CPU/GPUに続き、今回からは黒歴史入りしたチップセットを掘り起こしていきたい。初回は、記憶に残っている人も多いであろうIntel 820を取り上げよう。
Intel 820チップセットは、インテル初のDirect RDRAM対応製品である。このDirect RDRAMにまつわる話は連載28回と、連載100回でも説明したが、改めてまとめておきたい。
Direct RDRAMの標準化を目論む
インテルとRAMBUS
そもそも、なぜインテルはIntel 820の開発にあたりRAMBUS社と手を組んだのだろうか。これはいくつか理由が考えられる。技術的には、SDRAMのままでは高速化する一方のCPUにメモリーの帯域が追いつかないため、大きく引き上げるべき技術が必要だった。
SDRAMのPC-133は、1チャンネルあたりの帯域が1.06GB/秒ほど。2チャンネルで2.1GB/秒になるが、2チャンネルという構成は価格面でユーザーに受け入れられないとこの当時は考えられていた。実際にはそんなことはなく、Pentium 4の時代になるとメモリーは2チャンネルが当たり前になってゆくのだが、これは後知恵でしかない。そこで選択肢としてこの当時あったのが、DDR-SDRAMとDirect RDRAMである。
DDR-SDRAMの場合、DDR-200で1.6GB/秒、DDR-266で2.1GB/秒の帯域がそれぞれ利用可能となる。一方のDirect RDRAMは、PC-800モジュールで1.6GB/秒、PC-1066モジュールで2.13GB/秒となり、こと帯域に関する限りはどちらを選んでも差がない。このことから、Direct RDRAMを採用した理由は技術的なものではない。
Direct RDRAMを採用した理由の1つは政治的な問題だ。インテルは自社で標準化を握ることを非常に強く好む会社である。これはメモリーの規格にもいえることで、SDRAMでは標準化にそれほど関与できなかったために、SDRAMの次に関しては積極的に自社で関与したいと考えていた。ただ、当時のインテルはそこまでメモリー技術に深く知見や経験があったわけではなく、こうした技術に堪能な会社とパートナーシップを結ぶことを考えていた。そう考えると、RAMBUSとパートナー契約を結ぶのは非常に理に適っている。
DDR-SDRAMはJEDECで標準化のプロセスを踏んで開発が進んでおり、そこにインテルが標準化をハンドリングできる余地はほとんどどなかった。ということは、JEDECでDDR-SDRAMの標準化が完了すると同時に、この標準化に参加していた多くのベンダーから一斉に製品が出ることになる。これでは「先行して標準化の策定を行ない、いち早く対応製品をリリースすることで早期にマーケットシェアを獲得、ここで利益を稼ぐ」というインテルの標準化に関するビジネスモデルが通用しない。
なにしろDirect RDRAMは、大口の採用がインテルとソニー・コンピュータエンタテインメントくらいしか見当たらないものだから、先行して製品を投入してこれがデファクトスタンダードになれば、早期に確実にシェアを握ることが可能になる。
もう1つの理由は、やや技術よりだ。インテルがRAMBUSに色気を出していたのは、RAMBUSの持つ高速信号伝送技術を自社でモノにしたかったという側面がある。インテルはこの当時、すでにロジック回路に関しては業界随一の経験と実績を積み重ねていた。ところが、高速な信号伝達技術やアナログ回路、RAS※1に関してはノウハウがかなり不足していた。RAMBUSはこれらのうち、高速インターコネクトの技術に関してはかなりの知識と特許を蓄積していたため、将来のインテル製品に必ず役立つという確信めいたものがあったのだろう。
※1 Reliability、Availability、Serviceabilityの略で、信頼性・可用性・保守性のこと。
一方のRAMBUSでは、Direct RDRAMのライセンス料やロイヤリティーの収入もさることながら、インテルとのパートナーシップによって、SDRAMの次にあたる一般的なメモリーの座を狙えるという夢を見ていたように思える。PC向け最大手であるインテルが全面的にDirect RDRAMに乗り換えれば、かなり確実にこの夢が実現することになる。かくして双方の思惑が一致、Direct RDRAMがPC向けに投入されることになった。その最初のチップセットがIntel 820というわけだ。

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