今回はSiSつながりということで、同じSiSのチップセット「SiS630」について説明しよう。この製品は、SiSの凋落の第一歩を刻んだ製品と言える。
連載193回で紹介したとおり、SiSはほとんど消滅寸前に追い込まれている感が強いが、そもそも1980年代~90年代初頭は、互換チップセットベンダーのトップがこのSiSであった。その後、チップセットベンダーの合併吸収撤退が行なわれて、2000年頃には御三家(VIA、ALi、SiS)に一旦は収束したわけだが、ここで一番勢いが良く、未だにまともに生き残っているのはVIA Technologyだけである。
もちろんこうなった理由には様々なものがある。SiSの場合は、自社ファウンダリー(半導体の製造事業者)の所有と、その際にUMCから大量に人と特許を引き抜いたというあたりが現状に至る最大の要因だ。
副次的な要因としてインテル/AMD共に自社でチップセットをまかなう方針を固めたうえ、GPU統合がごく一般的になった結果として差別化が難しくなったことである。ただ、現状に至る過程の中で最初につまずいたのは「SiS630」であろう。
ワンチップ化に注力した
SiS630
時期は1999年に遡る。この当時のCPUはまだSlot 1タイプのPentium II/IIIとCeleronが混在しており、これに続きPGA370タイプのPentium IIIがまさに投入されよう、という時期である。一応AMDからはSlot AのAthlonも登場していたが、シェア全体としては明らかにインテルの方が大きい。
このマーケット向けのチップセットとしては、メインストリームにはインテルの名作といわれたIntel 440BXが控えており、トラブルは少ないわオーバークロックにも耐えるわ性能もいいわで、ここに関しては互換チップセットベンダーの立ち入る隙はなかった。
ところがバリュー向けであるIntel 440EXや、その後継であるIntel 440ZXに関しては、所詮はIntel 440BXの機能削減版なので機能が限られおり、またグラフィックを統合していないので結果として高コストになるといったことから、あまり広く使われるには至っていなかった。
このマーケットに向けてSiSは「SiS620」をリリースした。性能はともかくとして一応SiS6326というグラフィックコアを統合し価格をかなり引き下げたことから、バリュー向けにはそれなりのシェアを獲得していた。
1999年は、プラットフォーム変革の年でもある。マイクロソフトが提唱したPC99(関連サイト)に合わせる形で、レガシーフリーを進めることが求められた。具体的に言えばISAバスの追放や、周辺機器の接続に従来のシリアル/パラレルに代わってUSBを使うことがこれに該当する。さすがにいきなりシルアル/パラレルを全廃するのは無理なので、これは引き続きマザーボードに残されたが、ISAバスに関しては廃される方向になった。
このPC99に合わせてインテルが投入したのがIntel 810チップセットである。HubLinkという独自インターフェースを最初に投入した製品であり、さらにIntel 740のサブセットではあるが、グラフィックコアをチップセットに内蔵した最初の製品でもある。
SiSも同様にPC99に準拠したチップセットを求められたが、これまでグラフィックを内蔵することで差別化を図っていたのが、Intel 810相手だとそれが出来なくなってしまった。そこで、以下の形で差別化を図ろうと目論んだのが「SiS630」である。
- グラフィックコアをSiS6326からSiS300に改善
- USBインターフェースを内蔵
- ワンチップ化
この中で特にSiSが力を入れたのは、ワンチップ化である。当時のプレゼンテーション資料を見ると、“Think Integration, Think SiS”とまで言い切っているあたりに力の入れようがわかる。
統合のメリットや、統合製品の特徴のプレゼンテーションを見ても、これはわかる。あくまでバリュー向けの製品だから、絶対性能よりもむしろ性能/価格比が問題なのであって、こうしたマーケットでIntel 810に勝つためにはこのワンチップ化が最大の武器になる、と同社は考えたようだ。といっても当時の製造技術ではまだノースブリッジとサウスブリッジを完全に一体化は出来ない。そこでノースブリッジのダイとサウスブリッジのダイをパッケージ内で結合するという形で実装している。
そのSiS630の構成図が下の画像である。当時のPCに必要とされるインターフェースをすべてワンパッケージの形で提供しており、マザーボードの低価格化に貢献できるはずだった。実際はどうかという話はまた後にして、少しシリーズ展開の話をしておきたい。
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