米マイクロソフトの前CEOであるスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏が、2014年8月19日、自らの引退について、サティア・ナデラ(Satya Nadella)CEO宛てメールの内容を公表した。
バルマー氏はボードメンバーから退任し、今後は経営には関与しないことを明らかにし、マイクロソフトから完全に身を引くこと示した。だがその一方で、株式は保有し続けることを明らかにしている。
またバルマー氏は、NBAのロサンゼルス クリッパーズのオーナーとなることも明らかになっており、これもマイクロソフトのボードメンバーから退任する理由のひとつとしている。
バルマー氏は、2月の退任発表当日以降、社員の目の前にはほとんど姿を表さなかったが、7月に米アトランタで開催された社員総会「MGX」に招待され、久しぶりに社員の前に姿を表した。
このとき、全世界から参加した1万2000人の社員からスタンディングオベーションで迎えられたという。
多くのスターエンジニアを生み出す
スティーブ・バルマー氏の口癖は、「Windows、Windows、Windows」だった。これが転じて、デベロッパー向けイベントの基調講演では、「Developer、Developer、Developer」と発言することもあった。
とにかく、講演での迫力は、マイクロソフトの中でも随一。いや、IT業界全体を見回しても圧倒的だった。
どこに行っても、そのタフネスぶりには驚かされた。
精力的に全世界を駆け回り、日本への滞在もわずか1日だったということも少なくない。それにも関わらず早朝からのジョギングは欠かさなかったという。
一方で、自らが技術畑出身ではないバルマー氏のCEO時代は、その裏返しとして、多くのスターエンジニアを生み出すことにもつながった。
これはビル・ゲイツ氏がCEOを務めていた際には見られなかった現象だったともいえる。エンジニアとしてのゲイツ氏が持つイメージが根強く残っていたからか、それ以外のエンジニアにはなかなかフォーカスが当たらなかった。
だが、バルマー氏のCEO時代には、ビル・ゲイツ氏の跡を継ぐ形で、チーフ・ソフトウェア・アーキテクトに就任したレイ・オジー(Ray Ozzie)氏は、クラウドビジネスへの転換を提案。マイクロソフトがクラウドビジネスにぎりぎりのタイミングで参入できたのも、オジー氏の貢献が大きい。そして、Windows 7の開発を指揮したスティーブン・シノフスキー(Steven Sinofsky)氏は、それまではスケジュール通りに製品化できなかったマイクロソフトの悪い体質を払拭。タブレットを視野に入れた新たなOSの開発に成功した。
そして、今年2月に新たにCEOに就任したナデラ氏もエンジニア出身。検索サービスやサーバービジネスなどで成功を収めた成果が評価されている。
その一方で、バルマー氏のCEO退任は、いみじくも、バルマー氏が語っていた「Windows、Windows、Windows」という体制から、マイクロソフトが脱却することを示すものだったといえるだろう。

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