供するベンチャー企業だ。旗艦製品として、コネクテッドカーから得られるセンサー信号や双方向にやり取りされる制御信号のような大量のストリームデータを、モバイル回線とインターネットを用いて低遅延で伝送する“高速データパイプライン”プラットフォーム「intdash」を提供している。

アプトポッド製品が提供する機能。自動車や産業ロボットなどのセンサー/制御データ収集のほか、災害ドローンからの映像データ収集や遠隔操作などのトラフィックも効率化/低遅延化できる

 intdashのメリットは、大量の高精度センサーデータをリモートでもほぼリアルタイムに取得できるようになる点だと、同社 代表取締役の坂元淳一氏は説明する。

 「たとえばここに6軸センサーデータのグラフがあります。1000分の1秒単位でサンプリング(データ取得)したグラフはきれいに波形が見えますが、これが10分の1秒単位になってしまうと波形が崩れてしまい、どのような動きをしたのかがほとんどわからなくなります。そこでわれわれは、この1000分の1秒クラスのデータストリームを、IP網経由でいかにきれいに運べるかに命を賭けています」(坂元氏)

センサーデータを1秒間に1000回サンプリングしたグラフ(左)と10回サンプリングしたグラフ。10回のサンプリングではどのような動きをしたのかが読み取れない

 intdashのデータストリームは、IoTデバイスからモバイル回線/インターネットを介してクラウド(intdashサービス)に到達し、そこから折り返す形でユーザーの手元に届く(同社ではデータ可視化や分析の製品も提供している)。通信オーバーヘッドの少ない独自プロトコルを開発するなどの取り組みで、日本国内ならば3G/4Gモバイル回線経由でもすでに「平均70ミリ秒未満」の低遅延伝送を可能にしており、将来的な5Gモバイル通信環境ならばさらなる低遅延化が期待できる。

 高精度データの取得を可能にするintdashは、自動車メーカーなどの研究開発で大量のセンサーデータを取得する目的で使えるほか、産業ロボットや建設機械などの遠隔診断、さらに双方向通信も低遅延で行える特性を生かした遠隔制御といった用途にも活用できる。坂元氏は、現在は自動車分野での採用がいちばん多いが、さまざまな業種業態での活用が可能だと述べた。

アプトポッド 代表取締役の坂元淳一氏

 「たとえば医療分野。筋電(筋肉の動き)や脳波といったデータは高精細なものなので、(そのデータをインターネット経由で送信すれば)遠隔診療にも使えるのではないかと考えています」「スポーツ分野でも、スマートフォンをお腹に装着してもらって、たとえば回転軸のぶれなどをセンサーデータとして取得する取り組みを行っています。ビデオで撮影した身体の動きよりも、センサーデータとして見たほうが身体のクセが明らかに出る、発見があると選手にも評価いただいています」(坂元氏)

「生活者のデータをどうやって取得するか」に新たな解を示したワンフィナンシャル

 アプトポッドとはまったく別のB2C領域で、データのビジネス化、マネタイズに取り組むスタートアップがワンフィナンシャルである。

 同社は今年6月に「画像を撮ってお金にかえよう」をコンセプトとした個人向けモバイルアプリ「ONE」をリリースし、“どんなレシート画像でも1枚10円で買い取る”という斬新なサービスが大きな話題を呼んだ(買取希望が殺到し一時休止していたが、9月にサービスを再開)。ONEは3カ月間でおよそ50万ダウンロードを達成したという。

ワンフィナンシャル「ONE」アプリでレシート画像を「お金にかえる」流れ

 ONEのビジネスモデルについて、モデレーターを務めるデンソーの坪井聡一郎氏は「個人がこれまで捨てていたレシートを換金することで、消費者の購買データを取得している点がユニーク。言葉は悪いが“ゴミ”を“宝”に変えた」と評価する。従来、企業が消費者の購買データを入手しようとしても、大手事業者が提供するPOSデータを購入するくらいしか手立てがなく、データの内容も深いビジネス分析を行うには十分ではなかった。「グーグルやアマゾンがやりたかった『生活者がどんな生活をしているのかをデータで取得する』こと、それをまったく違うアプローチで実現している」(坪井氏)。

 ワンフィナンシャル CTOの丹氏は、単に幅広いレシート=購買データの取得だけでなく、クライアント企業との協業で特定分野に絞った画像買取キャンペーンも展開していることを説明する。たとえば自動車買取査定サービス「DMM AUTO」とのキャンペーンでは、ガソリンスタンドのレシートを1枚最大100円で買い取った。クライアントニーズに応じて、レシートに限らず保険証券や動物病院の診療明細書、使っているシャンプーの画像などを買い取った事例もある。アプリはアンケート機能も備えており、個人の属性や意見などと購買データを紐付けて取得することもできる。

ワンファイナンシャル CTOの丹 俊貴氏

 「たとえば(InsurTechベンチャーの)hokanさんとのキャンペーンでは、ユーザーが持つ保険証券の画像を最大400円で買い取りました。これまで入手できなかったようなセンシティブなデータもONEならば取得できると、クライアントからの評価は高いですね」(丹氏)

 ちなみにこの保険証券画像の買取キャンペーンでは、開始後わずか30分間で予定買取枚数に達する1250枚が集まったという。レシート画像の買取からスタートしたONEだが、現在はクライアントにとって価値のある画像、すなわちビジネス分析に耐えうる消費者データを効率よく収集するプラットフォームへと進化しつつあるようだ。まだスタートして間もないサービスであり、今後もさまざまなかたちでビジネスの可能性を模索していくという。

ONEを利用したキャンペーン例。鈴廣蒲鉾本店やキリンは、ブランドの認知拡大や販売促進にONEを活用している

 「最近では『東大生の学生証』画像を買い取るキャンペーンも行いました。そのユーザーがどういう人なのか、画像から(AI技術などで自動的に)タグ付けできるようになれば、たとえば画像を与信データとして扱うとか、高度なレコメンデーションにつなげたりできるのではないかと考えています」(丹氏)

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