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富士通の導入事例、最新版の機能強化ポイント、Slack統合のAIエージェントなども紹介

AIエージェントを実装フェーズに、Salesforceが「Agentforce 2.0」を国内で披露

2025年01月31日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 AIをめぐる話題の中心が、現在、急速に「生成AI」から「AIエージェント」へと移りつつある。

 Salesforceは、2024年9月の年次イベント「Dreamforce 2024」において「Agentforce」を発表。そのわずか3カ月後に(12月)には、最新版の「Agentforce 2.0」を発表するなど、他社に先駆けてこの分野を開拓している。2025年1月29日、セールスフォース・ジャパンがAgentforce 2.0の詳細に関する記者説明会を開催した。

セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏、セールスフォース・ジャパン プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャーの前野秀彰氏

AIエージェントは「実装フェーズに入っている」

 Agentforceは、業務の内容を理解したうえで推論を行うことにより、従来のチャットボットを超えた複雑なタスクを、人間の介入なしで行うAIエージェントだ。サービス、マーケティングといった業務ごとのエージェントがあり、Salesforceプラットフォームを基盤に動作する。

 ユーザーが自然言語で質問すると、AIエージェントは質問の内容に沿って最適なトピックを選び、事前に設定されている指示(プロンプト)に従ってアクションを実行、結果を回答する。

Agentforceの仕組み(カスタマーサービスの例)。「注文した商品はいつ届きますか」という顧客の問い合わせから、AIエージェントはトピックが「注文管理」であると自律的に判断し、事前設定された指示に従いながら、実行できるアクションの1つ「注文状況の確認」を実行。そこで得たデータに基づき、回答を生成する

 SalesforceではAIエージェントを、予測AI、生成AIに次ぐ“AIの第3の波”と位置付け、開発や機能強化に注力している。その意気込みをうかがわせるのは、同社のマーク・ベニオフ氏(共同創業者兼CEO兼会長)がAgentforceの発表時に打ち出した、「2025年末までに10億のAIエージェントを立ち上げる」という目標だ。生成AI分野においては、宿敵であるMicrosoftがOpenAIと提携し、「Copilot」も早々にリリースしてリードを見せたが、AIエージェント分野においては、Salesforceが先手を打った格好となっている。

 説明会で登壇したセールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏は、Agentforceに対する顧客の反応として「2024年10月に一般提供を開始したあと、1週間で200件を超える契約をいただいた。12月末時点で、有償ライセンス数は1000件を超えている」と胸を張る。

 Salesforce自身も、すでにヘルプサイトでAgentforceのAIエージェントを導入している。製品やサポートの情報を提供する同サイトには、74万件以上のナレッジ記事が掲載されており、問い合わせは週平均3万2000回、年間で6400万回ものアクセスがあるという。

 AIエージェントの導入以前は、週におよそ1万件の問い合わせを人間の担当者にエスカレーションしていたが、導入によってその数はおよそ5000件に減った。このAIエージェントは構造化データと非構造化データを活用しており、従来のボットと比較した性能は2倍だという。

 国内でAgentforceを導入した1社が富士通だ。具体的には、同社が扱うSalesforceのサポートデスクにおいて、Agentforceで開発したAIエージェントが稼働している。

富士通 Global Business Applications事業本部 Salesforce事業部 シニアディレクターの山﨑洋輔氏

 説明会にゲスト登壇した富士通の山﨑洋輔氏は、「対応件数の増加」と「対応品質の維持/向上」がAIエージェント導入の目的だと説明した。パイロット検証で従来の「Einstein Bot」と「Agentforce for Service」を比較したところ、Agentforceによって問題解決までのやり取りの回数を削減できるなどの効果が確認できたという。

 山崎氏は、Agentforceの利用を通じて得られた気づきとして、「「AIに任せる業務の選定やROIの把握」「繰り返し応答内容の評価や実装を改善」「データ品質のためのチューニング、DataCloudやベクトルデータベースの活用」の3つが重要だと述べた。

 富士通における成果の発表を受け、三戸氏は「AIエージェントは『実装フェーズ』に入っており、国内でもその動きは着実に進んでいる」とまとめた。

Agentforce 2.0の新機能

 12月に発表されたAgentforce 2.0では、AIエージェントのスキルライブラリ、推論とデータ検索が強化されている。

 スキルライブラリは、Agentforceが備える事前作成済みスキル群である。スキルとは「トピック」「指示」「アクション」「チャンネル」をそれぞれ定義したもので、「セールスデベロップメント」「セールスコーチ」「カスタマーサービス」といった、SalesforceやTableau、Slackなどに対応するスキルがそろっている。これを利用することで、迅速にAIエージェントが構成できるという。

 たとえばSAP、Oracleといった、Salesforce以外のワークフローについても、MuleSoftが備えるコネクタを介して対応する。セールスフォース・ジャパン プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャーの前野秀彰氏は、「これによりAIエージェントがより多くのことを行えるようになる」と説明する。

Agentforce 2.0では事前作成済みのスキルを提供する

 推論とデータ検索の処理については、同社の「Atlas」推論エンジンと「Data Cloud」の高度化によって強化されている。

 推論処理の強化ポイントについて、前野氏は「熟考モード」を強化したと説明した。推論には、質問の複雑性が低く対話を優先する「直感モード」、質問の複雑性が高く回答の完全性が求められる「熟慮モード」という2つのモードがあり、今回は後者を強化したという。

 「熟慮モード」強化のため、Salesforce Researchで行われている高度なRAGや推論技術の研究成果を取り入れることで、メタデータで強化したインデックスによる高度なRAGの利用が可能となった。回答に対してはインラインで引用元を記載することで、信頼性や透明性を確保する。

 これらの強化により、「AIエージェントがより深く、正確に行動できるようになる」と前野氏は説明した。

推論を2つのモードに分けて説明した

Agentforce 2.0では、インデックスや検索の強化により、AIエージェントの回答がより正確になるという

Data Cloudにより推論エンジンAtlasを強化する

 Agentforce 2.0のもう一つの目玉が、SlackにAgentforceを導入できる「Agentforce in Slack」の機能だ。SlackのメッセージやチャネルにAIエージェントを呼び出し、業務をサポートしてもらうことができる。

 披露されたデモでは、休暇中に特定の顧客企業との間で起きていたことのサマリをAIエージェントが作成。さらに、休暇中に開催された顧客とのミーティングの内容から、次回のミーティングに向けた準備を、アカウント洞察を専門とするAIエージェントを使いながら行った。AIエージェントはCRM、Slack内の会話、やり取りされた資料などを参照し、製品を専門とする別のAIエージェントに引き継ぐことを提案。製品専門のAIエージェントが顧客の課題に対する解決策を提示するといったことを行った。

 Agent in SlackはSlackの有料プラン向けとなり、Agentforceライセンスを追加することで利用できる。同日より提供を開始した。

Slack内でAIエージェントを呼び出すデモ画面より。不在中に起こったことを、“顧客インサイト専門家(Account Insights Expert)”のAIエージェントに尋ねた

AIエージェントは、より適格と思われる“製品専門家(Product Specialist)”AIエージェントを使うことを推奨した

AIエージェントはcanvas作成スキルを持ち、Tableau Semantic Layerにアクセスできるため、算出した顧客のROIを可視化したものなどをcanvasに作成した

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