20回以上も作り直して
まともに動かなかった!
「IXP200」は元々、IXP150/200/250の3つのラインナップを持つことになっていた。どれもA-Link(PCI)で接続されることに差はなく、スペックを見ると下表のようになっている。
| IXP200シリーズ スペック表 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| IXP150 | IXP200 | IXP250 | ||||
| IDE | UltraATA 33/66×2 | UltraATA 33/66/100×2 | UltraATA 33/66/100×21 | |||
| USB | 1.1/2.0×6 | 1.1/2.0×6 | 1.1/2.0×6 | |||
| Audio | AC'97 | AC'97 | AC'97 | |||
| LAN | 10/100BASE-T MAC | 10/100BASE-T MAC | ||||
| その他 | DMI, MBA, ASF, WOL | |||||
ネットワークについては、当時ビジネス向けに高いシェアを誇っていた3COMから10/100BASE-TのMAC(論理層)のIP(回路)を購入、これを統合しており、ここに10/100BASE-TのPHY(物理層)のチップを外付けすることで利用できるようになっていた。
IXP200シリーズ3製品の違いを説明すると、ベースになるのは「IXP200」で、ここからUltraATA 100のサポートとLANを抜いた低価格向けが「IXP150」。一方DMI(Desktop Management Interface)、MBA(Managed Boot Agent)、ASF(Alert Standard Format)、WOL(Wake-on-LAN)といった、「ビジネス向けに、ネットワーク経由でマシンの管理を行なうための様々な機能」をサポートしたのが「IXP250」である。元々これらの機能は3COMのLANコントローラーに搭載されているもので、ここからビジネス向けの機能を削除したのが「IXP200」といえる。
では、IXP200シリーズのなにが黒歴史だったかというと「まともに動かなかった」に尽きる。連載43回でも触れたが、ATI自身が「使ったUSBのIPがMickey Mouseだった」(サウスブリッジに組み込むために外部の会社から購入したUSBコントローラーが屑だった)と言うほどだから、壮絶に酷かったらしい。
もっとも酷いのはUSBコントローラーだけでなく、AC'97 AudioやIDEについても問題は頻出した。この頃ATIはIXP200シリーズを20回以上も作り直している。最近だとインテルがHaswell向けのIntel 8シリーズを作り直した話を連載201回ばかりだが、これを20回以上もやったわけだ。
加えて言うなら、実績と安定性を求めてわざわざ3COMから購入したはずのネットワークでも問題が出ており、これはもはや個別のIPの品質だけでなく、それらを繋ぐ全体の設計にも著しく問題があったと考えざるを得ない。要するに経験不足がモロに出たわけだ。
なぜこのようなことが起きたかというと、基本的にノースブリッジとサウスブリッジでは、まったく異なる技術が必要になるからだ。ノースブリッジは高速ロジック回路(メモリコントローラー)と、高速/低電圧のI/O(FSBやAGPなど)で構成されるのに対し、サウスブリッジでは低速/高電圧のI/O(RS-232CやIDEとか)がメインとなる。
したがって利用するプロセスも異なるものになり、回路の設計方法も変わってくるうえ、製造方法も異なる。ATIはグラフィックには長い経験があり、これは高速デジタル回路で構成されるから、これと同じ流儀で行けるノースブリッジはそれほど難しい話ではなかったが、サウスブリッジは明らかに未知の世界だったようだ。
大体、こうした回路が一発で動くというのも珍しいが、10回を超える作り直しをするのも珍しい。20回というとそろそろ記録的な数字であり、「どうやって直したらいいかわからないので、とりあえず作り直してみた」的なやけくそ状態に陥っていたのではないかとすら思う。
その結果どうなったかというと、2002年後半に「RADEON IGP 300」シリーズを搭載したマザーボードが出荷され始めたが、なんとこの際にATIはノースブリッジだけを出荷。マザーボードメーカーはこれにALiの「M1553D」やVIAの「VT82C686B」といった、定番サウスブリッジを組み合わせて使うことになった。
こうやって時間を稼いで、その間にIXP200シリーズの完成度を高めようという目算であり、その発想そのものは間違っていなかった。しかし、当初2002年9月以降に出荷といわれていた「IXP200」搭載マザーが市場に出回るようになったのはなんと2003年末、上位モデルの「IXP250」に至っては2004年に入ってからとなった。
IXP200シリーズの製造プロセスは発表されていないが、当時の状況を考えれば0.25μm~0.35μmあたりだろう(ノースブリッジは0.18μmで製造)。このあたりのプロセスなら、「特急」を選べば2週間くらいで製造が可能であったはずだが、それでも20回も繰り返せばそれだけで1年は軽く費やす計算になる。当初予定から1年以上も遅延するのは当然のことだし、そして1年も経過するとすっかりスペックが古びるのも当然のことだ。
ATIは「IXP200」に続いて、UltraATA 133のサポートやSATAポートの追加を行なった「IXP300」も並行して開発していたが、「IXP200」すらまともに動かないのに「IXP300」が動くわけもない。
結局ATIはIXP200シリーズの改修を途中で放棄、USBコントローラーやIDEコントローラーを別のものに入れ替えて作り直した「IXP210」や「IXP320」といった、微妙に型番が上がった別のサウスブリッジを作り、これを「IXP200」や「IXP300」として販売することで、やっとサウスブリッジの供給がまともに始まるに至る。
ただこの作り直したサウスブリッジも、「負荷を掛けるとふざけたことをする」だの「ドライバの動きがおかしい」だののトラブルが引き続いており、結果として多くのマザーボードベンダーは相変わらずALiやVIAのサウスブリッジを使って製品を構成することを好んだ。こうした流れがなくなるのは、チップセットの接続にALink Express(要するにPCI Express)を採用するようになった「SB400」以降である。
もっともALink Expressになったからといって急にサウスブリッジの品質が良くなったわけではなく、筆者もずいぶん「SB400」には泣かされた記憶がある。AHCIドライバを入れるとブートしなくなる、SATAでRAID0を組むとシングルドライブより性能が落ちる、突然RAIDからブートできなくなるなど、とにかくSATA周りがひどかった。そうしたATIのサウスブリッジの品質の悪さの源泉にあたるのが、この「IXP200」であった。
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