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「よくないスタートアップ」が伸びた理由 労務管理で中小・ベンチャー企業を支えるSmartHR

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社労士や税理士との連携でシェア拡大目指す

 SmartHRのサービス利用料は、5名未満の企業で1か月あたり980円。従業員数が増えるに従い料金が加算される仕組みだ。煩雑な手作業が瞬く間に完結すると思えば、それでも相当安いという印象を受ける。

 宮田代表は今後のシェア予測について、「従業員を雇う限りは雇用保険、社会保険に加入する必要があるので、すべての企業がターゲットになる」と考えている。しかし、クラウドへの抵抗から導入に二の足を踏む企業があることも事実。シェアを拡大するためには、「社会保険労務士や税理士と協力関係を築きたい」と語る。

 そもそも宮田代表がSmartHRを開発したのは、「社労士を雇えるコストのない企業でも社会保障制度を有効利用できる世の中になって欲しい」という思いから。社会保険労務士と競合しようという考えは一切ないという。実際に導入企業のなかには、SmartHRと社労士を併用するところも多い。こうした場合には、社労士にとってもメリットが大きいそうだ。

 「社労士の中心業務は比較的単純な『手続き系』と相手企業の実情を知らないとできない『相談業務』の2つ。社労士側はアウトプットがすべて同じになってしまう『手続き系』の業務は減らしたいと考えている。一方、相談業務は、例えば企業の中で労使問題が起きたときに解決に導いたりと、コンサルティングを行うものなので、社労士さん個人個人のバリューを出すことができる」(宮田代表)

 宮田代表は、社労士がSmartHRを介して顧問先の情報を閲覧することで、離職率の改善や労働時間過多、労使紛争など、企業が抱える多岐の問題に対して積極的に提案ができるようになると考える。

 2016年1月には、社会保険労務士の視点からSmartHRの導入をサポートする「社会保険労務士法人スマートエイチアール」を設立したばかり。SmartHRでは、今後社会保険労務士向け機能の提供なども予定している。

経営者や人事担当者を労務管理の煩雑さから開放したい

 アクセラレータープログラムを契機にビジネスが成功したKUFUだが、飛躍した理由は2つあると思われる。1つ目は、徹底したユーザーヒアリングを行い、顧客のニーズを忠実につかみとろうとする姿勢。2つ目は、この分野における最適な人材を採用し高い開発力につなげている点だ。

 まだサービスは始まったばかりで、今後はビジネス的な拡大も見せつつ、一方で同様のバックオフィスに関連した企業がライバルとして労務のクラウド化を進める可能性も当然ある。宮田代表は、労務管理クラウドの将来をどう見ているのか。

 まず、2016年3月に追加される予定の電子申請については「ものすごく国の方も積極的だなというのを感じている」とのこと。管轄である総務省、厚労省も、電子申請システムの運営に関しては改善の余地が大いにあると認識しており、外部連携APIを使用するユーザーに対して積極的にヒアリングを行っているそうだ。

 また、KUFUはSmartHRの副産物であるe-GovのRuby対応インターフェース『Kiji』をオープンソースとして公開しているが、そうした動向にも行政側からの注目を感じるという。こうした国の姿勢は、今後の労務管理のデジタル化を推し進める流れとなるに違いない。

e-GovのRuby対応インターフェース『Kiji』はGitHubで公開されている

 「まずはこの6月、7月。算定基礎届や労働保険の年度更新など、年に1回行わなければいけない申告について対応していきたい。次に、産休・育休・傷病手当金に関する手続きの機能。現在は従業員の各種社会保険加入手続きを便利にするというコンセプトで開発しているが、今後は給付についての機能を追加していきたい。そして社労士向け管理画面の開発。これらをすべて、時期をみて対応していく」(宮田代表)

 海を隔てたアメリカには公的な社会保険、雇用保険は存在せず、健康保険は各企業が保険会社から購入する仕組みで、中小企業では社員の多くが勤務先を通じて健康保険に加入する。こちらでも手続きが煩雑になるため、加入手続きを代行するZenefitsというスタートアップが業績を伸ばしており、2015年のスタートアップ成長率ランキングでもUberの次点を確保した。海の向こうの現状からも、社会保障手続き代行サービスの市場は日本でも伸びる可能性を秘めていることが推測できる。

 「産休や傷病手当金の手続きは会社が対応してくれない場合、自分でやらざるを得ないが、病気でそれどころではないのに、これをやるというのは本当に大変なこと」(宮田代表)。

 宮田代表は、実際に自身が大病を患った際、社会保険の傷病手当金に助けられるという経験をしている。また、産休の書類申請でとても苦労する夫人の姿も見た。だからこそ、社会保険労務士を雇うことができないような小さな企業にもこのすばらしい制度をフルに活用してほしいと願う。経営者や人事担当者など企業のコアとなる人材を、労務管理の煩雑さから開放したい。従業員すべてが本来の業務に集中できる環境を、安心して働ける社会を。そんな未来をSmartHRが切り拓いていく。

●株式会社KUFU(クフ)
2013年1月創業。当初はBtoBでの営業マッチングの仕組みなどを事業として模索。Open Network Labの参加などを経て、労務管理クラウド『SmartHR』を2015年11月に立ち上げる。
社員数は2016年2月時点で8名。1月27日には、East Ventures、DGインキュベーション、Beenextの3社を引受先とする第三者割当増資を実施したばかり。今後も、サービスの成長に合わせて人員採用を強化する予定。

■関連サイト
株式会社KUFU
SmartHR

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