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病院連携の進化への期待 10年後の紹介状のあり方とは?

連載
ASCII×クリプラ 電子カルテきほんのき

クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。

第8回テーマ:電子カルテ x 病診連携

 人口減少、医療従事者不足のなか叫ばれる「医療連携」は、「地域連携」とも言い換えられる。地域の診療所、病院、家族、コミュニティーが情報を共有することで、医療の効率化アップや質の向上、患者の安心感の増加などのメリットがもたらされる。

 電子カルテは、そういった地域医療ネットワークを構築し、推し進めることができるとされている。特にクラウド型の場合、カルテの情報をネットワーク上で医療者同士が共有できるほか、紹介状に文章だけでなく画像や動画を添付するといったことが可能になる。

 電子カルテと医療連携のさらなる可能性については、クラウド電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。


診療記録そのものを電子的に交換する時代がやってくる

クリニカル・プラットフォーム代表取締役 鐘江康一郎氏

 政府はかねてから、風邪などの軽症な患者は近くの診療所で診察し、より高度な検査や治療が必要な患者は大学病院などの専門的な医療機関で診察をするという「病診連携」の方針を打ち出しています。

 平成28年の診療報酬改定においては、この流れを加速させる点数変更がありました。特定機能病院や一般病床500床以上の地域医療支援病院では、診療情報提供書(以下、紹介状)を持たない患者に対して、初診時には最低5000円、再診時には最低2500円の患者負担が義務付けられたのです。

 また、地域医療連携に関する診療報酬点数も整備されつつあり、普段はかかりつけ医(診療所)、入院が必要になれば大病院に紹介、状態が安定した後は再びかかりつけ医に戻ってくる流れが構築されようとしています。

 現在、診療所から病院に患者を紹介する場合、診療所では紹介状を作成するという作業が発生します。

 通常、紹介状には「傷病名」「紹介目的」「既往歴・家族歴」「病状経過」「検査結果」「治療経過」「処方薬」などが記載されます。カルテの内容を元に医師が作成し、紙に印刷したものを紹介先の医療機関に患者が持参します。紹介状に記載できる情報量には限界があるため、作成する医師が重要と考える情報だけを記載することになります。つまり、紹介状を受け取る側は、その患者さんについて一部の情報しか知ることができないのです。

 今後も病診連携や地域医療連携の流れはますます加速するでしょう。また、連携をサポートするICTの仕組みも整備されていきます。それに伴って、紹介状のあり方も大きく変わることが予想されます。

 電子カルテがクラウド化され、HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure、保健医療福祉分野の公開鍵基盤)などの医師を認証する仕組みが整備されれば、紹介元の電子カルテの内容を、紹介先の医師がそのまま参照できるようになります。

 上記で挙げた紹介状に記載する項目は、基本的にはすべてカルテに記録されています。紹介先の医師に、その内容をすべて開示することによって、より詳細な患者情報を提供できるようになります。紹介状を作成するという作業もなくなるため、医師の業務軽減にもつながります。

 今から10年後には、物理的な「紹介状」の役割は縮小し、診療記録そのものを電子的に交換する時代がやってくると考えています。


記事監修

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長

著者近影 裵 英洙

1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。

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