ハイクオリティーな音色をシンプルな画面でEditしていく
全体的なデザインは、とにかく無駄なくシンプルなものに仕上がっています。演奏用のパッド部分を広く取った画面配置で、少々味気ないとさえ感じるほど。まずは左上の「Sound」メニューをタップし、「Change Instrument」から好みの音色を選んでみましょう。
試したい音色がある程度決まっているなら、「Category」から選ぶと目当ての音は探しやすいと思います。一通り試しながら気に入ったものがあれば、左下の「Edit」をタップし、「Save Preset」でどんどんUserプリセットに保存していくとあとで便利です。
基本的なプリセットは45音色ですが、Sonosaurusのサイトからダウンロードすることで、無償で追加していくことができます。民族楽器からシンセドラムまで幅広い追加音色とリズムループが用意されているので、物足りなく感じたらその都度追加していくのもいいでしょう。
音色を決めたら、#と♭の並んだアイコンをタップしてみましょう。C~Bの半音階のメニューが出現。ここで調性を選び、Soundメニューの「Change Scale」で音階を選択していきます。このChange Scaleが物凄く凝っていて、基本的な音階だけでなく、Jazzスケールやモード、さらには民族音楽の音階までを徹底的にカバーしています。
音階の勉強にもなりますし、着想に迷ったときに、使ったことのないスケールから新しいアイディアを得られるかもしれません。選択したスケールは8つまでプリセットすることができます。
左から2つ目のペダルのアイコンでは、サスティンペダル(ピアノにある音を伸ばすペダル)の役割を手動で切り替えられます。ダブルタップでSustain/Sustain Lockのバーが表示され、バーに触れている間は音を伸ばせます。Sustain Lockで音を伸ばしっぱなしも可能ですが、過剰に負荷をかけるとエラーの元にもなってしまうので気をつけましょう。
左から3つ目のアイコンでは音色の繋がり方を3段階で調節します。通常はStepモード(階段型)ですが、一度タップするとGlideモードになり、弱いポルタメントがかかります。少し滑らかに自然なスライド演奏のようにつながります。さらにタップするとContinuumモード。表示される音階の境目が消え、擦弦楽器のように音のつながりになっていきます。
Continuumモードは非常に癖が強いので使いこなすのは難しそうですが、シンプルにノイズパッド的な使い方をするのも面白そうです。
左から4つ目のアイコンでは、タッチパッドを上下2段に増やせます。上下それぞれに個別のKeyとScale、SpanとOctを設定でき、通常では考えられないような広範囲に渡るフレーズ作りもできますね。
左から5つ目のアイコンは、セカンドインストゥルメントの設定です。簡単に言うと、ワンタッチで裏に回してある別の音色パッチに切り替える為の機能。タッチパッドを上下段に分けている時は上段に1、下段に2を割り振ることができ、鍵盤楽器の二段積みを擬似再現するのにも使えます。
右上にはループレコーディングの機能がまとまっています。「Loop」メニューでテンポを設定し、メトロノームを鳴らしてフレーズを録音。楽器を切り替えて新しい演奏をどんどん重ねていけます。またiPad内蔵マイクでの録音も可能で、オーディオデータとMIDIデータを共存させて重ねていくこともOK。作成したデータはミックスしてWAVデータとして保存しましょう。
ただしMIDIデータとしての編集はできません、常にライブ録音で重ねていくだけの、アイディアスケッチ程度に使うのがいいかもしれないですね。
音色の作りこみは主に左下のEditメニューからとなります。「Effect」ではReverbとDelay、Lowpass filterの調整ができ、「Control」ではタッチパッドのレスポンスやiPadのティルト機能で何をコントロールするかの設定ができます。
「Sample」からは選択中のプリセットの音色波形、音の立ち上がり、伸び、つながり方や揺れの調整ができます。Sampleメニューに関しては適当にいじるわけにはいかない部分。EffectやControlについてはオンオフの仕方だけでも把握しておくとベターです。
右下の「Preferences」ではWi-Fiを使ったPCとの連携や、作成したLoopの書き出し、他で作成したAudioデータの読み込み、MIDIやBluetooth機器のセッティング、ThumbJamのオプションといった全体の機能設定ができます。
アイディアが使いこなすカギとなる
総括すると、ハイクオリティーな音色ライブラリを、鍵盤という既成概念にとらわれることなくいかに使いこなせるかでこのアプリの良し悪しは変わってきそうです。Loop/Recording機能は他のアプリと比べても特筆する点はないと言えます。ティルト機能を活かしたヴィヴラートやパンニングなども、いざ外部MIDI機器などを接続してしまうと蛇足に感じてしまうことも。
アプリとしての面白さを活かすためにはiPadで使いたいところ。ですが、フィーリングに任せたスワイプ演奏でなく、質の高い音色を活かして堅実な演奏をするにはやはり鍵盤の方が楽なのは事実であり......。微妙なジレンマを抱えてしまいました。
キーやスケールのセッティングも便利なのですが、そもそも音階自体を把握していればあえてパッド上で使用する音数の制限をかけながら演奏することもないです。音色切り替えのメニューをライブステージなどでも使いやすいように拡大表示したり、XY軸のコントロールパッド画面なんかが用意されていたら、また別の使い方ができるかなと。
とはいえ音色の出来とエフェクトなども含めた作り込みの幅広さは素晴らしいので、使う人のアイディア次第で大きく化けそうな気がしたThumbJamでした。
藤村 亮(ふじむら りょう)
1981年埼玉県生まれの音楽家。2006年にバンド"AciD FLavoR"の7弦ギタリストとしてメジャーデビュー。2008年にベルギーのインディーズレーベルと契約を交わし"Ryo Fujimura"としてソロ活動を開始。ヨーロッパ最大の日本文化イベント"JapanExpo"や各国で行われるJ-Musicイベントなどにゲスト参加。2012年からは活動の幅をメキシコにも広げ、3度に渡るライブツアーを行なう。2013年4月、ロックバンド"流天"を結成。ヴォーカルとギター、作詞作曲を担当。愛用のIbanez製7弦ギターを手に世界を渡り歩くロックジプシー。
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