長かった。2003年の技術発表から13年の月日が流れ、ついに日立のロボット掃除機が日の目を見るときがきた。17日、日立アプライアンスが幅25cm、高さ9.2cmの小型ロボット掃除機「minimaru RV-DX1(ミニマル)」を発表した。部屋の隅、テーブルの脚、ソファの下などに入りこんで掃除できる。想定価格10万円前後、11月19日発売。小さなボディにすさまじいこだわりをつめこんだ。
テーブルの椅子を自動認識してきれいに
まず小型でも強い集じん力を保てるようにと、モーターとブラシは独自開発。
ファンモーターは高さ9.2cmを実現するため直径66mm以下を目標に設計。高効率化のため流体解析にもとづき気流の損失をおさえたファンの形状を設計、同じく電磁界分析にもとづき磁気損失をおさえるマグネットを開発した。
ボディが小さいにも関わらずファンモーターそのものは他社製ロボット掃除機よりも大きいらしく、モーターの性能と吸引力には自信を見せていた。
ブラシはフローリングなどのごみをかき出す「回転ブラシ」、衣類ブラシの原理でカーペットのごみをかきとる「かきとりブラシ」を組み合わせた「ダブルかきとりブラシ」。左右1本ずつのサイドブラシでごみを集め、吸込口にごみを送り、回転ブラシでごみをかきあげ、かきとりブラシでカーペット上の綿ぼこりを集める。
吸込口が小さく1回に掃除できる範囲が小さい点を補うため、すばやく動く。基本はランダム走行だが、独自開発の走行技術「minimaru AI」が前面・側面の距離センサーで清掃環境を把握。毎秒250回のセンシングで100種類以上の行動パターンから自動選択して、きびきび動く。とくに壁際走行や回転動作が高速だ。
部屋の隅にきたら小刻みに体を左右にゆすってサイドブラシでごみをかき出す、椅子やテーブルの脚をセンサーで検知したら大きく旋回して“別の脚”を見つけてふたたび旋回するなど、プログラムによる自動動作もする。たたみ・カーペット・フローリングを判別して吸引力の自動切り替えもできる。
メインのセンサーとしては、前面・側面に計7個の非接触センサーと2個の接触センサーを搭載。たとえば側面センサーで家具などの角を認識し、家具から離れないように回転して隙間や奥に入りこんだりできる。そのほかのセンサーとしては落下防止センサー、充電台からの信号を受けるためのセンサー、床面検知センサー、自分がどこを走っているか認識するためのジャイロセンサーも搭載する。
お手入れ面ではダストケースが片手で持ちあげられてごみ捨てしやすい構造だ。充電時ダストケース内のゴミを圧縮して同社いわく約2週間分ゴミをためられる「ごみプレス」、回転ブラシをかきとりブラシになすりつけるように逆回転させてごみを取る「ブラシ自動おそうじ」などお手入れ系の機能も搭載する。
本体サイズは幅250×奥行き250×高さ92mm、重量は2.3kg。集じん容量は0.25リットル。電源はリチウムイオンバッテリー。稼働時間は最長約60分、充電時間は約3時間。掃除モードは「自動/念入り/スポット」3種類で、タイマー予約可、リモコン付属。本体色はシャンパンゴールドとブラックの2色。
まとめると「小さく、きびきび動き、しっかり集じんできるロボット掃除機」。一見すると“小さい高級ロボット掃除機”という印象だが、性能と技術、とくにメカへのこだわり、開発にかける熱量がすさまじい。
なお技術発表から製品化まで13年もかかったのは日立が社内で設定していた集じん力になかなか達さなかったためらしい。掃除機といえば日立というブランドイメージを抱えている以上は変なものを出せないというプレッシャーから気づけば大手メーカー最後発になっていたという日立らしい事情があったようだ。
狭いところに部品をつめこむ高密度設計に異様なほどの力を注ぐ
とりわけ開発に力を入れたのが高密度設計だ。
モーターやブラシなど大事な部品を小型ボディにつめこむために走行車輪などを独自に設計した。具体的には走行車輪の減速機構とサスペンションをコンパクト化することで全体がぴっちりおさまるように工夫している。
減速機構には一般的な「平歯ギア」ではなく産業機械などに使われる「サイクロイドギア方式」のギアを新開発、サスペンションには自動車などに使われる「ストラット式サスペンション」を採用して省スペース化を実現した。担当者によればいずれの部品もロボット掃除機としての採用はおそらく初。
ダストケースは流路が短いほうがいいだろうと吸込口の真上に、ダストケースのすぐ後ろにはファンモーターをそれぞれ設置した。そうして丸いファンモーターの下部分に死角が生じたら隙間にサスペンションの軸部分を入れるなど、担当者いわく「テトリスのように」角度を考えながら部品を配置していった。
開発時サイドブラシを1本にしたいと考えたこともあったが、部屋のすみを掃除するときの効率を考えると2本を搭載せざるをえず配置に悩まされたという。ぎちぎちにつめこんだ上にメイン基板と操作部の基板を2層構造にして入れろという話になったときは基盤設計担当も「エエエーッ」と悲鳴をあげていたらしい。
悩みもがきながら内部設計を工夫したことで、小型ボディでも日立ブランドを冠する掃除機の性能をクリアできたという。
ちなみに2003年から開発をつづけてきた過程では横幅がコンパクトな競合製品が出たときがあった。それを見たとき当初の設計目標からさらに高さをおさえたサイズにできないかとこだわって今回の小型化に成功したという。とくにどことは言っていなかったがダイソンのロボット掃除機「Dyson 360 Eye」だろう。
***
あらためてminimaruは小型ながら高性能志向をびしびし感じるメカメカしいロボット掃除機だった。
掃除する範囲を指定するバーチャルウォール機能はなく、スマートフォンにつながってアプリで運転予約ができるWi-Fi機能はなく、カメラやレーザーレンジファインダーによって部屋の形をとらえてマップを作る機能はなく、要するに当節流行のIoT的な便利機能はまったく持っていないが、そのぶんメカ部分の設計開発に全力をつっこんでドリャアーーー!!!!!!と作られたのがminimaruだ。
小さなボディに部品をつめこむ高密度設計についての話はモバイルノートの開発者インタビューを思い出すものがあった。開発者の熱く無邪気な口調には思わず心がきゅんとして13年ごしで発表された製品への本気を強く感じさせられた。予想価格10万円は高いな〜〜〜と感じるが、ルンバの最上位機種980は直販価格12万5000円なのでまあありえない価格でもない。
いずれにせよ大手メーカーとしては最後発ということであまたの競合と戦わせてみたい一台だ。最後にどうでもいい話だが小柄できびきび中身がすごくて日本的という意味をこめて“ニンジャ掃除機ミニ丸”という呼称を思いついたので日立にはインバウンド向けプロモーションなどで使っていただきたい。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。来年パパに進化する予定です。Facebookでおたより募集中。
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