ダイレクトドライブ方式を最新の技術と加工精度で再定義
テクニクス「SL-1200GAE」
本特集の締めとして、パナソニックのオーディオブランド「テクニクス」から登場したハイエンド級モデル「SL-1200GAE」(定価33万円)を紹介したい。
最初に言っておくと、この製品は予約した人以外はもう買えない。もともと世界1200台、日本で300台の限定モデルだったが、4月12日に予約を開始後、30分で国内分はすべて売約済みになってしまった。増産の予定もないとのこと。
つまり、この記事を読んで欲しいと思っても手に入れることはできないのだが、今後アナログレコードのターニングポイントになるかもしれない製品だと思うので、あえて語らせていただく。
SL-1200GAEは、ダイレクトドライブ方式を世に普及させたロングセラーモデルの「SL-1200」の名を継ぐモデルだ。概要から言えば、ダイレクトドライブ方式のモーターも、モーター制御も、シャーシからトーンアームまですべて新規に開発。共通するパーツは、ターンテーブルに乗せるゴムシートとダストカバーだけという復刻モデルどころか完全な新モデルとなる。
ただし、外見が驚くほどに歴代のSL-1200シリーズ(特にSL-1200MK2)と酷似しており、それで価格は3倍近くになっているので、歴代のSL-1200シリーズの愛用者からはちょっと恨み節に近い声も上がった。だが、現物のまとうオーラはタダモノではなかった。
今回は実機を借りることができず、試聴会などを行なっている東京・有明にあるパナソニックセンター東京で試聴した。そこには、テクニクスのハイエンドシリーズである「R1」シリーズがセットされ、まさに高級オーディオに囲まれた状態なのだが、SL-1200GAEはそれらにも負けない存在感を醸し出していた。
SL-1200GAEは、ボディー構造がゴムベース、BMC、アルミダイキャスト、そして天板は7mm厚のアルミ削りだしの4層構造を採用。これは剛性と振動対策を追求したもの。
トーンアームも形状はS字形で軸受け部も伝統的なジンバルサスペンションだが、トーンアームのパイプはマグネシウムを採用。軸受け部のベアリングも加工精度の高い物を使用するなど、「羽根のように軽い」トーンアームを追求したという。
ターンテーブルはアルミダイキャストに振動を吸収するゴムベース、真ちゅう製のウェイトが一体となった構造で、ターンテーブルだけで従来よりも大幅に重い。本体全体では軽く2倍を超える重量になっている。
アナログレコード再生の大敵である振動対策は驚くほど徹底しており、インシュレーターには振動吸収素材のαGELを採用。ターンテーブルを回転させたときの重量バランスの偏りを、専用の調整機を使ってバランスを取っているという。
そして、ダイレクトドライブ方式の中心とも言えるのがモーターだ。もちろん新開発だが、モーター駆動の難点でもあるコギングを解消するため、新たにコアレス方式を採用。磁石はコアレスのコイルを上下から挟み込む面対向式として、高いトルクと安定した回転を追求したという。
そして、モーター制御はBlu-rayディスクの回転制御技術を応用。ターンテーブルの回転数は、エンコーダーをレーザーで検出するが、エンコーダーは全周で539本配置され、0.67度の精度で回転数を検出できるという。
これにあわせてモーターを最適に回転制御し、常に安定したディスク回転を行なうという。このあたりの徹底ぶりは、ダイレクトドライブ方式を世界で初めて製品化したテクニクスならではだ。
ダイレクトドライブはモーターが直接ターンテーブルを回転させるため、モーターの回転数は低速。そのため、モーターのクセであるコギング(回転のギクシャクとした動き)が目立ちやすいわけだが、それを優れたモーターと高精度な回転制御で克服してしまったわけだ。
この弱点さえ解決できれば、ワウ・フラッターの少なさ(SL-1200GAEはワウ・フラッター0.025%)などで優れた性能を発揮でき、ゴムベルトの劣化などの影響もなく、しかもスタート時の回転スピードも速いなど信頼性の高さと使いやすさで優れるダイレクトドライブ方式にスキはない。
逆に言えば、これだけの開発をできるのは世界でもテクニクスだけとさえ思えるので、まさにオンリーワンと言えるレコードプレーヤーになったわけだ。
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