連載190回のIntel 820に続き、同じDirect RDRAMつながりということで、今回はSiS R658/R659チップセットを取り上げよう。
SiS(Silicon Integrated Systems)という企業そのものは、かろうじてまだ健在である(メーカーサイト)。ただ同社の売上は割とすごいことになっている。2009年度以降の売上高は以下のとおりだ。
SiSの売上高 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
年度 | 売上(台湾ドル) | |||||
2009年 | 37億6300万 | |||||
2010年 | 26億4000万 | |||||
2011年 | 14億100万 | |||||
2012年 | 4億7900万 | |||||
2013年 | 3700万(1月のみ) |
ラフに言えば、1台湾ドルが3.5円※1なので、2009年は130億円強の売上があったのが、以後毎年40億円づつ売上を減らし、2012年は16億円ほどにまで売上が減った計算だ。2013年1月の売上は1.3億弱で、12倍しても2012年の売上に届くかどうか、というところ。
※1 記事公開時は、円高の影響で3.1~3.2円になってる。
建前上ではまだ台湾証券取引所に上場している企業ではあるが、実質的にはUMC(United Microelectronics Corporation)の子会社である。そのUMCが28nmの移行に手間取っているのでは、UMCのデザインサービス会社の1つと考えて良いSiSの出番が減っていくのは致し方ないところだろう。
SiSは人材流出も激しく、主だったエンジニアがほとんど残っていないと聞いており、その意味では売上を立てるためのサービスそのものも、すでに十分提供できていないのかもしれない。
今回のチップセット黒歴史は、まだSiSがUMCに買収される前、ある意味絶頂期とも言える2002年頃のR658と、その翌年発表されたR659の話だ。チップセット誕生の経緯は連載53回で説明しているが、改めて解説しよう。
PC1200 RIMMが動作する
SiS R658
R658が公式に発表されたのは2002年7月のこと(WayBackMachineによるアーカイブ)。R658はIntelのPentium 4向けの互換チップセットである。ベースとなるのは、同社のSiS648で、これに2chのDirect RDRAMを接続できるようにした構成だ。実のところSiS648との違いはこれ“だけ”と言っていい。要するにメモリーコントローラーを自前のものからRAMBUS社のRAC(RAMBUS ASIC Cell)ベースのものに置き換えただけでしかない。
とはいえ、製品の素性そのものは良かったようだ。当時のSiSは自前のファウンダリー(半導体の製造事業者)を使って生産していたはずだが、このファウンダリーとRAMBUSのRACは非常に相性が良かった。公式にはPC800/PC1066のみのサポートとされていたが、これを搭載したAbit製マザーボード「SI7」は最大1200MHzの動作をサポートするとアナウンスしていた。PC800の場合でも合計帯域は3.2GB/秒、PC1066で4.3GB/秒であり、ハイエンドのPC1200では4.8GB/秒にも達する。
対してCPU側は、400MHz FSBの場合で3.2GB/秒、533MHz FSBでも4.3GB/秒に過ぎないため、PC1200ではやや帯域が余ることになる。この過剰分の帯域について、当時のSiSから「このゆとりを持つことで高い安定性を実現できる」という、なんというか非常に苦し紛れの説明を受けた覚えがあるが、これにはしっかりと理由がある。
まずSiS R658は、800MHz FSBのライセンスを受けていない製品である。SiSは当初400MHz、次いで533MHzのライセンスを受け、これに対応した形でSiS648を製造する。続いて800MHz FSBのライセンスも受けてSiS648FXを投入するが、あいにくSiS R658は前述のようにSiS648ベースなので、動作するしないはともかくとして、公式には533MHzを超える動作をサポートするとは表明できなかった。実際にSiS648は800MHz FSBで動作するであろうが、インテルのライセンスの縛りがあって、そうしたことの表明はR658に関しては不可能だった。
もう1つは、発表当時にはまだPC1200のRIMMがほとんど流通していなかったことだ。現実問題としてPC800/PC1066のみが流通しており、しかも高価なまま推移している状態だったため、PC1200の話をしても意味がないという事情もあった。
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