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大企業のサービス革新をスタートアップが加速:モビンギ

最適なクラウドサービス環境提供で目的が一致

連載
富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか

現在、富士通はスタートアップ×社内事業部による新しい事業創成を目指してマッチングを行なう「富士通アクセラレータプログラム」の第4期参加ベンチャーを募集している。同プログラムでは事務局が参加ベンチャーをサポートして、富士通内の多くの事業部と協業検討を前提とした事業立案を行なっている。新規事業の創出をともに進めるスタートアップ側の真意を聞いてみた。

AWSを手軽に運用し、ランニングコストを下げるソリューション

 今回、話をうかがったのは、「第3期富士通アクセラレータプログラム」に参加したmobingi(モビンギ)だ。同社が現在提供しているのは、企業がウェブサービスを提供したいといったときに、Amazon Web Service(以下AWS)を簡単に使えるようにするSaaSプラットフォーム、およびダッシュボードサービス「mobingi ALM」だ。

 「自社内でAWSを使ってサーバーを運用することに負荷かかかるというという場合に、弊社のツールを導入していただくことで、負担の軽減ができるサービスです。たとえば、すでに立ち上げたサーバーを増強するとき、通常はエンジニアがマニュアルでデータをコピーする必要があります。しかし、われわれのサービスを使えば、ほんの数分、ダッシュボード画面でマウス操作をするだけで、アクセスに応じたサーバー台数の調整設定などができます」(モビンギFounder, CEOのWayland Zhang氏)

モビンギFounder, CEOのWayland Zhang氏

 モビンギが提供しているのは、AWSをより手軽に運用し、さらにランニングコストを下げることができるソリューションだ。コンテナベースでのクラウドアプリのライフサイクル自動化とサーバーコストの削減が図れるのが特徴で、エンジニアをサーバーに張り付かせずとも、アクセスの上限に応じて規模を自動調整する設定ができてしまう。

 たとえばサーバーを新規で立ち上げる場合、アクセスが高まったときにサーバーが落ちてしまうリスクを回避するため、負荷に備えて規模を高めておくケースがある。しかし、これではサーバーコストがバカにならない。そこで、モビンギが提供する「スポットオプティマイザー」というサービスが有効になる。

 AWSでは、空いたサーバーを入札によりスポットで使う機能がある。「スポットオプティマイザー」では、この入札を自動的に行なう機能。利用しているスポットインスタンスが停止する2分前に自動的に再入札を行なうことで、適正な価格でサーバーを維持できるというわけだ。「この機能によって、サーバー代だけで月間4~500万円かかっていた企業のお客様も、一気にコストを削減していただいています」

事務局からの誘いで参加を決意

mobingi(モビンギ)

 そんなモビンギが「第3回富士通アクセラレータプログラム」に参加したのには理由がある。

 現在、AWSを中心にサービスを提供している同社だが、今後はMicrosoft Azureや、Google Cloudなどにも対応し、プラットフォームも含めて自由にサーバーを選べるようにしたいという構想があった。通常、サーバーを変えるとなると、1から使い方を勉強する必要がある。しかし、mobingiALMを通して使えば、使い方はすべて同じになる。

 とはいえ、スタートアップのため開発リソースは限られており、なかなかほかのサービスへの対応ができない状態が続いていたという。そこに富士通サイドから声がかかった。

 「エントリーする半年ほど前に、事務局の徳永さんが開催されたセミナーに参加していたのです。それを覚えていただいたようで、『プログラムにジョインしませんか?』と誘ってもらいました。また、弊社に出資しているVC担当者に元富士通の方がいまして、そのご縁もあり決めました」

 モビンギは、富士通が持つクラウドサービス「K5」へ対応予定であり、そこには2つの形がある。1つが、mobingiALMに、「K5」を選択肢として実装すると言うこと。そしてもうひとつが、OEM提供の形で富士通が社内で使うインターフェースとして使ってもらうということだ。

 プログラムにエントリーし、モビンギの持つサービスを説明したあとは、富士通のSI事業部と話を進めていった。そのなかで事業部側からの提案も受けたという。

 「例えばOEM提供をするとか、マルチクラウドの中に富士通のK5を組み込むとか、そういう提案は、事業部からしていただきました。また、一緒にどういうプレゼンをするか、どういうデモをすると効果的かみたいなお話もしていただきました」

 モビンギの持つサービスをどのように提案すると「富士通社内で通る」プレゼンになるのか、事業部としっかりと詰めていった。実際のデモデイではOEMを想定した画面を用意し、実際に操作するようなムービーを作ってプレゼンした。このときのアイデアとなったOEM向けシステムを、リリースに向けて開発しているという。

担当者変更の危機も乗り越えた

 しかし、もともとモビンギはAWS向けのサービスを提供しており、その後、Microsoft Azureなどにも向けて開発を予定していた。今回なぜ、富士通のK5にかじを切ったのだろうか。また、アクセラレータプログラムの形をとらなくても、開発自体はできたのではという疑問が浮かぶ。しかし、モビンギとしては同プログラムへの参加がポイントだったという。

 「きっかけは声をかけていただいたからですが、参加して非常によかったと思っています。1つは上位の決定権を持つ方と知り合いになれたこと。その方がプッシュしてくださったのが大きかったと思います。またプログラムのおかげで、事務局をはじめとした富士通の皆様のモチベーションが高くて、アグレッシブに『やろうやろう』と言っていただきました。富士通社内向けにOEM提供するという部分は、事務局の皆様の推しがあったと思います」

 一般的には大企業とベンチャーはスピード感が異なるが、モビンギとの協業において、それは大きな問題ではなかった。というのも、開発の主体がモビンギだったため、実際の開発の部分で待たされることはほとんどなかった。一方で、難しいと感じたのは仕組みの方だ。

 「協業検討をし始めて半年ぐらいの頃に、事業部の担当者の方が変わったことがありました。新規の方だったため、モビンギのサービスを説明するところからもう一度、という再度こともありました。もちろん、事務局の方々がフォローしてくださったり、間に入ってくださったりいただきました」

 そんなトラブルが発生しながらもモビンギが富士通との協業検討を続けた理由は、事務局の手厚いフォロー、そして富士通の信頼性、クラウド「K5」だ。

 たとえば、事務局のスタッフは事業部に対して、スタートアップと大企業の違いなどをしっかりと説明している。大企業なら半年動かしたプロジェクトが途中で中止になっても、ある意味で仕方がないと考えるかもしれないが、スタートアップではそれだけで倒産の可能性がある。

 そしてなにより、ベンチャーにとって「富士通とコラボレーションしている」ということは大きなバリューになるという。

 「今、いろんな企業様から、『富士通さんと一緒にやってるでしょう』というお話をいただきます。また現在『K5』を導入している、富士通さんがフォローしているお客様は、私たちの既存のお客様とは異なる層です。そういった方々にモビンギを知ってもらえるのは非常に大きいこと。また逆に、AWSを使っている私たちのお客様にも、用途によっては、富士通さんのクラウドをおすすめできるようになります。私たちとしては、特定のサーバーを使ってほしいというのはなく、最適なサービスをおすすめできるようになるのが目的ですから」

 現在、モビンギがOEM提供する富士通社内向けのシステムは、セキュリティー周りの検証に時間がかかっているところだ。だがその壁も、ほかのベンチャーが持つ技術と組み合わせで、解決する見通しが立ったという。今後は、モビンギが「K5」のよいところを訴求し、富士通がモビンギのツールを広めるという協業の形ができあがる。そのリリースは目前まで来ているそうだ。

「モビンギ×富士通アクセラレータプログラム」のケースまとめ
・スタートアップが持つとがった技術を、大手企業がもともと持っている顧客関係先だけでなく自社内でも取り込み広げられる狙いの合致。
・担当変更のリスクは大企業にはつきものだが、粘り強い事務局の推薦でスタートアップ側にも支援があった。

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